00-9:There is something that I want to tell you
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
12月も年越しも正月も冬休みも、気が付けば終わっていた。
出かけることもなく、ほとんど部屋の中で過ごした。
家で父と顔を合わせても、いつも通り、会話は少なく冷ややかだ。
なんとなく、いつも通りだ。
3学期は始まったけれど、先輩の姿が見当たらない。
入試に関係してなければ、不登校ということはないだろう。
学校のどこかにはいるはずで、姿を確認したいだけなら先輩の教室に行けばいいのに、あたしは結局そうしなかった。
昼休みに図書室へは何度か赴いたが、先輩はいない。
それでもあたしは、ノートや参考書を開いて、いつもの席に座った。
他の生徒の声は、やはり耳障りだった。
1月15日火曜日の下校時間。
まただ。
最近、誰かに見られている気がする。
3学期が始まって間もない頃から感じるようになった。
信号待ちの時に何度か辺りを見渡してみるが、特定できない。
足早に家路につく。
ひとりきりに戻って、まだ少し馴染めてないだけかもしれない。
だから神経質になっている。
そうに違いない。
階段を上がり、自室に逃げ込む。
カバンを床に置き、ベッドの上にいる人形を抱きしめた。
ふかふかだ。
抱いたまま、ベッドに倒れ込む。
「いつも通りのはずなのに…胸が苦しいの…。来ないってわかってるのに、待ってしまう…。嫌われたってわかってるのに……探してしまうの」
胸の中心が破けそうで、人形を抱きしめて押さえる。
『俺に触るな』
胸に風穴が空けられたようだった。
いつも通りにするために急いで縫い合わせたのに、気を抜いただけで再び破れそうになる。
こうしてツギハギの人形相手に漏らさないと内側から潰れてしまう。
「足立先輩…」
最初から、冗談交じりでも言えばよかった。
全部、あたしのことを話せばよかった。
あなたのこともいっぱい知りたかったのに。
「先輩……」
伝えたいことがある。
あたしは目を閉じる。
それからどれくらい経ったのか。
遠くでノック音が聞こえた。
目をゆっくりと開ける。
人形を抱きしめたまま、眠ってしまっていた。
電気の点いてない部屋の中は暗い。
デジタル時計に目を向けると、ちょうど午前0時を迎えた。
ノックの音がはっきり聞こえる。
誰だろう。
父ならば寝たふりをしていたい。
「明菜」
母の声だ。
目を擦り、人形を右腕に抱いたままドアへ近づき、ドアノブを握った。
“開けるな、明菜”
懐かしい声が聞こえた気がした。
しかし、もう開けてしまった。
廊下の明かりに部屋の中が照らされる。
「おかえり、明菜」
母は優しい笑みを浮かべて立っている。
その手には、真っ黒いナイフの刀身のような刃物が素手で握られ、振り上げられた。
「母さん?」
ドス!
胸に走る鋭い痛み。
人形を足下に落としてしまい、同時に黒い刃物がズブズブと胸の中心に押し込まれる。
「っ…」
言葉を発する前に吐血し、その場に崩れ落ちた。
近くで叫び声が聞こえた。
あと、誰かが言い争っている声が聞こえるのに、意識が離れていくせいで誰の声か判別できない。
母に胸を刺された事実なのは確かだ。
うつ伏せのあたしに対し、横倒しになった人形がこちらを見つめている。
きっとこれは罰なんだ。
あたしが言い出したのに。
『兄さんになる』って。
わかっていたのに忘れていた。
『あたし』でいようとした。
その罰なんだ。
母さんは悪くない。
でも、罰があるのなら、せめて、最後に会いたかった。
足立先輩…。
「 」
罪の告白は、ぬいぐるみにしか教えない。
.To be continued