17:This world…
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席は手前から、落合、森尾、ツクモ、足立、夜戸、姉川。
ハロウィンの時と同じだ。
カウンター6席が埋まり、6人がそこを自分の指定席だと思っている。
割りばしで皿のお好み焼きを一口サイズに分け、口の中に入れるとソースと鰹節の香りが鼻を抜け、歯を立てればシャキシャキと千切りのキャベツの歯応えがあった。
ノンアルコールのビールだが、お好み焼きとビール味の炭酸は合う。
「そういえば、助けてもらったお礼、まだ言ってなかったね」
足立が左隣に座るツクモ越しの森尾に声をかけると、次の一口を食べようとしていた森尾の動きが止まる。
「……いらねーよ。きもちわりぃ」
ぶっきらぼうな言い方だが、拒絶ではなかった。
少し考える顔をして、足立に振り向いて口を開く。
「悶々と悩んでお前を捜さなかったんだ」
「それが普通だ」
足立は気にしていない様子だ。
本当に当然だと思っているのだろう。
すんなりと受け入れている。
森尾はそれで済ませたくなくて、首を横に振った。
「いや、そもそも、知ろうとしなかったのは俺の方だ。知るのが怖かった。お前は、隠してるつもりなかったんだろうけどな」
「まあ…ね」
出会って間もない、罪状の当て合いくらいだ。
それ以降は森尾から聞かれてもいなかった。
森尾は「それでも…」と真剣な面持ちになる。
「それでも俺は、お前といつも通りの関係でいたい…。一緒に体を鍛えて、元凶の犯人を追って、戦って、助け合って、ここで今みたいに飯食ったりしたい…。そう思ってる」
まるで告白だ。
足立は薄い笑みを浮かべ、目を伏せた。
「……僕が殺人犯でも?」
「俺だって犯罪者だ。だからってわけじゃねーけど……。…大体、殺人犯と仲良くすんなって法律…ねーだろ。なあ、ないよな? 夜戸さん」
黙って耳を傾けていた夜戸は、チューハイを口にしてから答える。
「六法全書は分厚いけど、一文字も載ってないね」
記載はされてないが、もし記載されていたとしても、きっとこじつけを言うだろう。
夜戸にはわかっていた。
落合は「そーだよ」と頷く。
「犯罪だったら、ボクは一応未遂だったし」
「ウチはトコヨではかなりやらかしたし」
姉川と落合は面目なさそうに言った。
「そもそも僕達の関係って…」
「あーあー。も――、言わせんじゃねーよっ」
照れ臭くなって森尾は、視線を上げてとぼける足立の左肩を小突いて睨んだ。
「大人なら言わなくたってわかんだろ」と。
「……ははっ。聞こえのいい方で受け取らせてもらうよ」
(もう、こんなのないな…って思ってたら……)
小さく笑った足立は、新しい缶に手を付けて缶蓋を開けた。
「らからよぉ~。ひとりれも平気そうなツラしてんじゃねーよ~~~。寂しいだろうがよ~~~」
急に舌足らずになった森尾に、足立、落合、姉川はぎょっとする。
「あらちこのやろ~~」
身を乗り出して真っ赤な顔と涙目で睨みつけてくるが、焦点が合わない。
しかも、森尾から漂うほんのりとアルコールの匂い。
「兄さん…、酔ってる?」
落合は森尾が飲んでいたビールの缶を見た。
どこにもノンアルコールの表示がない。
「え!?」
足立も立ち上がって確認する。
確かに本物のビールだ。
自分が飲もうとした缶を確認すると、こちらもノンアルコールではなかった。
「夜戸さん、本物も混じって買っちゃったんじゃ…。ちゃんと確認したの?」
「先輩とのお買い物に夢中で、気付きませんでした」
言葉は淡々としているが、ほんのりと赤い夜戸の顔。
両手に持っているのは、3本目のチューハイだ。
しかもアルコール入りである。
「こっちもか! 両手離して。こっちによこしなさいってば」
「嫌です。中身が残ってます。あたしは飲みます。先輩も中身残ってます」
「君のチューハイが欲しいわけじゃないんだよ」
しっかり握られたチューハイ缶を奪おうとするが握力が強い。
「イエ-イ!! シェケナベイビィ~~~っさ~~~~!!」
黄緑の部分が真っ赤になった体のツクモが、ビール缶を頭に器用に積みながらカウンターの上でエネルギッシュに踊っている。
「ツクモちゃんはウザさ倍!」
とても厄介だ。
「あはははっ! みんなおもろ~い!」
姉川は腹を抱えて笑っている。
「姉川さんまで!」
「いや、華姉さんは単にツボ入っただけ」
落合は開けた缶を手に取り、「これは入ってないかな」と匂いを嗅いだが、ようやく夜戸の手からチューハイ缶を奪いとった足立は「未成年はノンアルに手を付けてもダメだから」と注意して止めた。
取り返そうと手を伸ばした夜戸も止める。
森尾は「お前ほんと助かってよかったな~」と突っ伏して感極まっていた。
ツクモはどこからか羽毛の扇子を取り出して一昔前のダンスを披露している。
賑やかな時間は明け方まで続きそうだ。
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