14:I'm better off alone
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「……う、ん…」
足立は、ゆっくりと目を開いた。
薄暗い空間の中、目の前には鉄格子があった。
今ではすっかり見慣れているはずの、自身の独居房でないのは確かだ。
身じろぎすると、鎖の音が聞こえる。
身体は座ったまま壁に背をもたせかけている状態で、両手の手首には手錠がかけられ、その鎖は天井に繋がれていた。
鎖の長さから目測して、檻の中のみに行動範囲が限られているようだ。
石で造られたベッドと和式のトイレがある。
それだけしかない。
(…刑務所にも入ってないのに、囚人扱いか…)
場に似合わない苦笑が漏れてしまう。
しかし、胸を見下ろしてぎょっとした。
白く発光した矢が突き刺さっているからだ。
痛みはない。
「なんだこれ…」
常人ならパニックを起こすところだろう。
足立は落ち着いていた。
(息はしてる、体温もある、おなかも減ってる…。死んではないようだけど…)
矢を抜こうとつかむが、バチッ!と体に電流が走った。
「ッ!!」
無理やり抜かない方がよさそうだ。
「ペルソナ…!」
鉄格子を壊すためにマガツイザナギを召喚しようとしたが、できなかった。
どこかで予感はしていたので、落胆も少なくて済んだ。
(ウツシヨなら、ペルソナが出なくて当然だけど、胸にへんなの刺さってるしな…。トコヨかな、まだ…。今、何時だろ…)
大きなため息をついて、後頭部を壁につけた。
考えるのが面倒になってきた。
「僕なんか拉致して何が楽しいんだか…。普通こういうのって女の子が連れてかれるもんじゃないの? ヒロインじゃないんだから…」
「うるさいぞ」
「!」
聞こえた声に、はっと前を見る。
廊下を挟んで、向かい側にも同じ形状の檻があった。
こちらを見据えている、というか睨みつけている。
「…あれ?」
見覚えがあった。
「夜戸さんのおとーさん?」
夜戸影久が、向かいの檻に囚われていた。
こちらは足立と違って両手は拘束されず、トイレは洋式、温かそうなベッドと、本棚とテーブルと椅子まであった。
心なしか広い。
「うわ。優遇されてる。なんなのこの落差」
小さなショックを受けた。
「……連れてこられた時はもしやと思ったが、やはり貴様か。こんな気持ち良くない予感は今までにない」
足立の為に立ち話をする気はなく、影久は木製の椅子をつかみ、足立と向かい合う位置に移動させてから腰掛ける。
「おとーさんも連れてこられたんですか?」
「おとーさんと言うな。不愉快極まりない」
露骨に嫌悪している態度だ。
「……えーと…、じゃあ、夜戸先生で。…娘の夜戸明菜さんが心配してましたよ」
「明菜…」
ぽつりと呟き、目を伏せる。
心配されているとは思っていなかった。
足立の気休めかもしれない。
「明菜さん達に場所を知らせたいけど、ここがどこかわからないんです。知りません? 犯人から聞いてるとか…。半月以上、幽閉されてるようですけど。ん。もうそろそろ1ヶ月経つのかな? 今、時間の感覚がわからなくて」
足立は部屋を見回し、把握しようとする。
檻は、足立と影久の2つだけ。
廊下の右側は行き止まり、ならば反対側が出入口だろう。
知らせる方法は、あとで考えればいい。
「……………」
影久は無言で足立を睨んでいる。
「先生?」
「ここがどこなのかは、私も知らん」
冷たい言い方だ。
「…親しそうだな…、娘と。あの時、引き離してやったと思ってたが…」
「ははは、親子にはかないませんよ。まーあ? 美味しいコーヒーを淹れてくれるし、この間は膝枕してくれました。言うの恥ずかしいですけど」
わざと照れた仕草を見せつける。
「それ以上喋るな。明菜はそんな娘ではない」
影久は目元をピクつかせ、鉄格子がなければ足立を殺しにかかりそうな雰囲気を漂わせた。
こんな親は絶対御免だ、と足立は思った。
「相変わらずですね、アンタも。かわいい娘を鳥籠の中に囲って、自由を奪って、監視して…。ああ、今はアンタも鳥籠の鳥か。皮肉ですねぇ。ははは」
過去の仕返しも含め、乾いた笑い声を出した。
立ち上がった影久は、胸倉につかみかかる勢いで鉄格子を握りしめた。
「黙れ、殺人犯…! 裁判とは無関係に明菜と何か隠し事をしているみたいだが、その汚れた手で、明菜には指一本触らせないからな…! ここを出たら、娘にどう思われようと担当弁護から下ろしてやる…!」
どの親だって、殺人犯と自分の子を関わらせたくないだろう。
「すみませんねぇ、また会っちゃって。僕も最初は会うつもりなかったんですけど…。「会いたい」って言ってくれたもので」
丁寧に書かれた手紙を思い出す。
面倒臭がりな足立の性格を知っているため、要件だけの文章は短かった。
「……………」
皮膚がくっつくのではないかと思うほど、影久は鉄格子を握りしめる。
「明菜さんもいい大人ですよ。どうしてそんなに束縛するんです?」
10年前から、この父親は娘に対しての執着が強すぎる。
過保護を突き抜けて、病的なほどに。
「……人殺しの貴様には、わからないだろうな。子どもを失った親の気持ちも…。その2度目を味わいそうになった親の気持ちも…」
「2度目…?」
「ドーン!」
「「!」」
ドアが乱暴に蹴り開けられた音が聞こえた。
短い階段を下り、2人の外套が現れる。YとQだ。
「おっ、起きるの早いなぁ!」
Yは足立のいる檻の鉄格子を蹴る。
「お食事を持ってきました」
Qは鍵を取り出し、影久のいる檻に入った。
トレーにはスープやパンやサラダなど温かな食事が載せられてある。
影久は無抵抗だ。
テーブルに置かれるのを黙って見届ける。
Yも、鍵を取り出して足立の檻に入ってきた。
「僕もおなかすいたんだけど」
「呑気な奴だなぁ。あとで届けてやるからお話しよーぜぇ」
腰を落として足立と目線を合わせる。
「話?」
「単純な話、オレ達の『カバネ』の仲間になるかって話だ」
足立はにこにこと笑う。
「なるからこの手錠外してくれる? って言ったら?」
「ぎゃははっ」
Yの伸びた手が足立の髪をつかんだ。
「起きるのも早ければ、話も早いってかぁ? オレに嘘が通じると思うなよ。目を見ればわかる。テメーは今ウソツキの目だ。無神論者の目だ。お前がオレを信じるまで、この状態だぁ」
「僕が、君を…? あれあれ? 普通逆じゃ…、ぐ!」
足立は髪をつかまれたまま、背後の壁に後頭部をぶつけられた。
「信じる者…、すなわち信者! オレを崇拝すれば仲間って認めてやるよぉ…。それだけでお前の未来は約束されるんだぁ…」
「…? どういうこと…」
「お前が欲しかったモン、オレの仲間になれば、いつだって手に入るんだよぉ…。お試し期間、ただいま実施中~」
ベッと舌を出して逆十字のピアスを見せると、Yの両手は黒い手袋に包まれた。
「さて…、夢を作ってやる。お前の『幸せ』を覗かせてくれよ…」
.