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とある建物の広いラウンジで、外套のフードのみ外したU―――羽浦ういは眉をひそめて「不機嫌」を表現していた。
一人掛け用のソファーに膝を立てて座り、宙を睨みつける。
「あんな男、早く始末すればいいのに…」
Yの能力で、強制的に仲間に引き入れようとするやり方に納得がいかなかった。
1週間以上は経っている。
「そろそろYも、諦めるんじゃないの?」
ぶどうジュースの缶を片手に、ラウンジを通りかかったOが声をかけた。
外套を纏い、フードは被ったままだ。
羽浦の睨みがOに向けられる。
「アンタには話してない。死んで」
『人が死ぬのを黙って見過ごすなら、君は奴らと同じになる…!』
ふと、羽浦の説得を試みようとした落合の言葉を思い出し、心にトゲを感じた。
すぐには取れないトゲに唸りたくなる気持ちになり、膝に額を当てる。
(……ういは…、同じになる事なんて…、怖くない…っ)
覚悟があって『カバネ』にいるのだから。
(同じ……)
道草小景のことを思い出す。
息子の事は嫌いだったが、自分の子どものために何かをしてあげたいという母親の親心は尊重していた。
羨ましいとも思った。
QとYがあっさりと切り捨てたところが後味を悪くさせた。
そもそも道草小景を囮にする話も聞いてもいなかった。
「……………ねえ、人なんて死んでも平気だって思える?」
ラウンジを去ろうとしたOを呼び止める。
「……………」
「ちょっと」
「ぼくは今死体だから」
背は向けられたままだ。
「死んで」と言われた事を根に持っているのがあからさまに表される。
「うわ。ヤなやつ。一度蘇生してもっかい死んで」
Oは舌を打ち、呆れたようにため息をついてラウンジに入り、羽浦から向かい側斜めの一人掛けのソファーに座ってジュースを口にする。
「人の事そうやって「死んで」って言うわりに、変なこと不安そうに聞くよね、U。ぼくは嫌な奴は全員死ねばいいと思ってるよ。暴力、罵声、無視、嫌がらせ、嘲笑い、見て見ぬふり…。1つでも当てはまるなら全部嫌な奴ら。全部消えちまえばいい奴ら。殺したい奴ら…」
どんどん独り言のように声のボリュームが下がっていく。
缶を握る手に力がこもっていた。
「でも殺してないよね」
羽浦に指摘され、一度冷静になる。
「……………」
「死ねって思ったり口にするのは簡単だけど、実行は…、ういもない」
YとQは、その気になれば人を殺すことなどなんともないと思っているように見えた。
羽浦は、まだ血で汚れていない手のひらを見つめる。
右の手首には、リストカットのような赤い傷痕があった。
「そのへんは君と一緒にしないで。ぼくは嗅ぎまわってる奴らを、自作の爆弾で殺そうとしたよ。ビルごと」
頼んだのはQだった。
今後の『カバネ』の活動に、夜戸達は邪魔だったから。
「でも奴らが死ななくて、ホッとしたように見えた」
「……今日の君はよく喋るよね」
珍しいものを見たような驚きだ。
「アンタは年が近いから、十万歩譲ってまだマシ。アンタの方がガキだしね」
「子ども扱いするなよ」
「中坊。ガス野郎」
「うるさい。男嫌い」
目も合わさずに罵り合う2人。
「珍しぃ~。仲良さそうじゃねーのぉ? Uちゃん、O君」
気配もなく現れたYに、2人の心臓が同時に跳ねた。
平静を装い、羽浦は嫌悪の表情で見る。
「は? 眼科行って来たら? それとも耳鼻科? 死ぬの?」
「ガスでもまいて黙らせようか」
OもYの不本意な言い方に腹を立てた。
「2人して辛辣ぅ~」
Yはまったく気にしている様子はなく、むしろ慣れた調子で返す。
「で、足立の方はどうするの? ういの能力が、現実に戻れば消えるってことはクラミツハの女にバレてるでしょ」
