00-10:Give me a smile again
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学校の鐘の音に起こされた。
窓に映る空は夕日色だ。
どれくらい、うずくまっていただろうか。
そもそも、なぜ図書室に来たのか、わからない。
理由を忘れてしまった。
目が痛い。
こすろうとして、指先が遮られる。
「…メガネ?」
まだ、メガネを掛けるほど視力は悪くないはずだ。
取ろうとしたけど、やめた。
なんとなく。
不思議な感覚だった。
度は合ってないはずなのに、落ち着く。
「明菜!」
茫然としていると、勢いよく開けられたドアから父が入ってきた。
「父さん…」
病院から連絡を受けて、駆けつけてきたのだろう。
あたしの肩をつかんで声を荒げる。
「こんなところで何をしている!」
仕事に戻ったはずなのに、あたしのせいでまた抜け出してきたようだ。
「ごめんなさい…。わからないんです…。どうしてか、この場所に来てしまいました…」
「……………」
父は何かを探すように図書室を見回したが、あたしの肩から手を離した時には平静を取り戻していた。
「…病院に戻るぞ」
「はい」
背を向けた父が、一度立ち止まる。
「……ここはお前に悪影響を与える。…転校を考えておけ。お前にとっても、それがいいはずだ」
「…? わかり…ました…」
入院のせいで、2、3ヶ月も学校を休んでしまった。
どちらにしろ、ヘンに注目されるくらいならその方がいいかもしれない。
あっさりと頷いたあたしに、父は少し間を置いてから再び歩き出した。
あたしもそれについていく。
ふと、立ち止まり、振り返って奥の席を見つめた。
1年間、ずっとあの場所で勉強に時間を費やしていた。
もし本当に転校するのなら、と考えるだけで寂しい気持ちが生まれた。
本当に、それだけだろうか。
寂しいだけなら、こんなに胸がチクチクと痛むはずないのに。
胸の傷痕が疼いているだけかもしれない。
「そのメガネは?」
図書室を出たあと、父は背を向けながら尋ねた。
あたしはフレームに触れて答える。
「あたしの…、私のメガネです」
誰のメガネかは知らない。
でも、手放し難いってことは、きっと大切なものなんだ。
あたしが忘れているだけかもしれない。
眠っていた期間が長くて、起きたばかりで、思い出せないだけで。
少し経てば、思い出せる気がする。
廊下側の窓に視線を移した。
映ったのは、メガネをかけた自分の顔。
目は少し腫れている。
変なの、と口元が自然と動いた。
そして、小さく、物寂しげに笑った気がした。
.To be continued in the future