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11月30日金曜日、午前1時。
森尾は、拘置所の独居房で寝転んでいた。
ノイズ音が聞こえる。
たった今、勝手にトコヨに強制移動させられたことには文句を言う気もなく、小さくため息をついた。
「ため息なんてついてる場合じゃないよ、バカ兄さん」
「バカ兄さんって何だ」
眉間に皺を寄せ、むくりと起き上がる。
傍にはツクモと落合がいた。
落合は冷たい視線で見下ろし、腕を組んで仁王立ちしている。
男らしい格好をしていると迫力もあった。
「起きててよかったよ。呑気にいびきなんてかいてたら、蹴り起こしてるとこだった」
「今日は口が悪いな…。あー…、足立は…見つかったのか?」
後頭部を掻き、おそるおそる尋ねた。
「だったら、ボク、透兄さんの格好してないよね?」
落合は不機嫌を詰め込んで口にする。
「見つかってないし、明菜ちゃんが捜査本部に来ないさっ」
心配のあまり、ツクモが半泣きで森尾の腕にしがみついた。
「は?」
「華姉さんも、ウツシヨで敵に刃物で刺されて意識不明の重体って知ってる?」
「は!?」
理解が追いつかないことばかりだ。
「捜査本部は今、ボクとツクモ姉さんだけなんだよ? …許せないよ…、あいつら…。透兄さんを連れ去って…、華姉さんを殺そうとして…、今度は、明菜姉さんが……」
「夜戸さんも…、連れていかれたのか?」
「わかんないからイラついてるんだよ!!」
足立の身代わりとなっている落合は、知らず知らずのうちに起こった出来事に苛立ちを隠しきれなかった。
怒りを向ける対象は未だに行方がわからない。
だからつい一度離脱した森尾に当たってしまった。
「…ツクモが、ハナっちの病院を教えてからさ…。……もしかしたら、ひとりでアダッチーを探す気なのかも…」
タイミングを見て、可能性は高い。
「兄さんはおかしいよ。仲良くやってたのに、透兄さんが殺人犯だって知った途端に、見限るなんて…。兄さんが暴走した時、助けてもらったんじゃないの…。ボクが暴走した時、透兄さんの事情を知ってて襲わなかったのはなんでだと思う? 透兄さんがちゃんと、罪を償おうとしているからだよ。明菜姉さんが言ってたんだ」
「……違う…。そうじゃねェ……」
「何が」
「やかましい!!」
「迷ったり答えられなかったらそうやってすぐキレる!! だから女の子が怖がってモテないんだよ!!」
「おま…っ、関係ねェ話持ちだすんじゃねえよ!!」
兄弟は歯を剥いて睨み合う。
ドカッ!
「うわ!?」
「ぐえ!?」
落合の背中に甲冑を纏ったツクモが体当たりし、突然の衝撃を受けた落合は、立ち上がろうと膝を立たせた森尾を下敷きにした。
「兄弟喧嘩はやめるさ―――っ!!!」
聞くに堪えない口喧嘩にツクモがキレた。
倒れて重なった2人の上で飛び跳ねて反省させる。
甲冑のせいで普段のモフモフの柔らかさもなく、加えて重量がある。
「ご、ごめん、ツクモ姉さん…っ」
「悪かったから、どいてくれ、重い…っ」
兄弟は畳の上で正座した。
一度頭を冷やした森尾は、ふう、と息をつき、2人に頭を下げる。
「すまん…。おおごとになってるのに、俺は…」
「ほんとだよ…」
落合は慰めなかった。
今度は森尾も怒らない。
「…頼む…。姉川のところへ行かせてくれ…」
「言わなくても行く予定だよ。ボクもまだお見舞い行ってなかったし。明菜姉さんもいなくなる前に、ツクモ姉さんにボクらをお見舞いに行かせてほしいって頼んだみたい」
2人は、ツクモに頼んで捜査本部から姉川が入院している病院へと繋げてもらった。
廊下の監視カメラとケータイでウツシヨに戻り、目の前の姉川の病室のドアを開く。
「「……………」」
姉川の変わり果てた姿に、森尾と落合は絶句した。
心電図が心音を打ち、呼吸器は音を立てながら姉川の呼吸を手伝っている。
腕に刺さった点滴の針も直視できなかった。
2人の脳裏を同時によぎったのは、母親の姿だ。
事件に巻き込まれ、病室のベッドで寝たきりになった母親と、今の姉川の姿が重なり、過去の傷口を抉られて血を抜き取られたかのように落合の顔色は真っ青になる。
「…っ…、華姉さん…」
ツクモに言われた時は実感が湧かなかった。
疑ってさえいた。
ゆっくりベッドの脇に近づいた落合は、姉川の手を握る。
森尾も眠っている表情を見下ろした。
普段から感情のままに表情を浮かべていた姉川だが、すべての表情の起点となった顔は初めて目にする。
こんな整った顔をしていたのか。
「姉川…」
呼べば起きる気がした。
なのに、反応はない。
「………!」
サイドテーブルに置かれた姉川の荷物。
カメラ、カバン、被っていた帽子、手帳が置かれていた。
誰かの手で出されたような手帳には、薄緑色の封筒がわざとはみ出るように挟まっている。
封筒の端に『夜戸』の縦文字を見つけ、森尾は手を伸ばし、封筒だけを手に取った。
宛先はない。
「…これは…」
「……明菜姉さん?」
後ろから覗き込んだ落合も、森尾と同じ片方の眉を怪訝そうに上げた。
そして2人は目を合わせて思う。
夜戸は、ツクモを通して2人を病室に呼んだのだ。
この手紙は、自分達に宛てられたものではないか、と。
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