00-8:It's funny
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11月12日月曜日、昼休みを迎え、あたしは重い足取りで図書室へと向かった。
足立先輩に暴言を吐いた次の日から、図書室に行っていない。
ほとんど日課だったから、昼休みのクラスメイトの視線が気になった。
珍しい、と言いたげな、そんな視線。
勉強しているところをひけらかしたくなかったから、突っ伏して眠ったふりをしていた。
1週間経過すれば慣れるものだと思っていたが、根本的に何かが間違っているような気がして、ようやく重い腰が上がった。
謝ろう。
遅いかもしれないけど。
図書室に近づいた。でも、中を覗けなかった。
うつむいたまま、固まってしまう。
「…あれ?」
どうして、こんなに緊張しているのか。
冷や汗が出た。
もし、いなかったら。
もし、冷たくされたら。
もし、嫌われていたら。
浮かび上がる後ろ向きな仮定に、あたしは押し潰されそうな気持ちに耐え切れず、振り返って教室に戻った。
人に対して「怖い」なんて気持ち、とっくの昔に消えていたと思った。
その日、下校時間を迎え、あたしはもう一度図書室へと向かった。
後半の授業が、頭に入ってなかったからだ。
この感覚は久しぶりだ。
6月以来だろうか。
「!!」
雨も降ってないから、いないと思っていた。
油断していた。
先輩がいつもの席にいる。
図書室に足を踏み入れて、戻りづらくなった。
キィ、と背後のドアが閉まる。
図書室は、あたしと先輩だけみたいだ。
「?」
先輩は、ノートを下敷きに突っ伏している状態だった。
「…足立先輩?」
ゆっくりと近づく。
つむじがよく見えた。
先輩は、微かな寝息をたてながら眠っている。
机にはいくつもの参考書やノートが広げられ、消しゴムのカスが散らばっていた。
枕にされている腕の隙間から、先輩の閉じられた目が見える。
目元には、クマがあった。
受験はもうそこまで近づいている。
睡眠時間も削っているのだろう。
頑張って、と声をかけるところなのだろうけど、先輩は先輩なりに頑張っていると思う。
応援の言葉をかけるのは、逆にプレッシャーなのではないか。
誰かを応援するなんてこと、経験したことがないからわからない。
望む大学に受かってほしい。
そして、前に言ってたみたいに、公務員になってほしい。
願うだけなら、いいですよね。
もっとわがままを言わせてもらうなら、先輩をこのまま追いかけたい。
隣にいたい。
新鮮な気持ちだった。
これはもう…「なんとなく」じゃなくて…。
「あ…」
本人も眠るつもりはなかったのだろう。
顔にかけたメガネが斜めに不自然にずれている。
傷つけそうだったので、そっと手を伸ばして起こさないように気を付けながら外した。
外側のレンズから先輩を、窓の向こうを見るように覗く。
少し縮小されて見えた。
『じゃあ…、似合わないメガネでもかけるとか』
先輩に言われたことを思い出す。
これが似合わないメガネかどうかは知らない。
ふと左横に振り向く。
この時期は、夕方くらいになればだいぶ空が暗い。
窓が鏡となって、メガネを手にしているあたしの姿を映している。
そういえば、文化祭の日に、先輩からメガネを借りた時、あたしその時の自分の姿を見てなかった。
小さな好奇心で、試しに先輩のメガネを自身にかけてみる。
それから窓を見た。
なんというか。
なんといえばいいのか。
「っく…」
噴き出した声。
先輩に振り向くと、先輩はわずかに顔を上げてくすくすと笑っていた。
「やっぱりだ。似合わない。ははっ」
小さな笑い声とどこかあどけない顔に引き寄せられるように、あたしの中から、小さな何かが「ふっ」と音を立ててこぼれた。
「ふふっ。変なの」
2人分の笑い声が、少しの間、静かな図書室を包み込んだ。
.To be continued