20:Move it
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後ろに撫で付けらた白い髪、切れ長の細い目の下にはそばかす、身長は180前後で、見た目は10代後半か20代前半に見える。
服装は、グレーのニットと、デニムパンツを着ていた。
それが外套の下に隠されていた、二又の素顔だった。
(若っ…!)
同じ年かその下くらいの外見に、姉川は驚きの表情を隠せなかった。
(おっさんだと思ってた…)
(ちょっと地味だな)
落合と森尾も口には出さずに驚いていた。
昌輝と二又はテーブル席に座らされた。
妙な動きをすれば、逃げ場など与えずに狙い撃ちできるように。
足立はリボルバーから手を離さず、自分の席に座って2人と向かい合う。
森尾は手に持った武器を下ろしたまま、手前の扉の近くに、姉川はクロスボウを手にしたまま奥の扉の近くに立ち、落合はツクモを抱っこしたまま森尾の席にもたれて立っている。
「お前は変わらないな」
皮肉のように言う昌輝に、二又は茶化して言い返す。
「昌輝さんは少し老けたんじゃないですかぁ?」
「……………」
逸る気持ちはあるはずなのに、ツクモは昌輝と二又をじっと見つめたまま大人しくしていた。
先に切り出したのは、昌輝だ。
「……まず、最初に謝っておく。本来は身内だけの計画で、君たちを巻き込むつもりは微塵もなかった」
「というと?」
いきなり謝られても、と困った顔をする姉川は促した。
「君たちがペルソナ使いになるのは、想定外だったんだ。明菜の、他者に力を与える能力は、今年に発覚した」
『赤い傷痕に関してだけど、『傷痕』というのを作れるようになったのは、今年の夏ごろからよ」
『最近までは、傷痕どころか、目立った害はなかったのに…。正直、あたしも大きな変化に戸惑ってる』
『赤い傷痕の人間の欲望は、なぜか刈り取れない。残ったまま。まさに傷痕のように』
足立達の脳裏に、夜戸の言葉が次々とよぎる。
愚痴を込めた言い方だった。
「それは明菜姉さんからも聞いた。元々は、他人の欲望を刈り取る能力だけっていうこともね。本人も予期せぬって感じだったよ」
「そもそも、他人の欲望を刈り取るってなんだ? 夜戸さんは一体いつから…? お前らが原因なのか?」
落合に続き、森尾が質問を投げつける。
そこで、黙っていた二又が口を開いた。
「先にそっちの説明からした方がぁ、よくないですか?」
昌輝は煩わしそうに二又を睨み、咳払いをしてから話し出す。
「……私の故郷では、朝霧家の一部の者しか知らない言い伝えがある」
「言い伝え…」
呟いたのは足立だ。
「遥か昔、ある土地が、貧困と争いの絶えない生活を強いられていた。そこで、ある一族…私と明菜の先祖である朝霧の一族が、自分達の村の為に神と契約をしたんだ…。人間の醜い欲望を断ち切るための神剣を、試練として与えられた。朝霧の一族の中で若い巫子(みこ)が選ばれ、巫子は力をもって人々の醜い欲望を切り離し、集め、浄化した」
欲望を切り離し、という部分のところで足立達は夜戸を思い出した。
足立達の反応を窺ってから、一度間を置いて昌輝は続きを話す。
その際、どこか懐かしさを感じていた。
幼い夜戸にも、その兄にも、昔は絵本のように聞かせていたことだったからだ。
「争いを失くすために、神剣は巫子から巫子へと受け継がれてきた。誰にも気づかれることなく。誰かに感謝をされることもなく。それでも、欲望はなくならなかった…。最初に祓った人間から、時間が経てば新たな欲望が生まれてしまう。だからといって完全に欲望を取り除いてしまえば、生きる気力ごと失ってしまう。やがて、果てしない試練に、朝霧の一族は挫折し、その頃、土地で身勝手に始まった争いは、身勝手に終息していた。……そして、朝霧の一族は神剣を隠し、今までやってきたことを忘れるように普通の人間の暮らしに戻った…」
以上が、言い伝えの顛末だ。
「人間がどれだけ身勝手な生き物かってことが教訓交えて言い伝えられたみたいだけど、話はそれで終わらないってわけだ? その神様から与えられたって力は今、夜戸さんが持ってるってことだよね?」
「そうだ…。言い伝えの神剣は、朝霧の血筋をひく者しか扱えない。明菜も、その血筋のひとりだ」
昌輝は頷くが、二又は「あー、また説明不足だ」と苦笑する。
「正確には、夜戸明菜と、あと2人いるんだよ」
「あと2人…? どういうこと?」
怪訝な顔をする落合に、二又は答える。
「お前ら、選ばれた巫子って、ひとりだと思ってねーか?」
「……複数いるってこと?」
姉川の言葉に、「正解」と指を指した。
「『巫子(みこ)』って、元々は3人の子どもって意味を込めて『三子(みこ)』とも呼ばれてたらしい。長い年月をかけてやってきたことだ。使われる言葉がもじられるのは、珍しい話じゃねぇだろぉ? 神剣は3つ…、選ばれた子どもも3人……。1人目は欲望を見極めて切り離す役、2人目は切り離された欲望を集める役、3人目は浄化する役。夜戸明菜は、現在、その1人目だ」
「なら、残りの2人は?」
足立は催促する。
「2人目の、欲望を集める役は、ツクモ」
「ツクモ!?」
ツクモが素っ頓狂な声を上げた。
初めて知ったからだ。
全員の視線がツクモに集まる。
二又は噴き出しそうになったが、今度は口元を手で押さえて耐えた。
「3人目の、浄化する役は?」
姉川が発した、その言葉を待っていた、と二又は自身のセーターの裾をつかんで首元までめくりあげた。
「!?」
晒された二又の胸の中心には、縦一線の生々しい傷痕が見当たった。
「オレだよ。オレが、3人目」
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