22:No time left for hide and seek
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螺旋階段ではなくなった白い階段をひたすら真っ直ぐに下っているはずなのに、上がっているのか下りているのかわからない、不明瞭な感覚に陥りかける。
振り返っても真っ暗で、下りてきた場所が見えない。
足立に託して残った森尾たちは戦闘の真っただ中だというのに、静けさに包まれていた。
空間が切り離されているようだ。
途中でY字型に分かれた階段や、天井を見上げれば逆さまの階段、よそを見れば先のなくなった階段もあった。
昔、美術の授業で使用した本に、こんな入り乱れた階段に似た絵画が載ってたな、と思い出す。
それでも、姉川の水のイルカは迷う素振りも見せず、足立の目の前を泳ぎ、夜戸がいる場所まで導いていく。
「!」
足が、床に着いた。
目の前には、1本の廊下が伸びている。
「この先だよ。夜戸さんが待ってる」
水のイルカを通して姉川が言った。
「……………待ってる…ね…」
姉川は、この先から感じ取った空気をそのまま口にしたのだろう。
地下であるはずなのに、廊下には窓がついていた。
懐かしい景色だ。
朝の優しい光に包まれた、無人のグランドや中庭が見える。
だとしたら、この廊下は。
廊下を進んで数分も経たないうちに、ドアの前に到着した。
『足立先輩』
両開きのドアの取っ手を握る前に頭の片隅をよぎるのは、筆箱やノートを腕に抱えて目の前の席に着いていた、かつての後輩の姿だ。
あまり感情を露わにしなかったが、いつも掛けてくれたその声は、どこか温かった。
自分の親の声よりも。
両開きのドアを開けた先は、母校の図書室ではなく、巨大な図書館だった。
ドームを思わせる広大な空間と、不規則に並んだ本棚、そして床に多数に散らばった本とブラウン管のテレビ。
本棚には、六法全書が隙間なくズラリと並んでいた。
「刑法130条、住居侵入罪ですよ」
奥から声が聞こえた。
歩を進めていた足立は呆れて思わず笑う。
「ははっ。ここは君の家なの? 刑法第35条、法令又は正当な業務による行為は、罰しない」
「刑事裁判の時、その刑法って本当に邪魔なんですよね。でも、あなたはもう警察官じゃないでしょう。正当行為にはなりませんよ」
「君だって…、今は弁護士のつもりないんでしょ?」
さらに図書館の奥へと進んでいくと、そこには、天井にも届きそうなほどの大量の六法全書が山積みされていた。
まるで積み木だ。
今にも雪崩が起きそうなバランスの悪い見栄えだが、1冊1冊がネジで固定でもされているみたいに高くそびえ立っている。
頂上から1冊の本が、足立の足下まで滑り落ちてきた。
「…かくれんぼは終わりだよ」
本から視線を上げた足立は、声をかけた。
すると、頂上から夜戸が姿を見せる。
足立はポケットにしまっていたものを取り出し、下から投げ渡した。
「!」
反射的につかんだ夜戸の手の中には、金色の弁護士バッジがあった。
夜戸の部屋に落ちていたものだ。
「忘れ物。…それとも、捨てた物かな?」
「……捨てた物ですよ」
目を細めた夜戸は、足立にバッジを投げ返した。
パシッ、と足立は片手で受け止める。
「その辺の放置が一番タチ悪いんだ。捨てるなら、迷わず、ちゃーんとゴミ箱に捨てなよ」
「先輩みたいにですか?」
夜戸は薄笑みを浮かべ、その場に腰を下ろした。
「今更、ゴミ箱なんて小さい枠に捨てなくたって、世界は一度丸ごと一掃されるからいいじゃないですか。足立さんだって、こんな世界、嫌いでしょう?」
「…ああ、大嫌いだね」
「無欲の世界なら、人に対する悲哀や憎悪もなくなって殺人や死刑…犯罪そのものがなくなる。逆に、欲望に満ちた世界なら、みんな欲望のままに行動して、鬱陶しい見せかけだけの秩序は完全に崩壊する。警察も檻も裁判も必要なくなるんですよ。あたしとしては、どちらでもいいんですけどね。どちらも、理不尽のない、わかりやすい世界でいいじゃないですか。足立さんはどっちが…」
言いかけたところを遮られる。
「世界が消えてなくなったとして、すでに死んだ人間が蘇るわけじゃないし、僕の背負った罪が消えてなくなるわけじゃない」
その言葉に、夜戸の薄笑みはゆっくりと消えていく。
足立は後頭部を掻き、続けた。
「こっちは、ムカつくガキ共に「償う」って約束したんだ」
「本気で言ってます? 子ども相手との約束でしょう」
「大人は嘘をついてもいいけど、約束は守らないとね」
そう言って小指を立てる。
「皮肉…込めて言ってますよね?」
無意識に、夜戸は声を低くした。
「君は、僕の弁護をするって言った」
「……………」
「約束したよね」
「ええ。だから、邪魔しないでください。あなたを現実から守らせてくださいよ。足立さんがどう言おうと、あたしは世界を壊します」
夜戸は、胸の赤い傷痕に触れた。
少し休めばマシになるかと思っていたが、時間が経過するほどズキズキと痛みが、傷痕の赤みが増している。
それでも、たとえ身が裂けてでも、つかみとらなければならない。
「ペルソナ…っ」
小さなうめき声を漏らしながらナイフを取り出し、刃先を足立に向け、頂上から飛び降りた。
「……君が、僕の現実とルールを壊すというなら…」
足立はリボルバーを構え、銃口を夜戸に向ける。
「止めるよ。何をしてでも」
.To be continued