00-10:Give me a smile again
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ほの暗い水底に沈んでいたかのような深い眠りの中にいた。
ようやく自身の身体が時間をかけて水に融けた気がして、目を覚ました。
夢の内容は覚えていない。
頭は重くて身体はだるい。
腕を見ると点滴がつけられ、患者服を着ていることに気付く。
ここは、病室か。
ゆっくりと半身を起こし、こちらを凝視している看護師と目が合った。
白い個室内は瞬く間に騒々しくなる。
「夜戸さんが目を覚まされました!」
「先生!」
「彼女のお父さんに連絡を!」
“お金…”
「え?」
“お金ちょうだい”
“また残業”
“こっちはロクに寝てないのに”
騒々しい声と、陰鬱な声が混ざり合う。
人が、黒い。
黒いモヤに覆われている。
「具合はいかがですか?」
“ゆっくり眠りたい”
“仕事辞めたいなぁ”
“もうヤダ…”
「っ…!?」
目に映るものが変わっていた。
あたしの他に誰も見えている様子はない。
自然な振る舞いをしながら、毒づいている。
頭を抱えていると、「大丈夫ですか」と“早く帰りたい”の言葉が降ってくる。
“院長は私のモノよ。近づかないでよ。結婚して一生遊ぶんだから”
“いつになったら治ってくれるの。歩けるようになりたい。ここから出してよ”
“どっか行け! みんな邪魔だ!”
“あいつが悪い。あいつが悪い。あいつが悪い。あいつが”
看護師どころか患者の声まで聞こえ始めた。
後遺症だろうか。
あたしの頭がおかしくなってしまったのか。
はっとして胸元を開けて確認する。
胸の中央には、縦一線の傷痕が残っていた。
夢じゃなかった。
「この傷は…」
看護師に声をかけると、きょとんとされた。
「古傷、痛みますか?」
「古傷…?」
古くないはずだ。
この傷のせいで病院に運ばれたのではないのか。
あたしは、実の母に刃物で刺された。
痛みも覚えている。
なのに、突き刺されたはずの心臓はドクドクと脈を打っていた。
母はどこだろう。
あの時、母は…。
あれ?
母の顔が、思い出せない。
「保護者の方ですか?」
「ええ、まあ…」
質問に濁しているが、懐かしい声が、病室の出入口から聞こえた。
「昌輝…叔父さん…?」
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