18:That’s too bad
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12月15日土曜日、午後22時。
姉川は、テーブルに地図を広げ、全員が集合してから切り出した。
捜査本部に最後に入ってきたのは夜戸だ。
張りつめた緊張感に、「どうしたの」と声をかけずにはいられなかった。
「…『カバネ』の反応がありました。しかも、ひとつに集まらず、3つに分散しているようです」
「姉川さんの探知能力を考慮してかな。バラバラな方が動きやすいだろうから」
足立は地図を覗き込む。
町の中を、北、東、西と小さな赤い丸で囲まれていた。
点を繋げば綺麗な三角形ができそうで、どれも距離は数キロほどしか離れていない。
「3つってことは…」
森尾が目線を上げると、
「2人1組になった方がいいかも」
落合は効率的な方法を提案した。
相談し合った結果、足立・夜戸班、ツクモ・落合班、森尾・姉川班に分かれる。
捜査本部の奥のドアから、トコヨの町に足を踏み入れた。
最近はシャドウ退治ばかりだった。
「何かあれば、クラオカミで援護しますから」
「気を付けて」
気遣う夜戸に、少し間を置いてから「……はい」と姉川は頷いた。
姉川・森尾班は西へ、ツクモ・落合班は東へ向かう。
「行こう、夜戸さん」
「はい」
足立・夜戸班は北へと向かい、大通りの車道を堂々と突き進んだ。
歩道橋の下を潜り抜け、足立は尋ねる。
「この事件が終息したら、夜戸さん達の赤い傷痕、ツクモちゃんに消してもらうの?」
一瞬目を見開く夜戸。
赤い傷痕を消してしまえば、ツクモにその気がない限り、もうトコヨには来れないのだ。
集合する機会を失ってしまう。
少し考えてから答えた。
「…決着がついても、みんなはどう考えてるのかわかりませんけど、また…集まれるのなら…」
このままでいいのではないか、とさえ思った。
「えーと、僕に赤い傷痕はないから、たまに位置忘れちゃうんだよね。夜戸さんが胸、森尾君が右手のひら、姉川さんが左の前腕、落合君が左腰…」
足立は額に人差し指を当てて思い出しながら言うが、夜戸は「違いますよ」と指摘する。
「空君は右腰ですよ」
「えー、そうだっけ。左だったような。…ああ、左は大きなホクロがついてたんだった」
間違えちゃった、と笑う足立。
「…そうなんですか?」
大きなホクロがあるとは知らなかった。
「昨日一緒にお風呂入った時、見ちゃったんだよね」
(足立さん…?)
妙な違和感を感じた。
「ともかく、赤い傷痕の犯人は、久遠さんを捕まえないことには…」
「ねえ、夜戸さん。その秘書が本当に赤い傷痕をつけた犯人だと思ってる?」
「?」
違和感がゆっくりと肥大していく。
足立は淡々と言葉を切らずに言った。
「森尾君の会話…覚えてる? 秘書のことを思い出した彼は―――」
『秘書…。ああ、夜戸さんと一緒に面会室に来た女か』
「けどね、森尾君は、初めて傷に気付いた日のことを、こう言ってた―――」
『夜戸さんの親父さんが来た日だったと思う…。弁護の話し合いの為に接見室で会った日な。傷に気付いたのは…、風呂の時だったっけなぁ…』
「最初は接見室…。次に面会室…。もし秘書が犯人なら、面会室ではなく、接見室のはずだ。だから僕は改めて森尾君に聞いたよ、夜戸さんと初めて会ったのは、どっちの部屋だったのか」
「……………」
ついに、夜戸が立ち止まった。
足立も足を止める。急かしはしない。
しかし言葉は止めない。
「あとさ、さっき、落合君の傷痕について話してたけど、彼の左腰にあるのはホクロじゃなくて、古傷だ」
「そう…だったんですか」
足下に視線を落とした夜戸。
「どうして古傷は知らなかったのに、赤い傷痕のことは知ってたの?」
「…捜査本部を訪れた時、腰の傷痕について…みんなが話してたのを聞いて」
目を合わせようとしない。
「僕達が話してたのは、落合君の左腰の古傷のことだよ。君は途中で会話に入ってきたからね」
「……………」
「そして、彼がペルソナに目覚めて暴走したとき、君は姉川さんに聞いたね」
『まさか、開いたの? 右腰の傷痕』
「探知能力の姉川さんが気づいたならわかる。それなのに、一度も話題にしなかった…というか僕達も知らなかった『右腰の傷痕』の存在に気付いた。その時は服で隠れてたのに。…おかしいよね。落合君は、夜戸さんには一度も話したこともないし見せたこともないそうだよ」
「……………」
「夜戸さん」
足立は一呼吸吸い込んでから、言葉を続ける。
「法律事務所に関わった人間に傷痕をつけたのは、君だ。…君なんだ」
「……………」
夜戸は最後まで、顔を上げなかった。
「物証はない。全部、僕の憶測だ。森尾君の気のせいかもしれないし、落合君もうっかり傷口を見せたかもしれない…。弁護士なんだから、反論くらいしなよ。みんなはそれを望んでる」
そう言われてようやく、夜戸は『カバネ』の侵入が嘘だと気づかされた。
辺りに目を配ると、建物の陰や歩道橋の上に、別方向へ行ったはずの姉川達が隠れてこちらを窺っている。
「……………」
夜戸は身体を震わせた。
「フフッ。そんなの、反論じゃなくて言い訳ですよ」
全員が、はっとする。
夜戸は左手で顔を覆い、真っ暗な空を見上げた。
「あーあ…。なんとなく…、ザンネン」
右手で素早く胸の赤い傷痕からナイフを抜き取り、足立の懐に飛び込んで振り上げた。
ギンッ!
取り出されたリボルバーが、夜戸のナイフを防ぐ。
「足立!!」
「夜戸さん!?」
森尾と姉川は建物の陰から飛び出した。
落合とツクモは歩道橋の欄干から身を乗り出し、信じられないという表情になる。
「…っ!」
足立は、初めて見るその顔に、動揺が生まれた。
「ザンネンですよ。サヨナラで」
夜戸は、金色の瞳を輝かせながら、口元を歪ませてわらっていた。
.To be continued