19:Small windows
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
夜戸の握りしめるナイフの刃が鈍く光る。
夜戸は最初に姉川に目を留め、弾かれたように駈け出した。
「ク…、クラオカミ!」
探知型で回復の能力が使えるペルソナ使いが狙われるのは、二又の奇襲で身をもって思い知ったつもりだ。
しかし、相手がただの敵ならば冷静な対応ができたが、相手が夜戸なので気後れしてしまう。
欲望の暴走を阻止し、一緒に戦い、そして昨日まで賑やかな輪の中にいた人物だ。
明らかな動揺を見せながら、姉川はクラオカミを召喚する。
水で形成されたイルカたちが宙を泳ぎ、こちらに接近する夜戸を捉えた。
姉川のゴーグルの中に映し出されるのは、夜戸の動きの予測のはずだが、
「え!?」
夜戸の姿が、フッと消えた。
視聴していたテレビ画面を、一言もなく突然電源を切られるように。
足立達は目を見張った。
「ウツシヨに逃げたさ!?」
欄干から見ていたツクモが声を上げる。
姉川は近くの監視カメラにイルカたちを取り込ませ、現実の監視カメラとリンクさせた。
ゴーグルの内側では、監視カメラに映される現実の光景が見えているが、どこにも夜戸の姿が見当たらない。
「違う…! 夜戸さんは逃げてない!」
「ああ、そうそう。あたし、かくれんぼも得意よ」
「!?」
必死に姿を捜す姉川の背後に、忽然と夜戸が現れた。
はっと振り返る姉川だったが、夜戸の姿を視界に入れた時には、クラオカミの胴体が十字型に斬りつけられていた。
「きゃああっ!」
胴体に走る痛みに悲鳴を上げ、姉川は両手で胸の部分の服をつかんで膝をついた。
「あたしがどうやって傷痕をつけてきたと思ってるの? 堂々と切り付けてると?」
胸を押さえ付けて苦しむ姉川を見下ろし、夜戸は首を傾げる。
「姉川!!」
森尾は駆け寄ろうと走るが、一瞬で夜戸の顔が目前に近づいた。
森尾は思わず足を止め、鼻先に突き付けられるナイフの先端と、鈍く光る金色の瞳に息を呑む。
「森尾君、ダメじゃない。丸腰なんて。殺してくれって言ってるの?」
冷ややかな笑みを浮かべる夜戸に、森尾は怯んだ。
「夜戸さん…ッ。マジかよ…」
落合が連れ去られて冷静さを失っていた時は投げ飛ばされて叱咤されたことも、足立救出に迷いがある時は突き放すように言われたことがあったが、どれも思いやりが含まれていた。
それなのに、今の夜戸には、触れたら凍りつきそうな冷たさしか感じなかった。
「強くなったんでしょ?」
武器を出せ、ペルソナを召喚しろ、そして戦え、と瞳で凄まれる。
「嫌だ…。俺は…っ」
首を横に振って拒否する森尾に、夜戸は「そう」と目を伏せ、ナイフを森尾の首目掛けて振るった。
「っ!」
首の皮膚に触れかけたところで動きをピタリと止める。
背後に近づいた落合のオノが夜戸に向けられていたからだ。
「に…、兄さんから…離れて…っ」
「空…!」
息を荒くして涙目で夜戸に訴える落合。
オノを握りしめる両手はカタカタと震えていた。
「明菜姉さん…、やめてよ…っ! ボク、戦いたくない…っ。明菜姉さんも、ボク達がそうだったように、欲望が暴走してるだけだよね!? 大切な人のこと忘れて…、想いが薄れて…、歯止めがきかなくて…」
夜戸は背を向けたまま噴き出す。
「アハハハッ。空君、不正解よ。いや…、心の中ではわかってるはずだよね。あたしはみんなとは違う。赤い傷痕は最初からあったし、ペルソナも使える。みんなと出会う前から!」
振り返ると同時に、ナイフをオノにぶつけてきた。
落合は咄嗟にオノの柄を強く握りしめる。
「う…っ!」
「よく見て。これが夜戸明菜。これがあたし」
微塵の容赦も感じさせない勢いでナイフが振るわれ、落合は後ろに下がりながらオノで防ぎ続けた。
辺りにぶつかり合う金属音が響き渡る。
「くっ!」
「みんな大切。だから、あたしが終わらせるの!」
「空!」
森尾が叫んだ瞬間、
「ネサク!」
落合はネサクを召喚した。
夜戸は後ずさって落合から離れて警戒する。
「…………どうしたの? 空君」
「……………」
ナイフを持った手で挑発的に手招きするが、落合はペルソナを召喚したまま硬直していた。
躊躇う表情に、瞳からは涙を流している。
「つまらないことしないで。ペルソナは飾りじゃない」
眉をひそめて露骨に嫌悪の表情を浮かべ、夜戸はナイフで宙を切った。
「っ!?」
ネサクが背後から曲刀で腹を貫かれた。
「が…ッ!」
落合は腹を抱えて片膝をつく。
「そんな……」
少し離れたところにいるツクモは、その光景に立ちすくんでいた。
「アレは…何さ……?」
ネサクの背後に見えたのは、夜戸のペルソナであるはずのイツとは違っていた。
大きくて長い、赤い角のようなものが見えたのだ。
禍々しい気配に全身が粟立った。
曲刀がネサクから引き抜かれ、どちらのペルソナも消える。
「空!!」
森尾が一歩踏み出すと、後ろから腕をつかまれて引っ張られた。
「足立…!」
「戦えるの? 夜戸さんと」
足立は夜戸を見据えながら尋ねる。
「……………」
夜戸の瞳が、肩越しにこちらを睨みつけた。
黙り込んだ森尾を置いて、ズボンのポケットに両手を入れたまま足立は前へ出る。
「アダッチー…」
ツクモの目の前を足立が横切っていく。
視線で追うだけで止めることができなかった。
未だにまともに動けない姉川と落合も、向かい合う2人に、掛ける言葉が見つからない。
「本気…なんだね?」
足立はポケットから右手を出して腰に回し、リボルバーに触れた。
「ええ。お見せした通りですよ。足立さんは、相手になってくれますよね?」
緊張で張りつめた空気の中、2人の視線がぶつかり合った瞬間、それはまるで西部劇の決闘シーンのように、互いに武器を相手に向けて構え、叫んだ。
「「ペルソナ!!」」
.