13:How could I forget it?
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「おいおい、説明しろよ、足立…。凄まじい奇声が聞こえて来てみれば、なんで助けられるはずの空が、ペルソナ使って、今にも人殺そうとしてんだ!?」
「いやいや、僕を責めないでよ。『カバネ』の一人と戦ってたら、道草シキが、ペルソナが覚醒した落合君に追いかけられてたんだから」
足立は肩を竦めながら簡単に説明した。
「まさか、開いたの? 右腰の傷痕」
「そうみたいです」
夜戸の質問に姉川が頷く。
衣服に隠れて今は探知型の姉川にしか見えないが、横一線に切られたかのような赤い傷痕が開いていた。
「兄さん…!?」
現れた森尾に、落合は目を見張った。
「よせよ、空…。お前も同じになるつもりかよ…!?」
森尾の姿を目にした瞬間、一気に森尾との記憶が脳を満たす。
「…あ、あああ…!」
ネサクが大鎌を横に振るう。
イハサクとイツは避け、大きく空振りをした隙を突いて、イハサクが戦槌を大きく振りかぶった。
「目ぇ覚ませ!!」
戦槌が、ネサクの頭部に叩きこまれる。
頭痛に頭を抱える落合は、顔を上げて怒声を張り上げた。
「うう…っ、うるさい!!」
よろけたネサクだったが、体勢を変えて大鎌でイハサクの胴体を切りつける。
「ぐ…っ!」
続けざまに、火炎魔法と氷結魔法をぶつけ合い、相殺し合う。
見上げていた夜戸だったが、少し考えて、イツを還した。
兄弟の話し合いに横槍を入れるものではない。
「ボクがやらなきゃ…! やらなきゃいけないんだ! 兄さんは…、兄さんのままでいて…ほしいから……っ!!」
「!!」
駆けだした落合はオノを振り上げ、対する森尾は振り下ろされたオノをバールで防ぐ。
「お前はお前じゃなくなっていいってか!? 勝手なこと抜かしてんじゃねえよ!!」
「じゃあ、誰があいつらを裁いてくれるの!? みんな、身も引き裂かれそうなくらい辛いのに…!!」
「それでも! お前が誰かを殺していい理由にならねェよ!! 殺してやりたい気持ちを、誰かの為って言い訳を上乗せして使ってるだけだ!!」
それを教えてくれたのは、足立だ。
足立を一瞥する。
サポートしようとする姉川を止めていた。
「ボクはそんなんじゃ…! ない!」
落合は無茶苦茶にオノを振り回す。
森尾は一歩も引かずにバールを巧みに振り回しながら受け止め続けた。
「あの時、親父達がお前を庇ったのは、こんなことさせるためじゃねェんだよ!!」
バットを握るようにバールを両手で握りしめて大きく振りかぶり、バールをオノのブレードと柄の間に当たるように思い切りぶつけて飛ばした。
回転するオノは手の届かない天井に突き刺さる。
「守られた理由を、考えやがれ!!」
ゴッ!!
バールを地面に放った森尾は、落合の頬を殴りつけた。
「忘れていいものじゃねェし、忘れられるもんじゃねェ。けどな! 俺は、俺の一生を、俺の親を殺しやがった野郎に囚われたまま生きてやるつもりはねェ!! 空! お前は俺達の不幸せを願った奴の為に、てめぇの手を汚すつもりか!? 兄貴として、そんなこと絶対させねェからな!!」
仰向けに倒れていた落合は、忘れていた、最期に兄とともに抱きしめてくれた両親の温かさを思い出す。
道草小景は、未だに強く道草シキを強く抱きしめていた。
「……………わかってるよ…、兄さん…。だから…」
(傷つけないで)
殴りつけたコブシに罰を与えるように、爪を立てて、血を流していた。
(泣かないで)
ぐっと我慢している様子だったが、うつむいた森尾の目には、涙が浮いていた。
身を起こそうとする落合に、森尾が近づき、片膝をついて手伝おうとするが、落合は森尾の首に絡みついて抱きついた。
「兄さん……」
大切な温もりは、まだこの腕の中にある。
落合の瞳から、涙が流れた。
同時に、天井に突き刺さったオノも、ネサクも攻撃を止めて温かな光に包まれて消えていく。
「…兄さんに、久々に…殴られた…。ああ、この姿じゃ、初めてかもね…」
「痛かったか?」
「うん…。でも、兄さんの方が痛かったでしょ?」
ぐす、と鼻をすする音が森尾の方から聞こえた。
落合は、取り戻した思い出を振り返る。
(いつからかな。兄さんの方が泣き虫になったのは…)
本人は隠しているつもりだが、時々、部屋で隠れて泣いている時があるのは知っていた。
今も言えないことだが。
「バ、バケモノが…」
「!」
その場にいる全員の視線が、道草シキに向けられた。
「ま、巻き込んでんじゃねぇよ…!」
母親を軽く突き飛ばして立ち上がり、大きなクマでも遭遇したかのように怯えた表情で、しかし視線は逸らさずに後ろに数歩下がる。
「シキ…」
道草小景は手を伸ばすが、道草シキは「やめろよ!」と拒絶した。
「な、何が安全な世界だよ! 守ってあげるだよ! げ…、現実の方がまだマシだ!」
「せっかく仲直りしていいカンジなのに、ちょっとあいつしばいて黙らせてくる…!」
「待った待った」
袖を捲り上げる姉川に、足立は腕をつかんで止める。
「オ、オレのこと殺そうとしたけど、そいつはどうなんだよ!? 雑誌で見たぞ! 刑事のクセに、女2人殺した犯罪者だって!」
道草シキは足立を指さした。
「……え?」
森尾は、耳を疑い、足立を凝視した。
真実ならば、初耳だったからだ。
「……………」
足立は森尾を一瞥するが、道草シキに視線を戻す。
「オレがダメで、そ…、そいつが許されるってことはないよなぁ!? ひ、人殺しが許されないっていうなら、そいつも今ここで死刑にしろよ、ほらぁ! 逃げようと思えば、いつだって逃げ出せるしな! ペ、ペルソナ?ってバケモノが使えるから、オレより余裕こいてんだろ!? そ、それとも、偽善者ぶって、人助けして、罪が軽くなると思ってんのか!? アホじゃねーの!? 誰が信じるんだよ! そいつだって、結局は何しようがオレと同じなんだよ!」
カッ、と怒りで顔を真っ赤にして唇を噛み締めた姉川は、足立の手を振り解こうとした。
その前に、誰かが肩をいからせ、つかつかと歩み寄った。
バチン!!!
凄まじいビンタが道草シキの頬に炸裂し、まるで車でもぶつかったかのように道草シキの体が横にブッ飛ばされて床を転がり、壁にぶつかった。
「一緒にしないで!!」
誰もが目を丸くした。
ビンタと怒声の主が、夜戸だったからだ。
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