01:Let me defend you
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
寒いくらい冷房がきいた電車の中、夜戸明菜は、すぐ脇の手すりにつかまりながら、ドアの窓から流れる景色を、揺られながら茫然と眺めていた。
都会の中心というわけでもなく、通勤ラッシュの時間から2時間ほど経過したおかげか、車内は落ち着いている。
席もいくつか空いてるが、まばらだからこそ座る気にはならなかった。
電車がトンネルに入って窓に映る自身と目が合い、メガネがずれていることに気付いて、指で押し上げて元の位置に戻す。
ついでに白いシャツのボタンが一番上までボタンが留まっているか確認し、髪の小さな乱れも手ぐしで直した。
スーツは、ネイビーの生地にグリーンラインのストライプ柄のジャケットとパンツ、歩きやすいように数センチヒールの黒のパンプスを履いている。
(久しぶりに会うし…。…10…年ぶりくらい?)
ぼんやりとした表情で小首をかしげた。
(長いような、短いような…。そもそも、会ってもらえるかわからないけど…。あたしのこと、なんとなくでもいいから覚えてくれてるかな…)
ガラスに映る夜戸自身は、服装と、当時にかけていなかったメガネを除いては、さほど変化はない。
地毛である栗色の髪、セミロングの長さも変えていなかった。
額にかかる前髪を指先で正していると、目的の駅に到着した。
電子カードで改札を抜け、駅を出ると、夏の日差しに容赦なく照りつけられる。
近くの街路樹から蝉の声も聞こえた。
夜戸は、少し進んだ先のロータリーにある横断歩道で信号が青になるのを待つ。
車の横断は少なく、何人かは赤信号に構わず渡っていくのが、ケータイでマップを確認している間、目の端に映った。
町全体に響き渡るようなサイレンが聞こえる。
徐々にこちらに近づき、消防車と救急車、パトカーが何台か目の前を通過する。
通行人はざわつき、夜戸はケータイから顔を上げて消防車が向かった方向に振り向いた。
「焦げ臭いと思ったら…」
駅を下りた時から微かに焦げた臭いがしているのは気付いていた。
近くで火事が起きているとも知らずに。
ビルで隠れて見えないが、遠くの方で青空を背景に黒煙が上がっていた。
「また火事?」
「今度はどこだ?」
「最近多くねーか? 2日前もあの辺りで火事があっただろ」
「放火犯の仕業かもしれないってさ」
「ケーサツは何やってんだか。早く捕まえてくれよ」
信号待ちしている人達が黒煙を見上げながらざわめいていた。
中には、現場を直接見に行こうとする野次馬もいる。
各々が不規則に動くものだから、夜戸は通行人と肩がぶつかり、ケータイを落とした。
他の通行人に踏まれないようにしゃがんで拾い上げ、もう一度画面を見下ろして当初の目的の位置を確認する。
信号はいつの間にか青になっていた。
.