22:No time left for hide and seek
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ゆっくりとした歩調で空間の中央へ向かう夜戸は、胸の赤い傷痕からナイフを取り出し、右手に握りしめる。
夜戸から視線を逸らさず、足立達は距離をとってこちらの出方を窺っていた。
夜戸は瞳を動かし、5人の中でひとりを選んで素早く振りかぶる。
「森尾君!」
姉川の伸ばした手が、すぐ傍に立っていた森尾のまとめられた髪をつかんで引っ張った。
「い゛!?」
グキッ、と首に痛みが走った瞬間、夜戸の投げたナイフが森尾の頭の横を通過した。
「ハズレ」
的を外れたナイフは床に落ちる前に空中で塵となった。
夜戸は胸の赤い傷痕に手を当て、再びナイフを取り出す。
「やっぱり、投げるのは苦手」
「次が来るよ!」
姉川は足立達に声をかける。
森尾は痛む首を擦りながらバールを構えて警戒した。
(夜戸さんは手持ちのナイフ1本だけ。量産して複数持つことはできない)
姉川は冷静に分析する。
二又の小型ナイフのように、何本も一気に投げつけらるわけではない。
イツを召喚しなければ接近戦は必至だ。
「足立さん!」
姉川が声を張り上げる。
同時に、カッ、と靴音が弾けた瞬間、足立の目前まで夜戸が接近した。
ナイフが足立の胸の中心を狙い、足立はリボルバーの引き金を引こうとする。
「!」
横からオノが投げつけられ、夜戸はナイフで弾いた。
宙を掻いたオノは、走り出した落合の手にキャッチされ、両手に握られジャンプとともに振り下ろされる。
ギン!
重い一撃だ。
ビリビリと手から腕に伝わる衝撃に高揚感を覚え、夜戸は「ハハッ」と笑った。
「前より、よくなってる」
刃の押し合いに持ち込まれるかと思いきや、背後に気配を感じた。
バールを振りかぶった森尾だ。
「どっちもね!」
「ぐッ!?」
落合の横腹を蹴り、半回転して森尾のバールを避けてわずかに屈み、ナイフを左手に持ち替えて右手のひらを突きだした。
パンッ
「ぶッ!」
森尾はアゴを思いっきり手のひらで突き上げられ、脳を揺らされる。
「ナイフに気を付けて!」
後ろで姉川の声を聞き、まずい、と思った時には、再び持ち替えられたナイフが振りかぶられた。
「ダメさ!」
「!?」
横から夜戸に硬い物がぶつかった。
甲冑を身に纏ったツクモだ。
夜戸は床に肩をぶつけるも、体勢を立て直してすぐに起き上がった。
横腹に鈍い痛みが残り、背中が少し丸くなる。
「2人とも!」とツクモは森尾と落合の心配をしつつ、苦しげな瞳を夜戸に向ける。
(そんなカオしないで…。苦しむことなんか何もない。全部終わらせるのだから)
夜戸の眉間に皺が寄る。
口元には笑みを貼り付けたままだ。
構えたナイフを右横に縦に振るった。
すると、空間に裂け目が作られ、足立達がここにくるまで何度も遭遇したシャドウが5体入り込んでくる。
落合が「シャドウ!」と声を上げた。
「ああやって招き入れたわけか」
納得した足立は、襲い来るシャドウをリボルバーの銃弾で撃ち抜く。
夜戸はシャドウの間を通って、戦闘中の足立に迫ろうとした。
「夜戸さん!」
声に振り返ると、姉川はクロスボウをこちらに向けていた。
矢が放たれ、飛んできたそれを夜戸は虫を払う動きで弾き落とす。
姉川に攻撃を仕掛けようとするシャドウは、森尾と落合が阻止した。
クロスボウは何度も撃たれ、夜戸の足下に突き刺さったり、脇を通過したり、動きは予測で来ているのに確実に当てようとはしていない。
姉川の手は震えていたが、間違ってもクロスボウを落とさないように両手で強く握りしめてた。
夜戸は、見なかったことにして目をつぶる。
「終わらせよう」
目を見開き、姉川に向かってナイフを振り上げた。
バン!
