13:How could I forget it?
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「シキ…!」
道草小景が道草シキに駆け寄る。
道草シキは目と口を開けたまま気絶していた。
蜂に刺されたかのように頬が腫れあがっている。
「ウチより強烈…」
よく考えれば、護身術や戦闘で筋力をつけている夜戸の方が、姉川よりパワーは上だ。
「あ、そ、そんな、そこまでいくなんて…」
気絶している道草シキを見て、途端に夜戸は我に返り、落ち着きをなくしている。
弁護士が暴力を振るってしまった。
これはまずい。
「夜戸さん…」
後ろから近づいた足立に声をかけられ、小さく震えた夜戸は、両手で顔を覆って振り返った。
「アタシハナニモシテマセン」
「…ぷっ。あはははは!」
足立は腹を抱えて笑い、夜戸の肩を何度も叩く。
「あ…だちさん?」
「すごい吹っ飛んだねぇっ。ビックリ。めずらしいもん見たっ。あはははは!」
そんなに面白かっただろうか、と夜戸は困惑した。
こんなに笑う足立も珍しい。
「こ、これ、暴行・傷害罪に…」
「まず、訴えられる人間じゃないでしょ。頭硬いなぁ。あははっ」
笑いながら、今度は頭をくしゃくしゃと撫でられた。
突然の行為に夜戸は硬直する。
「髪はやわらかいね」
「足立さんッ」
触れられてるところからじわじわと熱を持ち始め、耐え切れないものが湧き上がり、しゃがんで足立の手から離れてぐっと堪える顔で足立を軽く睨みつけた。
表情の変化は微々たるものだが、夜戸にしては多い方で、足立は久しぶりにそれを見て、わずかに満足げな表情を浮かばせる。
「足立…」
森尾はゆらりと立ち上がり、ゆっくりと近づいてきて、足立と距離を保って立ち止まった。
「…冗談だろ? お前が……」
殺人犯だなんて。
森尾は言葉を詰まらせる。
「兄さん…」
項垂れる森尾の背中を、落合は見つめた。
立ち上がった夜戸も、2人の光景を見守る。
今は口を出す空気ではない。
「…事実だよ。隠すつもりはなかったんだけど」
足立は淡々と答える。
森尾は視線を持ち上げ、足立と目を合わせた。
苦笑している。
いつもの足立だ。
ただ、薄暗い影が落ちているように見えた。
「あだ…」
言いかけた時、足立は夜戸の背中を強く突き飛ばした。
「え?」
夜戸も驚いた。
咄嗟に森尾は受け止める。
ドス!
足立の胸に、白く発光した矢が突き刺さった。
何が起きたのか、誰も理解できない。
足立は仰向けに倒れ、動かない。
「足立さん…?」
夜戸は声をかける。
胸を貫いた矢は、見るからに致命傷を与える部分にあった。
「あーあ、まとめて串刺しにしようかと思ったけど、上手にできなかった。ごめんね、Qさん」
「いいえ。上出来よ、U」
奥から現れたのは、外套を身にまとったQと羽浦だ。
「羽浦さん…!?」
落合は、Uと呼ばれた外套を見つめる。
「そんなやつ知らない」
羽浦は冷たく言い放った。
「『カバネ』!」
姉川はクラミツハを召喚する。
「足立さん!」
夜戸は足立に駆け寄ろうとしたが、
「はーい、近寄らなーい」
ドカッ
「う!?」
足立の前に現れた外套が、夜戸の腹を蹴飛ばして距離を離した。
「夜戸さん!」
「明菜姉さん!」
「ゲホッ、ゲホッ…」
森尾と落合が横倒しになった夜戸に駆け寄る。
込み上げる吐き気に耐えながら、夜戸は腹を抱えて咳き込んだ。
「うーわ、女を蹴飛ばすとか。やっぱり死んで、Y」
「引かないでよぉUちゃん。強そうな相手には手加減しねぇの」
舌を見せた。
逆十字のピアスは落合の恐怖を掻きたてる。
「あいつ…!」
「それじゃあ、こいつ持ってくかぁ」
Yは足立を肩に担いだ。
瞬間、ゾッと寒気を覚え、元をたどる。
「その人に、触らないで」
静かに立ち上がり、ナイフを構えた夜戸だ。
言葉も瞳もナイフのように冷たい。
「ほらほら、スゲェ強そぉ」
冷や汗を浮かばせながら、スリルに興奮する。
「O君」
「まったくさぁ、せっかく待ってたのに、壁壊してルート逸れるなんて、聞いてないよ」
夜戸達が壊した壁から、新たな外套が現れた。
紫と黒が混ざり合った煙を引き連れてくる。
「まずい…!」
姉川は危険を察知した。
『カバネ』が集い、一斉に仕掛けられれば消耗しているこちらが不利だ。
足立も敵に捕まり、迂闊に手が出せない。
「一旦逃げて! あの煙、猛毒のガスよ!」
「何!?」
森尾が声を上げた。
「…Qさん、どうしてもっと早く来てくれなかったの?」
道草小景が尋ねると、代わりにYが答える。
「そんなの、囮に決まってんだろぉ!?」
「!?」
「欲望に呑まれて暴走しかけてたから、囮ついでに切り離すことにしたんだよぉ! まあ、息子だかなんだか知らねえが、「現実の方がマシ」だなんてほざいたクソガキを残したいなら、親子仲良く消えなぁ?」
「…っ」
「言い方が悪いよ、Y。彼女の今までの貢献ぶりには感謝しないと」
Qが小馬鹿にするように言う。
羽浦は、静かにその光景を見つめていた。
息子と共に、利用されていた。
どこにも、自分達の味方になってくれる場所なんてないのだ。
息子でさえも。
不意に、手首をつかまれて引き上げられた。
「!」
「ああいう奴らだってわかったでしょ!? 一緒に逃げよ!」
落合だ。
先程まで息子を襲っていた人物とは思えず、瞳には、輝きが戻っていた。
「夜戸さん!」
姉川は急かすが、夜戸は足立から目を離せない。
「でも、足立さんが…!」
「足立さんなら生きてます! 魔封されただけ! 今は逃げないと、毒ガスでウチらがやられます! 誰が足立さんを助けるんですか!?」
場所も狭くて換気も少ない空間だ。
猛毒のガスが押し寄せてくれば、最悪な状況になる。
「モタモタしてるなら、ハヤマツミが射ちゃうよ」
羽浦が右手首の赤い傷痕からアイスピックを取り出すと、ガスの中に身を隠すように召喚されたペルソナから、矢が放たれた。
真っ直ぐに、夜戸の胸を狙う。
「!!」
矢が弾け飛ぶ。
横から飛んできた円盤が防いだからだ。
「明菜ちゃん!」
ツクモだ。
ミカハヤヒの円盤が宙を回転していた。
「ツクモ!」
「遅れて登場したけど、アダッチーは!? どういう状況さ!?」
「逃げる状況よ!」
姉川はツクモを拾い上げ、来た方向へ走る。
「夜戸さん! 早く!」
森尾は夜戸の手首をつかんで引っ張った。
ガスで、『カバネ』の姿が見えなくなる。
足立の姿も。
「足立さん!!!」
道草シキを怒鳴った時よりも、一際大きな声が出た。
果たして、彼の耳に届いただろうか。
.To be continued