00-9:There is something that I want to tell you
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いつから。
父はいつから正門にいたの。
先輩と何を喋ってるの。
どうして先輩が。
疑問を羅列させながら足早に近づく。
もつれそうになった。
先輩は手に何か持っている。
写真だ。
見えてなくても、なんの写真を見せているか察した。
父がこちらを一瞥する。
口元は先輩に話しかけたままだ。
「お前では、明菜の兄の代わりにはなれない。役不足だ」
あたしは手を伸ばし、先輩の手から写真を横から奪い取った。
嫌な予感は的中した。
遺影に使った、兄の写真だ。
「父さん…!」
父の顔はいつになく険しい。
「明菜、私に嘘をついたな」
初めてかもしれない。
父に対して、こんな沸々と熱くて気持ち悪い感情が湧き上がったのは。
「ウソなんてついてません!」
「友人なんて無駄な縁を作るな」
「先輩は友人じゃない!」
この答えは合っているけど、今言うべきではなかった。
「なら、やはり死んだ日々樹の代わりか。少し、似ているからな」
「違う!!」
声が響き渡り、沈黙が流れる。
先に口を開いたのは、先輩だった。
「夜戸さん、お兄さんいたんだね」
「先輩…」
先輩はこちらを見ない。
「早く言ってくれればよかったのに。写真で見たら、けっこう優しそうじゃない。僕と違って」
こちらを向いてほしい。
「違う…。先輩…、あたし…、そんなつもり…」
どうして初めて会ったはずの父の言葉を信じようとするの。
「違うの? じゃあ夜戸さんにとって、僕って、結局、何?」
「……………」
早く言わないと。
正しいはずなのに間違っている、理不尽な答えを。
今、今、今。
「悪いね。最後までお兄さんっぽくできなくて。…だから、他を捜してよ」
その言葉を最後に、先輩は歩き出した。
「待って…」
あたしは手を伸ばす。
まだ、届いてくれる距離だ。
「足立先輩…!」
袖に指先が触れる。
同時に、振り払われた。
「俺に触るな」
今までに聞いたことのない、冷たく鋭利な声だった。
「……先輩…」
離れて行く背中は立ち止まることも、振り返ることもしない。
それでもあたしは言葉を投げかける。
「あたし、あの場所で待ってますから…」
「やめなさい」
父に後ろから肩をつかまれても、聞こえる声で言い放った。
「あの図書室で、待ってますから…!」
そして、結局一度も止まることなく、見慣れた背中は遠くなり、やがて雪の中へと消えた。
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