00-7:I don’t know what to do anymore
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10月27日土曜日、文化祭が開催された。
他校の生徒や一般人が装飾された校門を潜ってくる。
普段使用している、あたしの教室の雰囲気はガラリと変わっていた。
クラスの生徒達がアイデアを出し合い、机同士を繋げてテーブルクロスを敷けばカフェのテーブルが出来上がり、壁やドアや黒板に施された色とりどりの飾り付けで華やかになっていた。
机と椅子が減るだけで広く感じる。
開店を始めてから間もなく、お客さんが入ってきた。
「いらっしゃいませ。2名様ですか? お席にご案内いたします」
あたしは、何度もメモを読んで覚えた言葉を使い、お客さんを案内した。
もう帰りたい。
ため息をぐっと堪える。
黒の生地のエプロンドレス。
頭には白のレースつきカチューシャがつけられてある。
半袖で制服のスカートより短く、脚が冷えそうだった。
制服にエプロンを掛けるだけでよかったのでは。
よく許可が下りたと思う。
進学校なのに。
こんな姿、父が見たら学校に怒鳴りこみそうだ。
参観日にも来たことがないから、ここにくるなんてことはあり得ないけど。
「夜戸さん運んでー」
「はい」
注文のコーヒーやケーキをトレーに載せて運んでいく。
「お待たせしました」
提供のあとは次のテーブルだ。
エプロンのポケットからメモとボールペンを取り出して注文を伺った。
「ご注文はお決まりですか?」
注文を確認してから、キッチンとして使用している隣の空き教室に移動し、注文が書かれたメモを渡す。
「コーヒー2つとプリンパフェ2つ入りました」
口で伝えるのも忘れない。
しばらくしてから交代と休憩時間を迎える。
一度制服に着替えた。
次の出番を壁時計を見て確認する。
全校生徒が持っているプログラムに目を通す。
特にこれといって行くところは決まってない。
「あ」
先輩のクラスの演劇を見に行こうかな。
先輩は出演してないけど、どんな話か、なんとなく、気になった。
演劇が催されている体育館に行く前に、図書室に寄った。
こちらにサボりにきたかと思ったけど、姿はない。
図書室の床には本が何冊か落ちていた。
散らかした生徒が悪いけど、誰も片付けないのか。
あとでもう一度寄って片付けておこうと決めた。
ほとんどの照明が落とされた体育館。
舞台上だけが明るかった。
『シンデレラ』、『白雪姫』、『人魚姫』…。
耳にしたことはあっても、詳しいストーリーは知らない。
王子とガラスの靴を通して結ばれた貧しい少女、毒りんごを食べて王子のキスで目覚めた姫、王子と結ばれず泡となって消えた人魚…。
誰もが知っている物語のはずだけど、あたしにとっては新鮮な話だ。
そして疑問に思う。
『王子』と結ばれないと幸せになれないのか。
貧しい少女が貧しい少年と結ばれてもいいと思うし、女王に刺客として差し向けられたが思いとどまった家来と姫が結ばれてもいいと思うし、人魚は王子を…。
そこまで考えて、やっとため息が出た。
絵本を読むのが遅かった自覚が湧いてくる。
小さい頃ならば夢を見て、純粋に楽しめたり感動できただろう。
でも、先輩も同じこと思うんじゃないかな。
なんとなく。
「つまんない」と言って、ぽーん、と軽快に絵本を放り投げそうだ。
先輩の姿はどこにも見当たらない。
数日前に、背景を塗らされた、と愚痴っていたことを思い出す。
『白雪姫』に出てくる森の色が、手の甲に付着していた。
『緑色だよ…。ピンクよりかマシだけど』
簡単には落ちなかったらしい。
口を尖らせて手の甲を軽く睨んでいる。
『あたしは好きですよ、緑』
言葉に出したのは、初めてだった。
『…君にも好きなもの、あったんだ?』
先輩の好きなものも、聞かせてほしかった。
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