16:I want to touch you
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姉川の新たなペルソナ―――『クラオカミ』。
クラミツハと比べ、長い後頭部に巻かれていた布は解放されて波打つ長い黒髪にはクリスタルのスターフィッシュが散りばめられ、外された口布の下に口部分はなく、耳部分の魚のヒレは透き通っていて形は蝶の翅を思わせるほど大きく広がり、両目の部分は遠くまで見渡せるような望遠レンズに変わっていた。
細身で水色の肌にはアラビアン風の白いレースのドレスを纏い、露出している腕や脚は、ダイヤモンドの魚鱗で覆われている。
クラオカミの手が両手を胸の前に置いて間隔を開けると、水の球体が作り上げられる。
そこから飛び出したのはいつもの水魚ではなく、水で体を形成された2体のイルカ。
水魚の時と同じく目はカメラのレンズだ。
2体のイルカは宙を泳ぎ、距離をとって羽浦のまわりを旋回する。
落合は見上げて不思議そうに「イルカ…?」と呟いた。
「な…、なに…?」
情報にはない新しいペルソナに、羽浦は警戒する。
水のイルカは、本物と同じ鳴き声を放った。
羽浦はハヤマツミをイルカに向けて放つが、2体のイルカは身を翻して華麗にかわす。
「!?」
「もうあなたの攻撃は当たらない」
姉川はゆっくりとした歩調で羽浦に向かって歩き出す。
「華姉さん! 危ない…!」
落合は呼び止めるが、歩みは止まらず、羽浦も戸惑いながら姉川本人に攻撃をしかけた。
「ハヤマツミ!」
ハヤマツミが矢を一気に5本放つ。
放たれる直前に姉川は少し横にずれた。
それだけで、飛んできた矢はまるで姉川を避けるように通過した。
「!?」
「ぜ、全部避けてる…!」
その場にいる誰もが驚いた。
羽浦は焦った表情を浮かばせ、次々と矢を放つが、すべて姉川にはかすりもせずに壁や床に刺さった。
たったほんの少し歩の角度で確実にかわされてしまう。
「こ、来ないで! 来ないで!!」
怯えと疲労で羽浦はアイスピックの先端を向けたままたじろいだが、姉川はすぐ目の前まで近づいた。
「あ」
言葉を放つ前に、パンッ、と軽いビンタをされた。
「ええ加減にせぇ」
「っ…」
ゴーグルから見えた目と鋭い声に、体が委縮する。
アイスピックを振り上げても、きっとかわされるだろう。
「羽浦さん! もう…」
「ソラちゃん、動かないで!」
落合は立ち上がろうとするがツクモに制される。
姉川の視線が一瞬、落合に移った時だ。
「!」
羽浦は、自ら消火器で割った窓から飛び降りた。
はっとした姉川はすぐに追いかけ、窓から身を乗り出して手を伸ばすが、届かない。
「羽浦さん!!」
飛び降りた羽浦に、落合は声を張り上げたが、下を確認した姉川はホッと安堵の表情を浮かべた。
「あの子のペルソナ、飛行も可能みたい」
落下途中で、羽浦はハヤマツミを召喚して自身を抱えさせ、そのまま上昇して薄暗い空の向こうへと逃げたのが見えた。
遠くにある影が米粒より小さくなった。
クラオカミで追跡はできるだろうが、使い手本人が追いつけるスピードはない。
もし羽浦がペルソナを使用しなければ、と思うと姉川は冷や汗が出た。
「く…っ」
「ソラちゃん!」
落合が倒れる。
一時的に場がおさまり、安堵のあまり力が抜けた。
体の自由はきかず、立ち上がることもままならない。
心配したツクモは落合の傍らに寄り添う。
「……あの子を…、助けたかった…。どうすれば自分の心が救われるのか迷子になってて、息苦しそうだった…」
他人の為に涙を浮かべる落合に、見下ろす姉川は優しく微笑む。
「救い方はひとつだけじゃない。考えればいいよ。また会うことになるだろうから」
落合はゴシゴシと袖で涙を拭いながら頷いた。
「ツクモ、空君を運んで一度ウツシヨに戻して。この矢はそれで消えるから。ケガもしてるから手当ても必要ね。あとでクラオカミで治してあげる」
「華姉さんは?」
姉川が背を向けてどこかへ行こうとするのがわかった。
落合は首だけ動かして尋ねる。
姉川はゴーグルをつけたままだ。
このままペルソナを使い続けるつもりだろう。
「ウチはやること終わらせてから戻る。無理しないように気を付けるから心配しないで。…行こう、クラオカミ」
クラオカミが生み出す水の球体から、さらに数体のイルカが形成され、屋内や屋外へ放たれる。
「もう、ただ捜すだけやない。ウチが、みんなを導いたるわ!」
完治した身体ではないのに、使命感が姉川を突き動かし、クラオカミとともに捜査を再開した。
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