17:This world…
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同日、午後13時。
足立と夜戸は、ウツシヨ(現実)の繁華街を歩いていた。
トコヨと違い、シャドウはおらず、たくさんの人間が行き来している。
久しぶりの人の中を、足立は歩きづらそうに夜戸と肩を並ばせながら歩いていた。
「拘置所の外なんて、トコヨで慣れちゃってったから、実際の繁華街って人がゴミのよう…じゃなくて、人混みがすごいねー。変装しなくても、これだけ人がいたらわかんないんじゃない?」
「だからって変装解くの、やめてくださいね。トコヨでわかってると思いますけど、監視カメラだって至る所にあるんですから」
変装といっても、軽装だ。
足立は姉川が用意した服を着ている。その服はテーブル席に置かれていた。
畳まれた服の上には、こちらもメモ用紙があり、“変装してから出かけてね。たまにはシャバの空気も味わったほうがいいよ”と書かれていた。
『おーっと、用意がいい…』
『…お言葉に甘えて、気分転換しましょう。どうせ、足立さん、逃げないでしょ?』
『君らは僕を信用しすぎだよ…』
呆れて肩を落とす足立に、夜戸は用意された服をつかんで軽い力で押しつけた。
『足立さん、嫌なら…あたしひとりで行きますよ』
言葉と行動が一致していない。
心なしか寂しそうだ。
『…行かないとは言ってない』
足立は仕方がなさそうに受け取った。
赤と黒のセーターとズボンとコートを着、首には黒のマフラーを巻き、頭にはニット帽を被り、ダテの黒縁眼鏡をかけている。
「足立さん」
立ち止まった夜戸は、足立のマフラーに触れ、解けそうな端をつかんで結び直す。
「マフラー、しっかり巻かないと風邪引きますよ」
「…君って世話焼きなとこあるね」
「足立さんが世話焼かれなだけです」
「世話焼かれって…」
苦しくない程度に結び直してから、ぽん、と叩いた。
足立はふと周りを見る。
若者の羨ましげな視線と、主婦の微笑ましい視線と、昔の青春を懐かしむようなおばあさんの視線…。
「夜戸さん、メガネは?」
「え? ヒビが入ってたので、華ちゃんに預けました。着替えを買ってくるついでに修理に行ってくれたみたいで…」
メガネをかけていない夜戸は、何気に人の目につく。
「このメガネかける?」
自身の伊達眼鏡を外す足立だが、夜戸は首を横に振った。
「あたしは、あのメガネしかかけません。足立さんは少しでも隠してください」
「なんなのその変な頑固道」
行きましょう、と夜戸は足立の袖を引く。
自然な触れ方だが、以前は、自分から足立に触ろうとしなかった。
小さな手を見つめ、足立は夜戸に引かれるままに歩を進める。
「あ、足立さん!」
先程から被疑者の名前を呼んでいるが、夜戸の中ではアウトにならないのだろう。
足立はつっこむのをやめた。
「あのお店、空君が紹介してくれたオススメのお店です」
落合との話し合いで訪れた、パンケーキの店だ。
中から、ウクレレのハワイアンなBGMが音漏れしている。
お店の外観も、造花のハイビスカスやヤシの木が装飾されていた。
今は肌寒い季節だというのに、ここだけ真夏を感じさせる。
店の前に出されたブラックボードには、“期間限定 サンタのパンケーキ”の文字とそのイラストが描かれてあった。
「パンケーキ、食べた事あります? あたしも空君に連れて来てもらわなかったら知らない食べ物でした。どうやらホットケーキとは話が違うみたいです。クリームとフルーツが贅沢にのってて、パンケーキも5枚のせなんですよ。中には、デザートじゃなくてフードとして売られてるものもあって…。明らかに一人分だと多すぎるのに、これがどんどん口の中に入れられて…」
「入る?」
「いいんですか?」
真顔で熱弁する夜戸に押し負けた。
冬だというのに、黄色い半袖のシャツの店員に席を案内され、手前にある2人掛けのテーブル席へと通された。
「女の子とじゃないと、こういうお店は男ひとりじゃ入りづらそうだ」
実際に店内にいる客はほとんどが女性だ。
男も混じっているが、連れが女性で大体がカップルである。
店員が注文をとりにくる。
ついさっき捜査本部でランチを食べたので、期間限定のパンケーキを1つと、ホットコーヒーを2人分注文した。
「デートですか?」
にこにこと聞いてきた店員に、夜戸と足立は目を合わせる。
「デート…?」
「ただいま、デート割を実施してまして…」
足立は、メニューに挟まっていた手描きのお知らせに視線を落とす。
“「デートです」と言うと、ドリンク無料”と書かれていた。
「デートです」
足立は笑みを返してきっぱりと言う。
夜戸は「え」と目を丸くした。
足立が宣言したことにより、ドリンク無料が適応された。
「で…、デートでいいんですか?」
「違うの? 僕達の中じゃ、おつかいだけど…。それもデートって言わない? この状況は、言い方ひとつだと思うよ」
周りから見れば、カップルだ。
意識したところで、足立としてはもう恥ずかしがるような年齢でもない。
「…なるほど!」
「デート」とは無縁だったというより意味を知らなかった夜戸は、力強く頷いた。
それでもやはり照れは隠しきれなかった。
「お待たせしましたー」
コーヒーと5枚も重ねられた分厚いパンケーキが夜戸と足立の目の前に置かれる。
砂糖で作られたサンタがのせられ、大量の生クリームと大量のイチゴがパンケーキを埋め尽くすようにのせられている。
「すご…」
足立は唖然とした。
見た目だけで腹が膨れ、胸も重くなる。
すでにフォークとナイフをつかんでいる夜戸は、食べる気満々だ。
「やりましょう、足立さん」
「食べましょうじゃなくて?」
漂う雰囲気は、戦闘モードの夜戸だった。
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