22:No time left for hide and seek
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雪が降りやむ様子はない。
これ以上積もる気もない細やかな雪は、肌や衣服に触れては水滴も残さず消えた。
薄い雪道には、5人分の足跡がつけられる。
道の脇には、ブラウン管のテレビが石ころみたいに平然と落ちていた。
映し出されているのは、ウツシヨの景色だ。
現実世界に設置された監視カメラの映像は、こちらにも筒抜けらしい。
ツクモに指示された方向に足立達とともに移動しながら、姉川はクラオカミの水のイルカを5体向かわせた数十分後、静寂な水面に一滴の雫が落ちたような反応をキャッチした。
「見つけた」
ツクモが指示してくれなければ、数時間はかかっていただろう。
いつもならば、捜査本部の奥の扉からツクモの力を借りて目的地まで移動することが出来るが、ここはカクリヨで、ツクモの力が通じない。
なので、反応がある場所まで徒歩になる。
時間が惜しいため、駆け足で進んだ。
「せめて、車でもあればな」とこぼす足立に、姉川は「思ったより遠くないから」と言った。
「ウツシヨの場合、今、明菜姉さんの反応はどういう位置にあるの?」
落合の質問に、姉川は頭の中で現実世界のマップと照らし合わせる。
「あそこは確か…」
ゴーグルの内部で見えた場所は、現実世界とはかけ離れた外観をしていた。
「図書館」
「図書館…」
足立は反芻する。
一瞬頭上に浮かんだのは、10年前の図書室だ。
「あれ…?」
「どうした、空」
小さな異変に気付いた落合に、森尾が尋ねる。
「気のせいかな…。微かだけど、道が…下ってる気がする…」
発言してから後ろに振り向くと、夜戸のマンションは中心部だと主張するようにそびえ立っていた。
「……………」
落合につられて振り返った森尾も、目を見張った。
現実世界の夜戸のマンションを訪れたが、明らかに景色が変化している。
「驚くことはないさ。現実じゃないんだから」
足立はひとり冷静だ。
振り返りもしない。
「いやいや…、冷静にもほどがあるだろ」
森尾は猫背気味に走る背中を見つめながら呟いた。
真っ直ぐに住宅街を走り、丁字路を右に曲がった。
「!?」
先頭を走っていた姉川が急に立ち止まる。
後ろを走っていた足立も反射的に止まり、ツクモはブレーキがきかずに足立の脚に当たって転んだ。
「なんで止まった!?」
森尾の質問に、姉川は驚きの表情を浮かべたまま答える。
「シャドウが現れた!」
「え!? さっきは見当たらないって…」
無人どころか、シャドウの反応もなかったというのに。
「夜戸さんも、僕達の侵入に気付いたのかな。許可もなくいきなり土足で入られたら、気分が悪いよねぇ」
「わかるわかる」と呑気に言いながら足立はリボルバーを取り出し、迎え撃つ用意に入る。
森尾と落合も、赤い傷痕から武器を取り出した。
目前の道の奥から宙を飛んで真っ直ぐやってきたのは、3冊の分厚い本だ。
回転しながら飛んできたそれらが開くと、針金細工の体を持つ、赤い鼻のピエロの仮面をかぶったシャドウが本から上半身を出した。
「姉川さん、そのまま進んで。指示もお願い」
バン!
足立の放った銃弾が、すぐ傍まで寄ってきたシャドウの仮面を撃ち抜く。
「突っ切るよ!」
「おう!」
応える森尾もバールでシャドウを撲り倒した。
姉川もただ守られるだけでなく、シャドウの動きを予測して攻撃を避け、クロスボウで迎え撃っていく。
反応がさらに近づいてきた時、道の模様が変わった。
雪が、横断歩道みたいな白線の形を成している。
周りの住宅を見回すと、あるはずのない信号機が家の屋根や塀に無理やり突き刺したように設置され、青色を点滅させていた。
明確な景色の相違に、夜戸の心の影響が関わっているのは見て取れる。
「あった!」
到着した先は、小学校付近にある、大きな図書館だ。
2階建の古びた白い建物は樹木に囲まれ、壁のくすんだ個所は葉が隠しているように見えた。
子どもの視点なら、夜の学校より不気味に感じるだろう。
大通りの車道を横断して短い石段を駆け上がり、両開きの扉が開かれたままの図書館へと堂々と入る。
「きゃ!」
一歩踏み出した姉川は、足を踏み外してバランスを崩した。
咄嗟に手を伸ばした森尾がその腕をつかんで支える。
「これは…」
内部は、姉川が知っている内部構造と大きく違っていた。
扉を抜けて最初に出くわすのは、受付があり、返却ボックスと、おすすめの本が取り揃えられたテーブルが設置されているはずの1階だったが、外観と不釣り合いな、あるはずのない地下へ向かう白い階段が螺旋状に続いていた。
2~3人は肩を並べられそうな横に広い階段だが、床があると思っていた姉川はその階段から危うく落ちかけたのだ。
「あ…、ありがと…」
「気を付けろ」
気持ちが先走ってしまい、最初に水のイルカを潜入させればよかったと後悔した。
夜戸の世界に深く入り込み、思った以上に気持ちの余裕がなくなっていることを自覚する。
「この下から…、夜戸さんを感じる…」
肌がピリピリとした。
警告を受けているようだ。
姉川だけでなく、森尾と落合、ツクモも感じている。
ツクモは欄干のない階段の端から底を見下ろしたが、薄暗さのせいで床も見えない。
上から見れば階段が巻貝のようだ。
目が回り、そのまま吸い込まれそうな気がして、思わず身を引いた。
「行こうか。落ちないでね」
臆することなく、足立が先に階段を下り始める。
姉川達もそれに続いた。
「僕の時は、のぼりだったなぁ…」
「なんの話さ」
「んー? ひとりごとー」
今はもう終わった話だ。
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