足立は未だに、羽浦のハヤマツミの能力でペルソナを封じられている状態だ。
封印状態は持ち続けるが、一瞬でもウツシヨに戻れば解除される仕組みだ。
「そーそー。そのことでお願いがあってきたんだぁ、2人に」
手を鳴らし、ニヤニヤとした笑みを浮かべて2人に近づく。
「お願い?」
「うん。そのクラミツハの女、殺してきてくれるぅ?」
「「は?」」
羽浦とOは耳を疑った。
ちょっとそこまで買い物に行って来て、というような軽い口調だった。
「現実で襲撃かけたのに、生きてやがんの、そいつぅ。しぶといよな~。んで、病院も突き止めたからサクッと息の根とめてきてほしいんだ。おつかいだと思ってぇ」
お願い、と両手を合わせられたが、羽浦とOは硬直したまま、しかし激しい動揺を覚えてYを凝視する。
「い、いきなり、そんな…っ」
「そ、そうだ。Yが仕留め損ねたんだ。Yが行けばいい!」
正気を疑うほど、Yの態度は落ち着いている。
「いや、いい機会だと思ってさ。お前らそんなこと言っていつ人殺すんだ?」
「「…!!」」
馬鹿にするような笑いだった。
「相手は動けない状態。これってチャンスだろぉ? 何もヒットマンみたいに動く人間を殺せって言ってんじゃねーんだ。しかも相手は、探知型のペルソナ使い。今後、生かしていいことなんて一つもねぇ。今にここを嗅ぎつけやがるぞ。学生の部活気分でやってもらっちゃ困るんだよ。…あ、お前ら学生か。ぷはははっ」
「……………」
腹を抱えて笑うY。
当然2人にとっては笑えることではない。
みるみる血の気が引いていくのを感じた。
Yは手を伸ばし、Oの頭を撫でる。
不意にOは肩を揺らした。
「なあ、お前ら本当に現実捨てる気あんのか?「法律」ってのは現実のルールだ。ここはそんなもの存在しない。あの女をトコヨに引きずり込んで始末すればいい。誰もお前らを咎めない。むしろオレは祝福を送ってやるよ」
Yの手が、今度は羽浦に伸ばされるが、はっとした羽浦はYの手を払いのける。
「触らないで、死んで」
「……『カバネ』に必要なこと…?」
うつむいたOが呟く。
「O…?」
Oは羽浦を見ない。
Yは大袈裟に両手を広げる。
「ああもちろん。Qも喜ぶぜぇ。…お前らにとって、これは与えられた試練だ。お前は「正義」そのものなんだろぉ? お前の正義を示せ」
「……………試練…。正義…」
反芻するOの瞳は、鈍い金色をさらに輝かせた。
手の中の缶は、滑り落ち、紫色の液体が高そうな絨毯を汚す。
羽浦には血に見えた。
数時間後、羽浦とOは、姉川が入院している病院へと向かった。
建物のモニタールームから、YとQが建物の門から遠ざかる2つの影をカメラ越しに見送ってさらに時間が経過する。
「ガキは扱いやすくていい。あれくらいの年頃の時は、オレも純真無垢だったのかねぇ…。Qちゃんはどんな子どもだった?」
「どうでもいい」
Qは吐き捨てるように返し、冷たい視線を向ける。
「残酷な男。どっちもレアな戦力なのに」
「だからってオレ達がここを離れるわけにはいかねーだろぉ? ガキ共のことは心配すんな。もしもの時は、少年法が守って…、ああ、ここはそんなルールなかったか」
腹を抱えて笑った。
Qは冷めた態度だ。
「……………」
「そう睨むなよ、女王様。オレは本当のことを言った。成功すれば祝福だ。失敗は知らねぇけどな。背中も押してやったから、大丈夫だろぉ…。お? …おお!?」
カメラがとらえた人影に、Yはモニター画面に食いつき、右手で画面に触れた。
Qは驚いて目を見開き、「あの女…、どうやって…」と顔を歪める。
その反対に、Yの気分は体が飛び跳ねるほど急上昇した。
「あっはは! オレ自身はここで待ってて正解だった! 彼女が来てくれたぁ!」
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