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椅子に腰かけ、夜戸は突っ伏したまま、テレビが映すニュース番組をじっと眺めていた。
「おねーちゃん」
向かいの席でカフェオレを飲んでいた月子が声をかける。
「お仕事…行かなくていいの?」
「うん。事務所が休業中だからね」
「いつまで?」
「さあ…。世界が終わるまでかな…」
夜戸は突っ伏した状態から動かずに、冗談でも言うように笑った。
月子は寂しげに目を伏せる。
「月子は、ここにいていいの?」
「うん」
「ずっといてくれるの?」
「うん」
「みんなと、いなくていいの?」
「……うん」
「もし…、みんながココに来たら…」
「どうだろ…。来れるかな」
ようやく夜戸が顔を上げた。
前髪を指先で直し、天井を見上げて目を閉じる。
今が何時かはわからない。
おなかも空いてない。
すっかり冷めきった自分のコーヒーに視線を落とし、カップの取っ手に触れる。
「ねぇ、月子はまだ…、「おねーちゃん」って呼んでいいんだよね…?」
その言葉に、カップを浮かす手を止めた。
ふっと笑みがこぼれる。
「いいよ。日常は終わっちゃったけど」
コーヒーはやはり冷めていて、冷たくても美味しいはずなのに、味はしなかった。
「……また月子が、苦しいのを食べてもいいんだよ?」
「月子。食べても、いつかは元に戻る。戻った瞬間が、少し…、辛かった。だから、もういい。このままで…。あたしのままでいさせて……」
何もかも終わるまで、と夜戸は十字型の傷痕に手を当てた。
12月19日水曜日、午前1時。
捜査本部にいる姉川は、足立達が捜索に出向いている間に、カウンター席に着き、ゴーグルを装着したまま難しい表情を浮かべていた。
「う~~~ん…」
水のイルカを通じて眺めているのは、夜戸と月子が住んでいる、5階建ての煉瓦模様のマンションだ。
一昨日から何度も偵察しているが、建物から夜戸の姿も確認できなければ気配もしない。
3匹の水のイルカをさらに近づけようとした。
しかし、どの角度から接近させても水に還ってしまう。
「あ~~。やっぱりだめか~~~」
頭を抱えた。
何十回も試したことだが、未だに近づけない。
イルカが入れなければ、こちらも直接入れないのと同じだ。
見えない壁に阻まれる。
「ギリギリ、トコヨエリア圏外だからかな…。それとも、夜戸さんの力で拒否られてる? なら、壁にぶつかった手応えがあるはずだし、能力を感じ取れるはず…。あ~~。エリアは広がっちゃいけないけど、せめて玄関の入口までは気張って広がらんかい…」
苛立ちで帽子をつかんだ。
現実世界でもマンションの周りをウロウロしたが、夜戸どころか月子も出てこない。
マンション3階の中央の部屋、部屋を訪れた事はないけれど、夜戸と月子が住んでいるのは知っている。
部屋の番号は、昨日の昼頃に影久から聞いていた。
月子はすでに冬休みに入ったか、夜戸が登校させていないのだろうか。
「夜戸月子…」
昼間の影久との電話でのやり取りを思い出した。
『え?』
雷に打たれた衝撃に近かった。
『娘は、明菜ひとりだけだ。月子という妹は存在しない』
兄の日々樹、その妹の明菜、影久の子どもはその2人だけだという。
『でも…、写真で……』
夜戸がケータイで見せてくれた小さな女の子。
この目で確認している。
妹でなければ、どういう存在なのか。
なぜ、わざわざ、「妹」と言ったのか。
混乱しながらも冷静を装って影久に対応しようとする。
『先生の隠し子とか? まさか娘さんの…』
『切るぞ』
『ごめんなさい、ウチは今、混乱してます』
夜戸の隠し子ならば「妹」と呼ぶのはおかしな話だ。
ならば、影久ではなく、行方不明中の母親の、と考えたところで影久が遮る。
『言っておくが、父親が違う、元妻の子でもないぞ。あいつは昔から身体が弱かった。明菜を産んでから、もう子どもが産める体ではなくなった。ついでに言わせてもらうが、私も、元妻以外とはないからな』
力強く言い切られてしまう。
ケータイ越しにとてつもない迫力が伝わった。
(血縁者でなかったら、あの子は何者なの?)
横髪の毛先をいじながら考える。
「それに……」
マンションから半径数メートル付近の監視カメラと視覚が繋がらない。
トコヨエリア内に関わらずだ。
現実世界を覗こうとしたが、遮断されているようだ。
(立ち入らせない気?)
まるで守りの固い城だ。
(籠城の可能性は大。『カバネ』みたいに、ウチがいるから警戒されてるのかしら)
夜戸がトコヨエリアに再び足を踏み入れるより、こちらから現実世界で攻め入った方がつかまえやすいだろう。
(シャッターチャンスの為なら根気よく待てる自信があるウチやけど…。今回は話が別。悠長に待ってられるほど、大人やないんですよ、夜戸さん)
「みんな、一旦捜査本部に来てくれる?」
思い立ったらすぐに行動だ。
クラオカミを通して招集をかけた。
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