14:I'm better off alone
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11月24日土曜日、午後22時。
夜戸、姉川、ツクモは捜査本部に集合していた。
手前の扉が開く。
入ってきたのは、足立と同じ髪型のカツラを被り、足立の格好をした落合だった。
用意したのは姉川だ。
カツラはもともと、男のコスプレに使用していたカツラを自らカットして合わせた。
「空君、今日もお疲れ様。バレなかった?」
姉川が労うと、落合は苦笑する。
「なんとか…。疑いの目を向けられたかと思ったら、「痩せたな」って刑務官の人が呟いてた」
想像するだけで妙な緊張感に襲われた。
向かい側にいる森尾も手に汗を握る思いだったはずだ。
「……学校や、親戚の人の方は大丈夫なの?」
足立の代わりに拘置所で過ごしているのだ。
普段の生活を犠牲にして。
「夜には、心配しないように親戚に電話してるよ。学校にも事情を話してある」
「何て?」
「年上のお姉さんと一緒に愛の逃避行」
「「!!?」」
姉川と夜戸は硬直する。
屈託のない笑顔だった。
冗談ではなさそうだ。
「ストーリーはすでに考えてあるんだ。華姉さん、証拠の為に変装した写真とか、親戚の電話とかよろしくね」
「この子笑顔で何言っとんの!?」
「電話はあたしがするから…」
(早く足立さんを助けよう)
夜戸は固く決意した。
落合はノリノリだ。
「…モリモリは今日も来ないさ?」
「……うん。「ちょっと一人にしてくれ」って」
落合の目が寂しげに伏せられる。
「ちょっとってなんやねん…」
イラついて姉川が吐き捨てるように言った。
複雑な気持ちなのは理解しているつもりだ。
「あー、もう! 森尾君がこっちに来たいって言い出す前に、さっさと足立さん救出しよ! 地図、地図…」
立ち上がった姉川は、テーブルに移動して地図を広げる。
「……あれ?」
落合は違和感を覚えた。
「これって、トコヨの領域を表した地図だよね? …広くなってない?」
「あ、ほんとだ」
姉川も気付く。
拘置所、繁華街、住宅街、駅…。
それ以外に、トコヨの領域が数キロ先まで拡大していた。
海岸まで含まれている。
夜戸が勤めている夜戸法律事務所や、自宅付近まで。
「…ツクモ……」
「…トコヨには、たくさんの人間が連れ込まれ過ぎたのさ。命の危機に晒されて誰かをなげうってでも助かりたい欲望、逆に現実に絶望してトコヨに残りたい欲望…。ダイレクトな欲望は、ダイレクトに影響をトコヨに及ぼす…。ちまちまとこちら側に来た欲望(シャドウ)とは規模が違うさ」
シャドウの増加。
トコヨの範囲拡大。
すべてはこちら側に来た人間が原因だ。
「…『カバネ』の狙いはもしかして、トコヨの世界を広げること…」
あくまで夜戸の推測だ。
しかし、現実を捨てようとする彼らなら、行動範囲を広げるためにはやりかねない。
学校、駅、人間集め。
範囲が限られているのなら、長く続くはずがない。
夜戸は口元に手のひらを当てる。
「……夜戸さん?」
「……相手側から、何も要求がない…。もしかして足立さん、『カバネ』側に仲間になれって誘われてるんじゃ…」
「…!!」
姉川もその一人だ。
『カバネ』から勧誘を受けていた。
断り続けた挙句、夜戸達に敗北すれば簡単に切り捨てるような連中だ。
「足立さんが…。…でも、強制じゃない。仲間になった意思を見せないと、あいつら簡単に入れませんよ」
経験者の姉川が言い切る。
相手は裏切りを恐れているのだ。
「もし、相手が、「仲間に入りたい」と思わせるような何かを持っているのだとしたら?」
言い出したのは落合だ。
心当たりがあった。
「…空君、どういうこと?」
夜戸が尋ねる。
「ボク、普通の人が、『カバネ』の仲間になるのを見たよ。どう見てもあれは、洗脳だった」
舌に逆十字のピアスをした男が、訪れた人間の頭に手をかざしただけで、その人間の様子がおかしくなった。
「洗脳……」
姉川は、勧誘を受けている際に近づいてきた外套を思い出す。
Yだ。
『ちょ~っといじればこっち側に来てくれそうだが、目が気に入らねぇなぁ。今はあいつらと争ってんだろぉ? オレは様子見させてもらうぜ』
その気になれば、強引に仲間に引きずり込める自信があると言いたげな、気味の悪い男だった。
「マイペースか」とUとOが文句を言っていたのも覚えている。
「……尚更、急がないとね。夜戸さん、ウチとクラミツハに任せてください。隅から隅まで調べますよ。地下もろとも」
不安な思いを抱いているだろう、夜戸の両手をつかんで姉川は笑みを向けた。
「華ちゃん…」
姉川も固く決意する。
(この人には、幸せになってもらいたい。だから絶対、足立さんを見つけ出して、この人のもとへ連れて帰る…! それがウチにできること…!)
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