20:Move it
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捜査本部の奥の扉が開く。
待ってましたとばかりに森尾は「行くぞ、足立」と促し、足立はリボルバーを手に席を立った。
しかし、奥の扉から入ってきた人物に、2人は足を止めた。
「お前…!」
「こんばんはぁ~ってか?」
外套を身に纏ってフードで顔を隠した、二又だ。
「……Y…、いや…、二又…だっけ?」
敵意剥き出しの森尾の肩をつかんで制し、冷静に足立はリボルバーを構える。
二又は小さく両手を上げた。
「丸腰に拳銃なんて向けるなよ、物騒だなぁ」
「今更、どの口が言ってやがる…! 空や足立を拉致ったり、夜戸さんを傷つけたり、姉川を刺しやがったクセに! 大体、なんでてめーが本部に入ってこれんだよ!」
二又の行いは森尾にとっても許されるものではない。
「ツクモが招き入れたさ」
「「!」」
二又の後ろから聞こえた声に、足立と森尾は視線を下に向けた。
バツが悪そうにツクモが二又を通過し、2人の前に姿を見せる。
「ツクモ!? 招き入れたってどういうことだ!」
怒声を上げる森尾に、ビクリとツクモの体が震えた。
「何か言われた?」
淡々としている足立に頷く。
「さっき…、明菜ちゃんを待ち構えていたら、そいつに会って…」
声をかけられ、二又だとわかった瞬間にミカハヤヒを召喚して威嚇した。
『地下の時も直に見たけど、ぬいぐるみのクセに、お前にもペルソナが使えるんだなぁ。興味深い』
二又は自身のペルソナを召喚せず、ミカハヤヒを好奇の眼差しで見上げて感心する口調で言った。
『ツクモはぬいぐるみじゃないさ!』
憤るツクモだったが、丸腰の人間相手にペルソナをぶつける気はない。
二又は、ぶっ、と唾が飛ぶほど噴き出した。
『ははははははは!!』
『な、何がおかしいさ!』
腹を抱えて笑う二又に不気味さを覚えたツクモは、甲冑を纏ったボディで体当たりしてやろうかと構えた時、二又は外套からつかめるだけのナイフを取り出して足下に落とした。
唐突な行動に怯むツクモに対し、二又は交渉する。
『オレは今、ひとりだ。武器の持ち込みはしねぇから、お前らの根城に連れてけよ』
『ふざけ…』
『夜戸明菜について教えてやるよ。その過程で、ツクモのことについてもな。お前らとしてはまとめて知れて、一石二鳥だろぉ?』
『…ツクモの…こと?』
『ああ。知りたくねえか?』
人間の体ならば、頭を抱えていただろう。
ツクモは深刻な表情で悩んだ。
二又の足下に散らばったナイフと、不気味な笑みを浮かべる二又を見る。
そして、自身のペルソナを還した。
「真に受けたってのか?」
成り行きを聞いた森尾は呆れていた。
「だ、だって…」
ツクモは二又を一瞥して口を濁す。
「君もさ、ひとりで乗り込んでくるなんて、僕らに袋叩きにされるとか思わなかったわけ?」
二又はドアの前からゆっくりとした歩調で近づき、カウンター側の適当な席に腰を下ろした。
態度は相変わらず落ち着いている。
「お前らの頭の中は、今は『カバネ』よりもあの女のことだろ? 実際に気になってんじゃねーか? オレが知ってること」
「知ったかぶってんじゃねーよ!」
傷痕からバールを出そうとしたところで足立は右腕をつかんで止めた。
「待って待って。ここでペルソナ出す気?」
範囲は狭いうえ、ツクモが自ら創り上げた空間だ。
この場所が壊れた場合、どうなるかはわからない。
「こっちのリーダーさんは大人で安心だ」
うちのQ(リーダー)ときたら、と愚痴でもこぼしそうになったところで、足立は一笑する。
「ははは。リーダーなったつもりなんてないから。僕には似合わないし。あと、あまり煽らないでくれる? 噛みつかれても知らないよ」
いつ森尾が殴りかかってもおかしくない。
森尾は野良犬のように唸りながら歯を剥いていた。
「なら、とっとと話をしようか」
二又が始めようとした時だ。
手前の扉が開かれた。
「ハナっち! ソラちゃん!」
入ってきた2人に、ツクモは驚きの声を上げた。
「お前ら…、夜戸さんは?」
「その前に最悪なのに会った」
露骨に不機嫌な表情を浮かべる姉川は、後ろを指した。
ショットガンを持った、昌輝だ。
「今度は誰だよ!?」
次から次へと予想外の出来事に森尾は声を荒げた。
「はぁ~。捜査本部って、基本的に関係者以外立ち入り禁止なんだけど…」
足立は面倒臭そうにリボルバーの銃口で頭を掻く。
「!」
「!?」
二又と昌輝の視線がかち合う。
同時に、昌輝はショットガンを、二又は外套の内側から取り出した自動拳銃を向け合った。
「お久しぶりでーす、昌輝さん」
「楽士…!!」
突然双方が殺気立ち、雰囲気に当てられて姉川達も武器を手に取った。
落合はオノを、姉川はクロスボウを二又に、森尾はバールを昌輝に向ける。
「拳銃を隠し持ってたさ!? 丸腰って嘘!?」とツクモ。
「なんで二又がここにいるのよ!」と姉川。
「ちょっと! 急になに!?」と落合。
「お前ら、そいつが何モンか説明しろ!! 敵か!? 味方か!?」と森尾。
一触即発の空気の中、小さな舌打ちが鳴らされた。
ドンッ!
天井に向けて1発、足立がリボルバーを発砲した。
空気が、しん…、と静まり返る中、落ちた薬莢が、チャリン、と床を跳ねて転がる。
「ガキみたいに、ギャーギャー騒いでんじゃねぇ」
硝煙のにおいと、低い声と、眉間に寄せられた深い皺。
キレ気味の足立に、森尾たちは冷静を取り戻した。
「そっちの事情なんか知ったこっちゃねーんだよ。話すなら話せ。暴れるなら出てけ。これ以上無駄な時間とらせないでくれる? あと…」
足立は銃口を二又に向ける。
「どけよ。テメェの席じゃねぇ。勝手に座るな」
二又が腰掛けていたのは、夜戸の席だった。
「…昌輝さんより先に撃ち殺されそうだ」
本気で脳天を撃ち抜こうとしている足立に冷や汗が浮かび、二又はおとなしく席を立った。
次に足立は「アンタも」と昌輝に銃口を向ける。
昌輝もショットガンをおろした。
「さて、どこから話そうかな」
そう言いながら、二又は外套を脱ぎ捨てた。
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