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12月19日水曜日、午後23時。
しんしんと降る雪の中、姉川・落合班は、現実世界から夜戸のマンションを訪れていた。
傍から見れば女性が2人。
この時間帯でも、誰も不審がる者はいないだろう。
姉川はテニスボールをマンション1階の一番端にある部屋のベランダに投げ入れた。
地上とベランダの高さはそれほどない。
落合は辺りを見回して誰も来ないか警戒しながら、姉川を肩車し、姉川は欄干を乗り越えた。
あらかじめ、ここが空き部屋なのは調査済みだ。
窓の向こうは人の気配も明かりもない。
「足立さんと森尾君だと、もし、セキュリティとかで警察が駆けつけてきたら、言い逃れできないからね。トコヨに逃げ込める監視カメラは機能してないみたいだし」
「悪いことしてるなって実感はあるよ。これって住居不法侵入罪…」
「テニスの練習をしてたらボールがここに入って取りに来ただけよ。…雪の中だろうとね」
落合は助走をつけて飛び、欄干を乗り越えて着地する。
「まさか華姉さん、手慣れてたりする?」
「さあね~」
とぼけながら、慣れた手つきでベランダの窓にガムテープを貼り付け、落合から警棒を借りてガムテープの上からガラスを叩き割り、あっさりと中へと侵入した。
「ガムテープは剥がしておいて、もしもの為に、テニスボールは部屋に転がしておく、と。あ、ガラス代はちゃんと払うから」
「華姉さん…」
手際のよさに、それ以上何も言わなかった。
「それじゃ、夜戸さんの部屋に行こう」
一方、足立・森尾班は捜査本部で指示を待っていた。
今頃、姉川・落合班は、ウツシヨから夜戸のマンションに乗り込んでいるだろう。
「あいつら、本当に平気なのかよ…」
テーブル席に座って貧乏ゆすりをする森尾に、カウンターチェアに座りながらリボルバーのメンテナンスをしている足立が「落ち着きなって」と声をかける。
「場所が場所だからね。僕はあっちで威嚇射撃でも拳銃をブッ放すわけにはいかないし。現実の武器が使い慣れてる方が、まだいいでしょ」
姉川はクロスボウ、落合は警棒を手にしていた。
「ドアが開けば、夜戸さんがトコヨに逃げ込んできた合図になる。そこを僕達が飛び出して確保する…」
「挟みうちになるのか?」
「現実世界でペルソナは使えない。でも、籠城決め込まれるとこっちも手が出せないから、引きずり出す。これが姉川さんの作戦だからね。現実であの2人が取り押さえても、トコヨに逃げ込んできたところを僕達が取り押さえてもいい。マンションにいることを想定してトコヨ側で待ち構えてたら、ツクモちゃんだってさすがに気付くでしょ」
姉川ほどではないが、ツクモ自身にも探知能力が備わっているし、現実世界の監視カメラを通して見つけることもできるはずだ。
ツクモも今、トコヨ側から見える夜戸のマンション付近の駐車場で張り込みをしていた。
「明菜ちゃん…」
マンションを見上げ、切なげに呟く。
夜戸とみんなでまた同じ日々に戻れるのか不安だった。
そんな気持ちに反して、会うのが、少し怖い。
(しっかりするさ。ツクモは、ツクモにできることをしないと)
微かでも夜戸の気配を感じ取れば、近くの住宅のドアと捜査本部を繋げて足立と森尾を呼ばなければならない。
「!? え、この気配…!」
意表を突かれたように気配を感じ取った。
しかしそれは夜戸の気配ではない。
「そこのぬいぐるみさん、ひとりかぁ?」
「!!」
はっと振り返ると、外套の男がすぐ傍に立っていた。
その頃、姉川は、影久から許可をもらい、夜戸法律事務所の夜戸の引き出しから拝借してきた部屋の合鍵を使い、落合とともにおそるおそる部屋へと足を踏み入れる。
部屋の中は薄暗く、人の気配を感じない。
先程侵入に使用した部屋と大差はなかった。
姉川と落合は顔を見合わせ、靴を脱いで足音を立てないよう気を付けながら、靴下越しでもひやりと冷える廊下を進んだ。
そして、リビングに来たところで驚愕する。
「………何も…ない…!?」
本来、リビングにあるはずの家具がほとんどなかった。
「本当にここに明菜姉さんが住んでたの!?」
「空君、大きな声出さないで…」
小声で落ち着かせながらも、姉川は酷く狼狽えていた。
このマンションは昼間の時間帯はほとんど見張っていたはずだ。
引っ越し業者のトラックなんて1台も来なかった。
「引っ越しにしては早過ぎる…」
落合は急いで他の部屋も見て回る。
なのに、まるで部屋には初めから誰も住んでいなかったように家具が見当たらず、床は綺麗なままだ。
物が置かれていた形跡も、誰かが住んでいた痕跡もない。
「だめだ。どこにもいないよ…!」
しかし、家具がまったくないというわけではない。
リビングにある、カーテンのないベランダの傍には、ぽつんとテレビが1台設置されていた。
「大型テレビが1台だけ…」
「マンションの備え付け…? でも、さっきの部屋にはなかった。それに、これだけじゃ、手がかりにならない…」
不気味な状況だ。
本当に、夜戸と月子はここに住んでいたのか。
ケータイを取り出し、一度影久に部屋を間違えてないか確認を取ろうとした。
動揺で指が震えている。
その時、ケータイに表示された時計は、ちょうど午前0時を迎えた。
「…は…、は、華姉さん…、姉さん…っ」
落合は、テレビを凝視したまま姉川の袖を引っ張った。
振り向いた姉川は、ぎょっとしてケータイを落とす。
テレビが勝手に点いていた。
砂嵐の画面の中、人影が映る。
見間違えるはずもない、どこかへと向かっていく夜戸の後ろ姿だ。
.To be continued