00-7:I don’t know what to do anymore
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10月9日火曜日、
「文化祭ってなんだろうね」
図書室で、偏差値の高い大学の分厚い過去問題集を広げていた足立先輩が呟くように言った。
独り言じゃなさそうなので、英語の単語帳に視線を落としてペラペラめくりながら答える。
「学生が、展示、演劇、音楽、講演など芸術に関連したイベントを催すことですよ」
「それをやる意味ってなんだろうね」
「人間関係を築き上げること」
「うわ」
「集団生活を実感すること」
「うーわ」
「以上を理解し、より良い学校生活を送ること」
「はぁぁ…」
鉛を包んだようなため息だ。
「誰もそんなこと考えながらやってないって。ほとんどノリだと思うなぁ。バカみたいに騒いでないで勉強すればいいのに。でも他が張り切ってる時にこのテンションだと、文句言われるわけでしょ? 体育祭よりめんどくさい」
先輩はノートの右上の端に“面倒苦祭”と新たな四字熟語を生み出している。
印象に残った。
「10月に入ってから荒れてますね、足立先輩」
この頃、眉間の皺と舌打ちが多い。
クセになるからやめた方がいいですよ。
「学校中、どこ行ってもうるさい」
ほとんどの生徒達は、勉強よりも楽しく文化祭の準備に取り掛かっている。
この図書室でも、テーブルを占領して騒ぎながら大きな紙に展示用の写真を貼り付けたり、演劇の脚本を相談し合ったり、本を漁ったりしている。
あたしとしても、本を床や机に置きっぱなしにしたり、適当な本棚に入れたり、積んだままにするのはやめてほしい。
外では、発表予定の音楽の練習もしている。
日に日に受験が近づいている先輩にとっては騒音でしかないだろう。
「先輩のクラスは何をするんですか?」
「劇とか言ってたな…。チッ」
露骨に機嫌が悪い。
せめて展示会とかならまだマシだったかもしれない。
3年生はほとんど演劇らしい。
学校の恒例になっているとか。
台詞を覚えたり、衣装や小道具を作ったり、手間がかかるものばかりだというのに。
「ストーリーは?」
「知らない。でも第一希望は裏方にしといた。細々と小道具作った方が全然いい」
勝手に舞台に上がることが決定すれば、きっと練習にも参加せずに登校拒否しそうだ。
「そっちは? どんなバカをやるの?」
過去問題集から顔を上げる先輩。
目を合わせ、あたしは手のひらを水平にして上下に動かした。
「先輩さっきから声大きいです」
過去の文化祭で何があったんですか。
「あたしのクラスは、カフェですよ」
「…へぇ」
「その顔、絶対に他の人に見せないでください」
素行の悪い生徒に見られたら、100パーセント挑発してると受け取られて体育館裏に引きずり込んで集団でボコボコにされそうな顔面だ。
「ちなみに聞くけど、夜戸さん自身は何やるの?」
この質問に答えるのは少し抵抗があった。
「…………女子は交代で店員になります」
「ごしゅーしょーさま」
心こもってないや。
「よかったら先輩、来てくださいよ」
「いやだ」
過去問題集に視線を落とされた。
あたしは身を乗り出す。
「ごちそうするんで」
「僕に頼まないでよ」
ゆっくりと身を引き、頬杖をついた。
「……………」
「拗ねても行かない」
「…すねてませんよ」
先輩の荒れ具合が移りそうなだけ。
こちらは図書室に行きたくても行けない状況になるのだから、覗きに来てくれてもいいじゃないか。
窓の向こうの木の、赤茶けた葉を見つめる。
緑が何枚か残っていた。
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