16:I want to touch you
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甲冑を身に纏い、いつでもミカハヤヒが召喚できるように、ツクモは姉川が入院している病室に待機していた。
姉川はウツシヨ側の病室にいるため、ここトコヨ側の病室はステンレスのベッドだけが残されている。
もし、この病室に向けて『カバネ』が攻撃を仕掛けてきたり、姉川をトコヨに引きずり込んで直接始末しようとすれば、ツクモが全力で阻止しなくてはならなかった。
『ツクモ、華ちゃんとみんなをお願い』
夜戸の手紙には、そう書き残されていた。
『何があっても絶対部屋から出てくんなよ!』
森尾にも念を押された。
最後の砦という重要な役割を任され、意気込んでいたツクモだったが、部屋の向こう側から聞こえるけたたましい音に、落ち着く気配はなく部屋の中をぐるぐると回っている。
「ツクモが…、ツクモがここを守らないと…」
何があっても、ということは、部屋の外で戦闘している森尾と落合に何かあっても飛び出してはならない、ということだ。
危険を冒しているとわかっている状況に、ツギハギの中にある心でも非情にはなれなかった。
「うぅ…。ハナっちはツクモが守るさぁ…」
自分に繰り返し言い聞かせ、一度止まってベッドを守るように構える。
「明菜ちゃん、モリモリ、ソラちゃん、アダッチー…」
しばらく足立の頭上にのっていない。
鬱陶しがられるが、ツクモにとっては落ち着く定位置となっている。
夜戸の抱っこも恋しい。
寂しい気持ちが湧いてくる。
泣きそうになった。
「怖いさ…。寂しいさ…。……ツクモは守らないといけないのに…、情けないさ…。…こんな後ろ向きの心なんて…いらないさ…」
いつかの誰かが言った通りだ。
『お前に心は必要ない』
それでも、別の誰かが違うことを言ってくれたのだ。
『怖い? 僕もさ。よかった。君もおんなじなんだね。おんなじだからさ、寂しくないね』
顔が思い出せない。
大切な記憶のはずなのに。
モヤを取り除こうとすれば、この身が張り裂けそうな気がした。
建物が揺れるほどの振動と轟音が聞こえる。
くよくよしている場合ではない。
いつ部屋には入ってくるかもしれない敵に構えておかなければ。
「みんな頑張ってるさ…。寂しくない…。寂しくないさ…。ツクモも頑張らないと!」
一方、病室の外では、ハヤマツミが薙刀の先端を向けると、氷結魔法が放たれた。
ネサクは大鎌を大きく振るい、火炎魔法をぶつける。
熱と冷気がぶつかり合うと、ボシュッ、と白煙が発生して廊下を包んだ。
しかし、薙刀と大鎌が打ち合うと、衝撃で起きた風が白煙をあっという間に散らす。
睨み合う落合と羽浦は、どちらも息を荒げていた。ほとんど消耗戦だ。
「やめよう、羽浦さん。こんな戦い…」
「うるさい! 死んでよ!」
ハヤマツミが落合に向けて連続で矢を放った。
ネサクは大鎌で叩き落とし、的を外して通過した矢は窓ガラスを突き破って外へと飛んだ。
「!」
羽浦が突進してくる。
落合はオノを振り上げたが、辛そうな羽浦の表情を見て躊躇が生まれた。
「うっ!?」
オノを持つ右腕の前腕を、アイスピックで刺された。
乱暴に引き抜かれてすぐに距離を置いて離れたが、刺された右腕に違和感を感じ、オノを左手に持ち替えた。
瞬間、だらりと右腕の力がなくなった。
指一本動かすこともできない。
(し…、痺れる…)
羽浦はアイスピックを振るい、付着した血を床に落とす。
落合は冷静に分析した。
(あのアイスピックに刺されると、その部分周りが麻痺するのか…)
道草小景のハラヤマツミの能力と似ているが、違う。
ハラヤマツミのツタから抜け出せば元の感覚を取り戻したが、あのアイスピックに一突きでもされれば、すぐさま自由を奪われる。
しかもそこを矢で狙われ、ペルソナの能力を封じられればかなり不利な状況に追い込まれることになる。
スズメバチを相手にしているようだ。
次はきっと動けなくするために足を狙ってくるだろう。
躊躇した場面も見られている。
「人殺しが怖いくせに、大層な武器を持ってるのね。動きづらいんじゃないの? その気になれば頭とかカチ割れそうだもの」
羽浦は嘲笑う。
「ボクのオノは、人にケガを負わせるためのものじゃない…。前に、明菜姉さんが教えてくれたんだ」
捜査本部で、夜戸、ツクモ、姉川、落合と集まっていた時だ。
『シャドウ相手ならともかく、このオノを人間に使うとなると、ゾッとするよ』
『カバネ』は人間だ。
対峙して、誤って殺してしまったら、と不安になった。
『ペルソナは、自身の心の形かもしれない…』
言い出したのは、夜戸だ。
それを聞いて、落合はますます落ち込んでうなだれた。
『じゃあ…、ボクってこの中で一番危ない人間なんじゃ…』
『兄弟そっくり』
『え?』
『バールとオノって、何も攻撃だけが使い道じゃないからね。気付かない? そのオノの形…』
「消防斧なんだよ。火事とかで人が閉じ込められてる時に、壁を壊して救出するためのオノだ。兄さんのバールだって、用途は同じ」
『誰かの為の武器なんだと思う。なんとなくだけど』
夜戸はそう言って自身の胸の傷痕に手を当てた。
「羽浦さん…。君を倒すんじゃない。救いたいんだ」
「……………」
ノイズ音が廊下に響き渡る。
はっとした落合は辺りを見回す。
ガタン、ゴトン、と電車の音が聞こえた。
窓ガラスに、電車に乗っている羽浦の姿が映る。
学生カバンを抱えたまま委縮し、酷く怯えた様子だ。
“やめて…”
四方八方から伸びる手が、自身の身体を触る。
“嫌…。ういに触らないで…”
涙目で電車の中を見回しても、誰も助けてくれなかった。
視線は合っても、バツが悪そうにそっぽを向くだけ。
“助けて…!”
「いやあああああ!!」
「!?」
廊下の片隅にあった消火器をつかみ、羽浦は勢いをつけてぶつけ、窓ガラスを叩き割った。
映像が消える。
冷や汗を浮かべて呼吸を乱す羽浦は、持っていた消火器を落合の足下に投げ捨てた。
「見ないでよ!! どーせ、「お前が悪い」とか思うんでしょ!?「ひとりで電車に乗ったのが悪い」。「そんなカッコをしていたのが悪い」。「叫ばなかったのが悪い」…」
髪を掻き毟り、恐怖を払うように頭を振る。
「救いたいって何それ…。もう遅いんだよ!!」
悲痛な声で叫び、羽浦はアイスピックを振り上げた。
ハヤマツミの矢が、落合目掛けて放たれる。
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