16:I want to touch you
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
廊下と壁は矢の雨の跡が残っていた。
近距離では羽浦のアイスピックで体を麻痺させようと攻撃し、遠距離ではハヤマツミの魔封の矢が放たれる。
先程、アイスピックで右腕を痺れさせられ慣れない左腕でオノを片手に、防戦一方の落合は疲弊していた。
「っ!」
避けた拍子に背を壁にぶつけると、すぐ横に矢が突き刺さった。
徐々に追い込まれている。
「…もっと遠くへ逃げればいいのに」
羽浦は呟くように言った。
「ういにはわかるよ。そうしないのは、お仲間の病室が気になるからでしょ?」
ニヤリと不敵に笑う。
落合は、視線が自分に向けられていないことにはっと気づいた。
ハヤマツミが氷結魔法を放つ。
放たれた先は、姉川の病室のドアだ。
「ネサク!!」
ネサクが病室の前に飛び出して盾となった。
氷結魔法がぶつかり、ネサクは病室の前に倒れ、消えてしまう。
「ぐ…!!」
痛みに呻き、油断を生んだ。
左脚に鋭い痛みを感じた。
足の甲にアイスピックが突き刺さっている。
羽浦が投げつけたのだ。
「!?」
不意に左脚の感覚がなくなり、バランスが崩れる。
アイスピックから顔を上げた瞬間、放たれた1本の矢が右肩に突き刺さった。
「う…っ」
そちらの痛みは一瞬だ。
ペルソナを封じる矢で射られ、オノが消える。
落合は引き抜こうと矢をつかんだが、バチッ!と電流が走り、反射的に手放した。
自力で抜けないようになっている。
(これじゃ、透兄さんも…)
足立も自力で引き抜こうとして同じ目に遭ったのかもしれないと考えた。
「単純」
近づいた羽浦が落合の足からアイスピックを引き抜き、右足で落合の肩を蹴って転ばし、仰向けの腹を踏みつけた。
「う…」
「さっきの方がマシな動きしてたのに、急に鈍くなっちゃって…」
窓に映された羽浦の過去を垣間見てからだ。
知らない男性に囲まれ、身勝手に触られる恐怖は、見ていた落合からも感じ取れた。
「!?」
落合の顔を見下ろした羽浦は、驚いて一歩下がった。
落合の目から、涙がこぼれていたからだ。
「お…、男のくせに何で泣いてるの?」
困惑しながら尋ねると、落合は左手で顔を覆った。
「君にひどいことをした人達…、ぼくは…同じ男として恥ずかしいよ」
「もう遅い」と言われた時、何も言い返すことはできなかった。
羽浦の心の傷は深く、羽浦が毛嫌いしている男の自分に何ができるのかと。
何が…。
何もできないのでは。
「え、演技しないで…!」
羽浦は動揺する。
誰も自分の為に泣いてくれたことがなかったからだ。
クラスメイトに打ち明けても、最初は心配してくれたように思っていた。
『ういってチカンに遭ったらしいよ。しゅうだんチカンだって』
『あはは、マジで? ウケるー。つかチカンされんの?』
『ぷはっ。確かに! あの子、どっちかっていうと地味系なのにね。触って楽しめんのかっつーの』
『地味のクセにあたしらに合わせてスカート短くしたり、化粧したり…』
『でさでさ、どこ触られたか聞いたの?』
『あたしも気になって聞いたんだけどォ、「い…色んなとこ」、って』
『どこだよっ』
『そんでさ、マジ泣きそうになってたから心配してるフリして切り上げたわ。正直、チカンされましたアピールとかマジウザいんですけどー』
女子トイレの中で響き渡る笑い声に、個室トイレで聞いていた羽浦は静かに泣いていた。
「悪くない」
誰かに言ってほしかった言葉が落合の口から出る。
「やめて…」
「羽浦さんは、悪くない」
「やめて!!」
落合の血が付着したアイスピックを向けた。
「気丈に振る舞わなくていい。君の手は、ずっと震えてるよ」
「…っ!」
「君にはちゃんと、捜してくれてる家族がいるじゃない」
手を差し伸べるように落合の声色は優しかった。
羽浦は我慢するように歯を食いしばり、アイスピックを握りしめて落合の胸倉をつかみ、引っ張り上げて睨みつける。
「さっきから何…。なんなのアンタ…!? 本当に目障り…!!」
「羽浦さん…」
落合の言葉を遮り、羽浦は怒声を上げた。
「うるさいうるさい!! おねがいだから、ういに構わないで、死んでよ!!」
羽浦はアイスピックを振り上げる。
それでも落合は羽浦の瞳からは目を逸らさなかった。
睨みつける金色の瞳は、潤んでいた。
「かわいい女の子がそんなもの振り回しちゃダメでしょ」
羽浦の手首を、背後から何者かがつかんだ。
「!?」
「華姉さん…!?」
羽浦と落合は目を大きく見開く。
病室で護衛されているはずの姉川本人が現れたからだ。
「ハナっち復活さ!」
姉川の肩には、嬉しそうに涙を滲ませて声を弾ませるツクモがのっていた。
羽浦は手を振り解き、すぐに3人から離れて距離を置く。
「華姉さん、大丈夫なの!?」
「まだ傷が痛むけどね」
姉川は苦笑しながら「イタタ」と腹に手を添える。
「次から次へと…」
羽浦は予想外の事態に憎々しげに落合達を睨みつけ、ハヤマツミを召喚する。
「今ここでみんな死ねばいい!」
「ツクモ、空君を守って」
羽浦と向かい合いながら姉川は言った。
ツクモは「任せるさ」と返して姉川の肩から飛び降り、ミカハヤヒの円盤でバリケードをつくった。
「そんな身体で戦うの!?」
「もちろん。そのために起きたから。…あとで貴重な臨死体験の話聞いてね」
いつもの口調でそう言って、姉川は左腕の赤い傷痕を自らの両目を覆うように当てる。
中央に仕切りのないピンクミラーのタクティカルゴーグルが出現し、姉川の両目に装着された。
いつも通りでないのは、口にした名だ。
「クラオカミ!!」
.