17:This world…
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同日、午後18時。
「おかえりなさーい」
「おかえりっさ~」
捜査本部に続くドアを開けたと同時に、中で待っていた姉川とツクモが迎えてくれた。
ジャンプしたツクモを反射的に夜戸がキャッチする。
「た………」
夜戸は返す言葉が出てこない。
口を開いたまま固まっている。
「ただいま~」
横目で見た足立は、こちらが気の抜けた声を出し、足を踏み入れた。
「久々の外はどうだった?」
「どうだったもなにも、人ごみ酔いそうだったよ」
「華ちゃん、メモ通りにお買い物してきたよ」
「ありがとうございまーす」
足立と夜戸から食材の詰まった袋を受け取り、よーし、と腕をまくる姉川。
「ぼちぼち、準備を始めますかっ。休憩終わったら手伝ってくださいねー」
歩きつかれてテーブル席のソファーにどっかりと座った足立は、「え~」と声を上げた。
午後21時。
拘置所は就寝時間を迎え、森尾と落合が捜査本部を訪れた。
「おかえりっさ~」
気に入ったのか、ツクモが明るく出迎える。
「はははっ。ただいま~」
落合はジャンプしたツクモを抱きしめた。
「家かよ、ここは」
呆れながらも、森尾は「ただいま…」とぶっきらぼうに呟く。
「本当に僕の格好してる。顔はそこまで似てる感じはないのに、よくバレなかったね」
同じ格好をしている人物を見ると複雑だ。
「透兄さん、特徴ないから」
落合はまったく悪気のない笑顔で答えた。
足立は、どこからか回転しながら飛んできたオノが頭に刺さった気がした。
「えぇ…」
「あ、いや、顔に大きなホクロとか傷とか、太ってたり、痩せすぎてなかったのがよくて…」
小さなショックを受ける足立に慌ててフォローを入れる落合。
「ねー、手伝ってよっ」
ピンクのエプロンをかけた姉川は、持ち込んだホットプレートを使い、何やら焼いている。
「予想通り、お好み焼きだったんだ」
夜戸はボウルに粉物を混ぜながら言う。
食材のメモから察していた。
「足立さんと森尾君は、しばらくこんないいもの食べられないんだから噛みしめてもらわないと」
「ありがたやー」と両手を合わせる足立。
「言うな」と腕を組んでしかめっ面をする森尾。
「夜戸さん、キャベツ切りすぎ」
姉川はひたすらキャベツを千切りしている夜戸を止める。
「そう?」
「お好み焼きというより、キャベツ焼きになっちゃいますよっ」
「ボクも何か手伝うよー」
女装の方が落ち着くのか、足立の服装から着替えた落合は黄色のエプロンをかけてカウンターの内側に入ってきた。
「女の子たちが僕らの為に手料理しているのを、眺めながら待つのはいいね」
「ひとり、男が混じってるけどな」
傍から見れば違和感なく溶け込んでいる。
「もう、男子。見てるだけじゃなくて、ひっくり返すの手伝ってよ」
頬を膨らませた姉川が、2本のヘラをカンカンと打ち鳴らした。
「僕らも?狭くならない?」
「兄さん、海の家で短期のバイトやってたでしょ。華麗にひっくり返してみせてよ」
「俺がひっくり返してたのは焼きそばだ」
足立と森尾もカウンターの内側へ移動する。
姉川は持ってきたエプロンを2人に手渡した。
足立は赤、森尾は青。
5人は少し手狭に感じた。
ツクモはカウンターでマヨネーズをもって待っている。
「マヨネーズは任せるさっ」
手慣れた手つきで、森尾がお好み焼きをひっくり返す。
美味しそうな焦げ目が出来ていた。
同じく足立もひっくり返そうとするが、
「あちちっ」
熱いヘラにびっくりして具がはみ出た。
飛び出したキャベツがエプロンを汚す。
「ぎゃははっ。へったくそー」
森尾は笑いながら次のお好み焼きをひっくり返した。
その横で姉川がハケでソースを塗っていく。
香ばしい匂いは瞬く間に捜査本部に広がった。
待ってました、とツクモはマヨネーズで絵を描き始める。
自画像だ。
意外と上手く描けていたので全員が注目した。
「うまいっ!」と落合。
「かわいい」と夜戸。
「お前ってこんな特技あったのか」と森尾。
「キャラクターのカフェとかでありそう」と姉川。
「文字は書けるの?」と足立。
「もちろんさ~」
ツクモは得意げに鼻を鳴らし、出来上がっていったものからアルファベットで各々の名前を書いていく。
“adacchi”“morimori”“sorachan”…。
体はどう見てもくねくねと踊っているのだが、器用に、しかも筆記体で書きあげた。
夜戸、落合、姉川は素直に拍手を送る。
「これはツクモの分さ~」
残りのお好み焼きの上に自分の名前を描き始めた。
“tsuk o”
「……………」
ツクモは茫然と黄色の文字を見つめる。
「あらら、あと2文字足りなかった? 自分の名前なのにざーんねん」
足立は意地悪く言ってみるが、ツクモは体を傾げた。
「ツクモは…ツクモさ?」
「僕に聞いてる?」
ムキになって言い返してくるかと思っていたが、らしくない反応に対して足立はツクモの手からマヨネーズを取り、飛ばされた“um”を書き足した。
無理やり入れたので他の字より小さい。
「特技はすごいけどさ、自分のこと忘れちゃだめじゃない? ツクモちゃん」
「わ、忘れるとこだったさっ。ツクモはツクモさっ」
はっとしたツクモは焦るように言った。
「急に神妙になるなよ。心配するだろ」
いつものツクモに戻り、森尾はホッとする。
「ボクもうおなかすいたー」
美味しそうな匂いに耐え切れず、落合は声を上げた。
「ほとんど出来たし、全員そろったし、食べよっか。おかわりもできるからね」
姉川はエプロンを取ってカウンターから出ようとする。
夜戸達もそれに続いた。
「飲み物は各々好きなのとって」
夜戸は冷蔵庫にしまっておいたノンアルコールや飲料をカウンターに適当に並べる。
「アルコールが入ってないのは残念だけど、気分気分」
足立はビールと似たようなラベルの缶をとって開けた。
炭酸の弾けた音がする。
「透兄さん、乾杯しないとっ」
飲もうとした足立を、落合が声をかけて止める。
「なんの乾杯?」
ツクモは「何言ってるさ~」と呆れた。
「アダッチーの奪還祝い、ハナっちの退院祝い、明菜ちゃんのお父さん奪還祝い、ハナっちとモリモリの新たなペルソナ祝い、カバネやっつけた祝い、仲良し6人勢ぞろい祝い、そしてツクモ祝いさ!」
「お祝いばっかだねぇ。最後のなに?」
苦笑する足立に、隣に座る夜戸は「いいじゃないですか」とチューハイの缶を開けた。
「めでたいことがいっぱいあって」
「そうそう! 今日は食べて飲みましょー!」
すっかりテンションが上がっている姉川に森尾が「傷口開くぞ」と注意するが、聞いている様子はない。
高々とビールを掲げ、「かんぱーい」と声を上げ、夜戸達は隣同士でこぼれそうなくらいの勢いで缶を触れ合わせた。
気持ちの良い軽快な音が鳴った。
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