14:I'm better off alone
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11月29日木曜日、午後17時。
ピ…ッ、ピ…ッ、と無機質な心拍音が響く個室で、夜戸はひとり、呼吸器を被った、姉川の寝顔を無表情で見下ろしていた。
婦人用のトイレで血を流して倒れているのを、一般人が見つけたらしい。
小型のナイフで腹部を2カ所刺され、出血は致死量に至るほど流れていた。
周りには、飛び散ったガラス片と、手持ちのカバン、破壊されたケータイ、一眼レフカメラが落ちていた。
とっさの判断だった。
倒れて犯人が逃げたのち、首に提げていたカメラをつかみ、渾身の力で鏡にぶつけて割り、大きな音を立てたのだ。
それに気づいた一般人が駆けつけ、失血死せずに済んだようだ。
警察は動き出しているが、おそらく普通に探しても見つからないだろう。
長時間の手術の末、一命を取り留めた姉川だったが、依然意識は戻らないままだ。
連絡が取れない状態で、ツクモが監視カメラを通して姉川を見つけてくれた。
窓の外は、陰鬱な雨が降っていた。
自分のケータイの画面を見る。
着信が1件。
裁判中なので切っていた。
姉川の胸が微かに上下している。
右手をつかめば、ひやりとした肌から脈が伝わった。
冷たい手を握りしめる。
細くて長い指。
手のひらは同じくらいの大きさだ。
初めて知った。
笑顔が見たい、と思った。
「…………ごめんね…」
謝る事しか、できない。
足立に指摘された通り、謝ってばかりだ。
傷痕が痛み、呟く。
「……なんとなく……こんな…わからない気持ちになるくらいなら…、ひとりの方がマシ…」
ノイズが走る。
周りの景色ではない。
夜戸の頭の中だ。
傷痕もズキズキと痛み、膝をついた。
メガネが床に落ちる。
「ぐ…ぅ…ッ」
“我が名は”
「もう少し待ってよ…。………待ってよ…」
メガネを拾い、かけ直した。
サイドテーブルを支えに立ち上がる。
姉川のカバンにあった手帳をとる。
奪われてなかったようだ。
眠る本人に謝ってからペラペラとめくる。
『Q』の単語が連なっていた。
その中で、“Queen”という文字が黒の丸で囲まれある。
「……………」
夜戸は、黙って見つめていた。
その日、夜戸は捜査本部には現れなかった。
.To be continued