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12月16日日曜日、午後22時。
捜査本部に足を踏み入れた足立は、意外そうな顔をした。
ツクモ、森尾、姉川、落合がすでに揃っていたからだ。
それぞれが席に着き、足立に視線を向ける。
足立は、てっきり、待たされるものかと思っていた。
ここに来ないメンバーもいると心構えもしていた。
「…そろってるね」
席に着く前に、森尾に声をかける。
「ここに集まったってことは、夜戸さんを追いかけるってことになるけど?」
「それがわからねーほどバカじゃねーよ。遊びに来たように見えるか? …もう、俺は逃げねェ」
どんな結末であろうと、真実を知る覚悟は出来ている。
ここで逃げてしまえば何かを失うと思った。
足立が連れ去られた時と同じように、向けられた真実に迷って立ち止まって後悔するのはやめだ。
「ウチも、本当の夜戸さんが知りたい。赤い傷痕をつけたのが夜戸さんだとしても、何か理由はあるはず。赤い傷痕を持つ人物を追ったり、殺されかけたり、助けたことがあるのは事実よ。演技が入ってるとは思えない…」
姉川は首に提げられたカメラに手を触れた。
夜戸が身をていして姉川の欲望の暴走を止め、命懸けで大切なカメラを守ってくれたこともある。
「ボクも…。明菜姉さんは、まだ隠してることがあると思うんだ…」
たとえ傷つけられても、仲間として信じたい気持ちは残っている。
「もう一度、明菜ちゃんに会うべきさっ」
ツクモは迷っている様子もなく強く言った。
「そうだね…」
全会一致だ。
足立は小さく口角を上げる。
「足立さん」
姉川はカバンからメガネケースを取り出してカウンターの上に置き、足立の方へ寄せた。
受け取った足立は、メガネケースを開けてメガネを取り出す。
「…夜戸さんのメガネ」
「夜戸さんから修理をお願いされたんだけど、直ったのに「預かって」と言われたの」
ヒビの入ったレンズは元通りに修理されていた。
新品のレンズは汚れひとつなく、室内の照明でキラキラと反射している。
「……今思えば、夜戸さんは、いつかこうなること…わかってたのかもしれない」
「どういうことさ?」
ツクモが質問した。
すると、姉川はカメラに触れながら答える。
「…現実に絶望したウチが暴走した時、夜戸さんは、現実を見限るなら大事なカメラを渡すように言ったの。このカメラが、ウチにとって「唯一の現実だから」って。…ウチは、渡すことができなくて…―――」
『断ち切る覚悟がなくてしがみついてるくせに、現実がいらない、なんて…簡単に言わないで…ッ』
言い放たれた言葉には、憤りが含まれていた。
「夜戸さんにとっては、身近にある唯一の現実って、そのメガネなのかもしれない…。とても大事にしてたから…」
姉川の話に耳を傾けながら、足立はメガネをかける。
「思えば、夜戸さんって、事件を起こしてた奴に対しては、否定的じゃなかったよな…」
ふと森尾は思ったことを口にする。
姉川は「言われてみれば、そうね」と同意した。
「ウチがもしカメラをすんなり渡していたら…、引き下がってたのかな…」
「別の方法で止めたかもしれねぇけど…ってか足立、何してんだ」
足立はメガネをかけたり外したりしている。
「小さい窓」
「え?」
ツクモに続き、森尾達も足立の呟きにきょとんとした。
足立はもう一度、メガネをかける。
「これ、度が入ってない」
「え!? 明菜姉さん、ずっとダテをかけてたってこと?」と落合。
「オシャレとか?」とツクモ。
「オシャレするなら、もうちょっとマシなメガネかけるでしょ。初めて会った時も思ったけど、似合ってなかった。別のメガネに変えるようにさりげなく言ってみても、あっさりとかわされちゃうし」と姉川。
「もったいないことしてるなぁ。顔は全然悪くないのに」と森尾。
「マシなメガネじゃなくて悪かったね」
足立はメガネをかけたまま口を尖らせる。
「足立さん?」
足立の発言に姉川は引っかかった。
「これ、僕のメガネだし」
「え!!?」
足立を除く全員が声を上げた。
「夜戸さん、レンズだけ変えたな」
自分がかけていた時は、視力に合わせた度が入っていた。
「初耳なんやけど!?」
姉川は驚きを隠せない。
足立と夜戸が再会する前から、夜戸の両目にずっと掛けられてあったものだ。
「僕も自分でかけてみて初めて気付いたよ。似たようなメガネかと思ってた。でも…、耳にかける部分は調整もなくそのままだし、デザインも色も…」
長年使い続けてきたのだろう、鼻当ての部分は少し緩み、内側のフレームも微かにすれていた。
夜戸が掛けていた時は、傍から見ても、よくズレるメガネだと思っていた。
「捨てたはずだったんだけどなァ…」
懐かしい掛け心地だ。
「度が入ってないと、窓みたいだ」
(ずっとこの小さな窓から、君は、どういう思いで、何を見ていたの?)
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