22:No time left for hide and seek
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テレビの向こう側へやってきた森尾達は、目の前の部屋の様子に唖然としていた。
こちらへやってくる前の部屋と造りは同じだが、唯一の違いは、こちらの方が生活感がある。
本来あるべきはずの家具が揃い、出入口であるテレビは深夜のニュースが流れていた。
足立は振り返ってテレビ画面に手を入れてみる。
来た時と同じように、帰ることもできるようだ。
「一瞬足が引っかかって焦っちゃった…」
テレビ画面に足の甲を引っかけた落合は、足首を擦る。
一瞬のことだったが、扉が閉まるエレベーターに体のどこかを挟まれたような寒気を覚えた。
「慌てて押し込むからだよ」
足立は呆れた口調で言う。
「五体満足で来れてよかった」
姉川の呟きに、先陣切ってテレビの向こう側へ行った森尾は「恐ろしい事言うな」と青い顔で叱咤した。
ついでにちゃんと体がどこも欠けていないか確認する。
「女性陣は怖い物知らずで頼もしいねぇ」
「アダッチー、ツクモとソラちゃんの性別、逆に覚えてないさ?」
姉川と落合を見ながら言った足立にツッコむのは、目を細めたツクモだ。
「ここって、明菜姉さんの部屋だよね」
「あの部屋まるごと玄関で、ここが本来の部屋ってことかな」
リビングにはテーブルも椅子もサイドテーブルもある。
キッチンには必要最低限の調理器具も揃っていた。
カップ、皿、箸などは2人分ある。
「こっちも…」
姉川は他の部屋へ移動し、夜戸の部屋と、その妹の部屋も見つけた。
部屋の中にある家具で、誰の部屋か判明する。
「ここ、明菜ちゃんの部屋さ?」
「なんだか泥棒みたいで忍びねぇな…」
女性の部屋に、森尾は踏み入れるのを躊躇う。
足立はそんな森尾の横を通過して部屋の中に堂々と入った。
「足立お前」
「こっちは元・刑事なんだから、いちいち部屋の持ち主のこと気にしてると思う?」
躊躇がないのは職業柄だ。
森尾は気にしていることが馬鹿らしくなって「お邪魔します」と呟いて足を踏み入れる。
「!」
足立は、小石のような硬くて小さなものを踏んだ。
足をどけて見下ろすと、金色のバッジを見つけて拾う。
弁護士がジャケットの襟に着ける、弁護士バッジだ。
落として忘れられたものか、捨てられたものか。
手のひらのヒマワリと天秤を見つめ、ズボンのポケットの中に入れる。
「空が明るい…」
夜戸の部屋のカーテンを開けた落合は、窓から見えた景色に驚いた。
闇夜が白い雪に包まれた町並みが見えるかと思ったが、空から降り注ぐ粉雪は、地面や屋根に薄く降り積もり、時刻は深夜0時を回ったばかりなのに、朝になる前の明るさだ。
「なんなのさ、この世界…」
ツクモは疑問を口にする。
ウツシヨとトコヨの狭間と言われたが、想定した以上に違いがある。
トコヨは雪どころか雨も降らない。
馴染みのなさにツクモは落ち着きがなく、うろうろと足立達の足下を徘徊している。
「きっとここは…、夜戸さんの世界だ」
本棚にズラリと並んだ弁護士関係の本を眺めながら、足立が言った。
「夜戸さんの世界って…。はは…。二又みたいなこと言ってんじゃねーよ。それじゃあ本当に、夜戸さんがカミサマみてぇじゃねーか…」
森尾は苦笑しようとするが、足立の声色がふざけて言ったとは思えなかった。
足立は本や壁の手触りを確認する。
現実にあるものと同じだ。
(テレビから入れた時点で、僕が知ってる世界そのものだ。稲羽と関係してるってなら…、もう特別驚くことでもないか)
ツクモと違って、こちらの空気の方が馴染み深く、初めて訪れた場所なのに妙な懐かしさもあった。
嫌でも去年のことを思い出させる。
「…ここに夜戸さんはいない…。姉川さん、捜せる?」
向かい側にある月子の部屋を覗いていた姉川は、足立の声を聞いて夜戸の部屋へ戻ってきた。
「ウチは、その為のペルソナを持ってるからね」
足立達は玄関から部屋を出て、マンションの前へ移動した。
外の空気は冷たいが、現実と違って身が震えるほどでもない。
緊張の面持ちで、姉川は左腕の赤い傷痕を自身の両目に当てる。
「クラオカミ」
ゴーグルが装着され、クラオカミが召喚された。
途端に安堵する。
「よかった。この世界でも使えるみたい」
森尾と落合もホッとした。
クラオカミが水のイルカを多数生成し、それぞれ別の方向へ放った。
姉川は立ったまま意識を集中させる。
「今日中に見つかればいいんだけど…」
夜戸がこの世界のどこへ行ったのかは不明のままだ。
探知する能力が格段に上がったとはいえ、範囲が広すぎる。
「シャドウの気配がまったくない…」
イルカ達の目を通して狭い路地や建物の内部を捜索するが、シャドウは1体も見つからない。
静かすぎてトコヨより不気味に感じた。
拘置所、駅、繁華街、法律事務所…。
夜戸がいそうな場所はくまなく探す。
(夜戸さんの世界…か)
月子の部屋にいる時、扉は開けっ放しだったので足立達の声は聞こえていた。
一見、現実と変わりはないと思っていた町だったが、夜戸とは縁があるはずの拘置所、法律事務所、裁判所は半壊し、駅周辺の地面はひび割れていた。
この世界の信号機はすべて青が点滅したまま切り替わらない。
ここが夜戸の世界ならば、それがどういう意味を持つのか。
姉川は表情を曇らせる。
早く見つけ出さなくては、という焦燥感に駆られた時だ。
「…!」
ツクモの耳が、ピクリと動く。
「……ハナっち…、ツクモが言う方向を…調べてほしいさ」
「え?」
姉川の足下にやってきたツクモは、西側に向いていた。
「ツクモちゃん?」
「どうした?」
足立と森尾が声をかけ、つられて同じ方向を見る。
「……まるで…、呼ばれてるみたいさ…」
ツクモは、引きつけられるような気配を感じ取っていた。
自分自身の足りなかった部分が、その先にある気がした。
答えはわかっている。
間違いなく、ここには、自分を生み出した存在がいるのだ。
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