シャドウを切り抜けた足立の放った銃弾が、夜戸のナイフを弾き飛ばす。
夜戸の瞳がリボルバーを構えた足立の姿をとらえた。
「あああああ!!」
その隙を突き、姉川はツクモとともに夜戸の腰に飛びついて床に押し倒す。
夜戸は起き上がろうと抵抗するが、振り下ろされたバールとオノは、枷でもかけるように夜戸の首を中心に交差され、動きを封じられた。
床を滑ったナイフは消えていく。
「捕まえたさ!」
ツクモが腹の上にのる。
姉川は抱きついたまま離れない。
森尾達の呼吸は乱れていた。
正解の言葉を捜している。
足立の足音がこちらに近づいてきた。
「……………やればできるはずなのに…」
虚ろな瞳が真っ暗な天井を見上げ、小さな一言が姉川達の言葉を止める。
姉川、森尾、落合、ツクモの4人は違和感を覚えた。
「う…っ」
落合は急に左の前腕に走った痛みに呻く。
「なんだ…?」
森尾は右手のひらを見つめ、落合は右腰を手で押さえた。
「傷痕が…」
「痛いさ…ッ」
赤い傷痕が疼く。
じわじわとカサブタを剥がされる痛みと似ていた。
「ちがう」
ビシッ、と不吉な音が鳴った。
夜戸を中心に、大理石の床にヒビが刻まれる。
「離れて!!」
嫌な予感を察した足立が声を上げた。
「こんなの、あたしが望んだ結末じゃない!!」
ブワッ、と夜戸の身体から発された突風に突き飛ばされる。
「きゃあ!!」
夜戸を捕まえていた4人の体は吹っ飛ばされ、床に打ちつけられた。
「うぐっ」
「いたっ!」
煽る暴風に足立は踏み堪え、ゆらりと立ち上がる夜戸を見つめた。
夜戸は両手で胸を押さえ、汗を滲ませながら嗤っている。
「遊びは終わり…。ここから、あたしを殺す意気込みでこないと、全員死ぬよ? そもそも、あたしを殺さないと世界は終わる」
傷痕からナイフを引き出そうとする。
「みんな甘いね…。せっかく、ペルソナは使わずハンデをあげたのに、生身のあたしに遠慮なく使えばよかったのに…。よくも騙してくれたな、って怒りに任せればよかったのに…。欲望が暴走してた時なら躊躇なんてしなかったでしょ? 森尾君、空君、華ちゃん、足立さん、現実世界に大事な人がいるなら、世界の終わりを止めてみなよ…!」
立ち上がろうとする森尾達だが、その目に敵意が感じられない。
「どうして」と姉川は口にする。
「どうしてそんな悲しい事言うんですか!!」
「あたしは悲しくない!!」
この場にいる、赤い傷痕を持つ者の痛みは止まらない。
胸の芯まで届く痛み。
「無駄話したいだけなら、2度とこの世界に来なければいい。ゆっくり終わりを待てばいい! それでも嫌だと言うなら、あたしがみんなを消すだけ…!」
「ペルソナが来る…!」
姉川は禍々しい空気を感じ取った。
空間を飛び越えて襲いかかってきた、今の夜戸のペルソナだ。
胸の傷痕からナイフが引き出された瞬間に召喚されるだろう。
「おねーちゃん」
小さな影が、夜戸のジャケットの裾を引いた。
全員が驚く。
小学生くらいの少女が夜戸のすぐ傍にいたからだ。
「もういいよ。大丈夫…。月子が消してあげる」
月子は、あどけない笑顔を夜戸に向けてそう言った。
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