20:Move it
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12月20日木曜日、午前0時。
現実世界の夜戸の部屋で、姉川と落合は、ひとりでに点いたテレビの画面を凝視したまま硬直していた。
画面に映された、砂嵐の中の夜戸の後ろ姿。
「華姉さん…、こ、これって…」
動揺が隠せない落合は、震える指先で姉川の袖をつかんだままだ。姉川はごくりと唾を呑み込み、冷静になろうとした。
「……夜戸さん…!」
手を伸ばし、テレビの画面に触れる。冷たいガラスの感触だ。
呼びかけても、こちらに振り返らず、やがて砂嵐は夜戸の姿を隠し、元の真っ暗な画面に戻った。
「…マヨナカテレビ…」
頭に浮かんだ言葉を、姉川はぽつりと呟く。
「マヨナカ…、何…?」
「足立さんの事を調べてる時に、連続殺人事件が起こった八十稲羽市についても少し調べてたの…。耳に入ったのは、その町の都市伝説…。雨の日の午前0時に、一人で消えたテレビを見つめると、自分の運命の人が見える…っていう…」
ケータイを確認する。
画面に表示された時計は午前0時1分を切っていた。
「ここは稲羽市じゃないよ。外は雨じゃなくて雪だし、見たのはひとりでもない」
「あくまで町の噂を思い出しただけ。でも、関係ないとは思えない…」
落合は画面の消えたテレビを調べる。
DVDが取りつけられているわけでも、仕掛けが施されているわけでもない。
「何もない…」
テレビの裏側にまわって調べていた時だ。
ガチャ、と銃の装填音が聞こえた。
「「!!」」
「動くな」
気配もなく部屋に侵入し、姉川の背後に立った人物が低い声で脅す。
手には、ショットガンを握りしめ、銃口を姉川の背中に押し付けた。
「華姉さん!」
落合は警棒に手を伸ばしかけたが、不利な状況を判断して止めった。
「…っ! 誰…?」
姉川は刺激を与えないよう、慎重に肩越しに振り返る。
「…会ったことがあるはずだ」
見えたのは、作業服。
姉川ははっとした。
「管理人さん…!?」
「!?」
落合も目を見開いて驚いた。
作業服の男は、帽子を取って姉川と目を合わせた。
帽子の下は、絡みやすそうなクセの強い髪で、整った太い眉が特徴的だ。
鋭い眼光が、ただの脅しではないと訴えている。
「…えーと…、マンションに勝手に入ったのは謝りますから、それ、下ろしてもらえます? というか、マンションの管理人さんがそんな物騒なの持ってたらまずいんじゃ…」
両手を上げて、引きつった笑みを浮かべて落ち着かせようとした。
普通の厳重注意でないのは理解している。
背中に当たる冷たい銃口の感触に恐怖を煽られ、気温の寒さとは違う悪寒を感じた。
額に浮かんだ冷や汗が頬を伝う。
「明菜を捜しているのか? それとも、月子の方か?」
「……どこにいるか、知ってんの?」
素直に答えず、質問を返した。
心臓がバクバクと激しく波打っているが、声は震えないように抑えたつもりだ。
しかし管理人は無言になる。
「だ、誰だよ…。『カバネ』の仲間か!?」
落合の言葉に、管理人の目元がぴくりと動く。
「アイツの仲間…ね。いや…、ただの、同じ穴のムジナさ」
「どういうこと…?」
姉川の耳は、管理人の自嘲を聞き取った。
「私は、朝霧昌輝(あさぎり まさき)…。明菜の叔父だ」
「「!?」」
「こちらの…、明菜の事情を、何も知らないようだな…」
姉川は言い返すことができなかった。
「じゃあ、叔父さんは、明菜姉さんの事、何か知ってるの?」
言い方に腹を立てた落合は尋ねる。
「もちろん…。私があの子を巻き込んだ」
「巻き込んだ…?」
「…他にも仲間がいるのなら、私を連れて行ってくれないか? 私は当事者でありながら、あの世界に自ら行くことができないんだ」
トコヨの事を言っているのだとすぐにわかった。姉川は大きなため息をつく。
「人に頼む時は銃を向けるって教えられたの…?」
「ただの人間とペルソナ使いでは、これが対等だと思ってな」
昌輝はショットガンを下ろす気はないようだ。
姉川のこめかみに青筋が浮かぶ。
「ウチらも現実世界にいる時は、ただの人やし。安心してええから、はよ下ろせ」
バケモノみたいに言われたのが気に食わず、姉川はドスの利いた声で言った。
落合も一瞬怯んでしまう。
昌輝は少し考えてから、ゆっくりと下ろした。
ようやく、向き合うかたちになれる。
「最低」
解放された姉川は正面から睨むなり吐き捨てた。
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