18:That’s too bad
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12月6日木曜日、午前0時。
捜査本部に、足立、夜戸、ツクモ、森尾、姉川、落合の6人が集まった。
カウンターに座りながら、落合は偶然羽浦に会ったことを全員に伝えたところだ。
「世界を終わらせる…ねぇ。世界制服ってことかな?」
呑気な口調の足立は、落合が持ち込んだトランプでタワーを作っていた。
隣で夜戸も同じようにタワーを作ろうとするが、1組作ろうとするだけで倒れてしまう。
不思議そうに自分と足立を何度か見比べてみるが、工夫がわからない。
「2人とも、真剣に聞いてる?」
遊んでる年長者2人に緊張感はまるでない。
落合も気が抜けてしまうそうになる。
「捕まえて詳しく吐かせりゃよかったのに」
頬杖をつき、スナック菓子を食べながら森尾が言った。
そこでカメラのメンテナンスをしながら姉川が言い返す。
「だから森尾君はモテないのよ」
「突然何だ!?」
「野蛮人」
「はぁ!?」
口から菓子クズを飛ばしながら声を上げる森尾。
横からスナック菓子をつまむツクモ。
「あー…。あまりにも現実味がなくて…、ボクも混乱してた…」
反省する落合は、手のひらで顔を覆った。
「今の世界が気に入らないから、新しい世界に作り直すってことかな。積み木みたいにさ」
トランプでをタワーを完成させた足立が指で軽く突いただけで、出来立てのタワーはヒラヒラと脆く崩れた。
夜戸のタワーは足立が完成させたものと比べて小さいが、3組立ててやっと1段完成したところだ。
「ムチャクチャな話さ」
ボリボリとスナック菓子を咀嚼しながらツクモが言う。
「お前もけっこうムチャクチャだけどな。存在が」
森尾は間髪入れずにツッコんだ。
「赤い傷痕の人間を集めて、その計画に引き込んでるってわけね…。華ちゃんも勧誘されたわけだし」
2組の2段目も成功した夜戸。
森尾は両手を頭の後ろに組んで天井を見上げる。
「俺も、拘置所で暴れてトコヨにい続けたら、勧誘されてたかもしれないってことだろ? どうだろ…。のってたかな…」
「敵対して鉄槌でもかましてたんじゃない?」
足立は笑いながら言った。
そして、最後の1組を完成させようとしている夜戸を横目に、ふう、とタワーに息を吹きかける。
呆気なく倒れるトランプタワー。
残りの1組を立てようとしていた夜戸は両手にトランプを持ったまま固まり、カウンターテーブルに散らばったトランプを雑に掻き集め、足立の後ろ襟をつかんで軽く引っ張り、シャツの中に54枚のトランプを流し込んだ。
「あ! 斬新な仕返し!」
立ち上がった足立はズボンからシャツの裾を出してバサバサと中身を出す。
「ああっ。ズボンの中に入った!」
「さっきから何してんるんさ、2人とも」
呆れるツクモだったが、夜戸はそっぽを向いていた。
もうトランプには手をつけない。
「聞いて聞いて。ウチ、みんなに赤い傷痕をつけた犯人は、久遠じゃないかと思ってるの」
姉川はカメラレンズを拭きながら推察した。
54枚のトランプをひとつにまとめて座り直した足立は、少し考える仕草をして、「接点はあるよね」とだけ言う。
「くおん?」
森尾が首を傾げた。
会っているはずなのに、名前と顔が一致できていない様子だ。
「夜戸法律事務所の弁護士秘書。森尾君も会ったことあるよ」
教えたのは夜戸だ。
「秘書…。ああ、夜戸さんと一緒に面会室に来た女か」
タイプではないが、美人だったことも森尾は思い出す。
「現実では、足立さん以外、久遠とは一度は面識あるはず」
姉川は人差し指を立てる。
「あの人、会った時からどこか苦手だったのよねー」と呟いた。
「落合君も?」
足立の質問に落合は微妙そうに頷く。
「うん…。事務所に行ったときに一度だけ。会話はしてないけど」
「昼頃に華ちゃんと一緒に、ウツシヨの彼女の家に行ってみたけど、やっぱり不在だった」
「マンションの部屋のポストに1ヶ月以上の郵便物で詰まってたし」
夜戸・姉川班が報告する。
現実でも容赦なく奇襲を仕掛けて来た二又のこともあるので、出来るだけ2人1組で行動するように心がけている。
「二又と一緒に新しいアジトに隠れてるのか…」
森尾はカラになったスナック菓子の袋を小さく丸めた。
「トコヨを調べたところ、反応はまったくなし。ウツシヨ(現実)に身を隠してるかと」
探知能力が格段に上がっている姉川は自信をもって答える。
クラオカミを召喚しなくても、近くに気配があればツクモみたいに察知することもできることが判明した。
頼もしい成長である。
「今度は、姉川・落合班で夜戸先生に話聞いてみる」
姉川達の今後の予定に、「あれ?」と森尾は意外そうな顔をする。
「夜戸さんは一緒じゃねーの? 肉親なのに」と森尾。
「危ない事してるって知られてるし、全力で引き止めてくるに決まってるからね」と夜戸。
「目に浮かぶよ…」と足立。
直接会ってその過保護ぶりを散々晒していた。
「ところで、空君、しばらく足立さんに変装してて学校行けなかったでしょ? 大丈夫だったの?」
心配して尋ねる夜戸に、落合は親指を立てて明るい顔で答える。
「すごい怒られた!」
森尾は「なぜ笑顔」と半目で見る。
「噂が流れてクラスメイトからも質問責めだったよ。物語の結末はざっくり、年上のお姉さんとは涙の決別…。「また会いましょう」と遠い日の約束を交わし、僕は日常へと…」
「茶番劇の見過ぎ」
森尾が手をしっしと払いながら遮ると、落合はムッとした表情になってケータイを取り出した。
「一応証拠も作ったんだよ。後生大事にする、相手の写真」
「どこで手に入れて来やがったんだ。まさか、姉川か夜戸さんが協力してるとか」
「あたしは何も」と首を振る夜戸。
「ウチはちょっとだけ」と親指と人差し指の間に隙間を空ける姉川。
落合が見せつけるケータイの画像には、長い黒髪で、肌の色は褐色、眉は美しく太く、パーツがはっきりするような化粧を施された、落合の写真。
「エキゾチック&セクシーなお姉さんってな感じで、華姉さんが仕上げてくれた」
「お前かよ!!」
たまらず立ち上がってツッコむ森尾。
足立は本人と画像を見比べた。
意識しなければ別人には見えるだろう。
足立の身代わりを果たしたり、姉川とコンビを組めば変幻自在だ。
「それをクラスメイトに見せる肝の座り方…。尊敬するよ。そして本人が目の前にいるのにバレなかったんだね…」
落合の女装姿を見た事がないクラスメイトたちは、特に疑いを持つこともなく、感動のあまり涙したそうな。
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