13:How could I forget it?
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「ごめんね、2人とも。迷惑かけちゃって」
「空君…、そのオノ……」
姉川には分析できていた。
落合の赤い傷痕の場所も、オノの正体も、ペルソナの名前も…。
「すごいでしょ。ボクのペルソナだよ。これでみんなとおんなじだねっ」
落合はオノを見せつけ、嬉しそうに笑った。
「ひぃ…」
道草シキは地面を這いずって逃げようとするが、落合の片足が背中を踏みつけて逃亡を封じる。
「逃げるなってば」
オノの後ろ部分で道草シキの太腿を突いた。
「いだぁっ!」
「えー…。ブレードの方でやってないじゃん。そんな痛くないでしょ? ねぇ」
大袈裟に騒ぐ道草シキに呆れながら、オノの後ろ部分を道草シキの後頭部にぐりぐりと押し付ける。
道草シキは泣きながら「や…、やめてよぉ…っ」と訴えた。
「こうやって楽しんだんでしょ? 人が泣き叫んでも、グサグサグサグサグサ…」
道草シキは、道草小景に手を伸ばす。
「助けてママ! こいつどうかしてる! オレを殺そうとするんだ!」
「…っ!!」
道草小景は、ハラヤマツミの攻撃対象を落合に変更する。
足立は一歩踏み出したが、近寄った姉川が「待って」と制した。
「ハラヤマツミ!」
ギイ゛ィイ…
「だまって」
不協和音を響き渡らせる途中、落合の頭上を大きな人型が飛び越え、ハラヤマツミを四つ切に切り裂いた。
ボッ!
切り口から発火し、ハラヤマツミが一気に燃え上がる。
「きゃあああああ!!」
全身を襲う痛みに、道草小景が絶叫した。
ハラヤマツミは消滅し、道草小景は横倒しになる。
空中で消えゆく炎の中から現れたのは、三日月型の刃がついた白い大鎌を持った、人型のペルソナだ。
「ボク達は無敵だよ、ネサク」
頭には頭部と目を覆う、端にジッパーがついた黄色のフードを被り、真っ黒の肌に赤い唇をもち、細身の胴体は、背中にフードと繋がる黄色のマントをはためかせ、へそ出しの上半身の平らな胸には包帯が何重にも巻かれ、下半身の細長い脚には白のズボン、ヒールつきの赤いショートブーツを履いている。
腕は、肘から先が義手のような機械の両腕を持っていた。
色は明るいが、すべての色が黒ならば、暗殺者、あるいは死神を思わせる格好だ。
「あ…」
助けてくれると思っていたはずの母親が倒され、道草シキの顔面に絶望が再び浮かんだ。
体をよじらせ、落合を見上げる。
囚われの身だったはずなのに、部屋に戻ってきた時には磔にした人間をすべて解放し、いきなり襲いかかってきた。
(誰が逃がした? Uか? あのアマァ…!!)
落合を庇っていたことを思い出し、奥歯を噛み締めた。
他に思い当たる人物がいない。
「ねぇ、君さ。逃げてる間、自由だったわけでしょ? テレビは見た? 雑誌は? 自分が何をやったかはわかるよね? 残された家族もいるし、助かったけど2度と歩けなくなった人とか、寝たきりの人もいるんだよ」
「は…、はあ?」
強がりではない。
単純に、だからどうした、という態度だった。
「……………」
落合は天井を仰ぐ。
薄暗い天井しか見えない。
「いいや。もう死んで。最期に…、何か言いたいことでもある?」
被害者たちは、最期の言葉も残せなかった。
「さ、さいごって何? 言いたいことならあるけど…」
突然何を言い出すんだ、と小馬鹿にするように、道草シキは怯えながら言った。
「くだばれ人殺し」
落合はオノを振り下ろそうとした。
「!?」
止めたのは、手首をつかんだ足立と、腰に抱き着いた姉川だ。
「…っ放してよ…。こいつ、殺せないだろ!?」
露骨な殺意だ。
足立は、暴走した森尾と比較する。
(普段は温厚な顔してるクセに、この子の方が、お兄さんより事件のことを根に持ってるじゃないか)
森尾には躊躇いがあった。
暴走しても、「殺す」や「死ね」という言葉は使わなかった。
「ひ…ッ」
あまりの恐ろしさに腰を抜かし、道草シキは仰向けのまま這いずって急いで落合から離れた。
「透兄さん!」
見た目に反して、落合の腕の力は強く、足立はしっかり握りしめて放さない。
「殺しちゃったら、見殺しにした僕らもお兄ちゃんに怒られちゃうだろ…!」
「…兄…さん…?」
不思議そうな顔をする落合に、足立は違和感を覚えた。
それから森尾の言葉を思い出す。
『自分が人を殺そうとしてるなんて罪悪感は、不思議となかった。何より…、空の事、忘れちまってた…』
何がきっかけかはわからないが、大切な人間を、忘れてしまっている。
「足立さん! ネサクを止めて!」
姉川が叫び、はっと道草シキを見ると、大鎌を振りかぶったネサクが迫っていた。
「うわあああ!?」
「マガツイザナギ!」
足立はマガツイザナギを急がせ、振り下ろされた大鎌を矛で受け止める。
不意にデジャヴを感じた。
森尾と戦った時と同じだ。
「空君、だめ…!」
「邪魔しないでよ…! そいつを野放しにはできない…!」
「い…ッ」
姉川の髪を帽子ごとひっつかみ、引き剥がそうとする。
ゴッ!
「ッ!」
不意打ちで頬を殴られ、落合は尻餅をついた。
「君、そんなキャラじゃないだろ」
コブシを握りしめた足立が言い放つ。
「同じになったじゃないか…。みんなと同じ力を手に入れたのに…。どうしてボクをそうやって突き放すの!? 好きにさせてくれないの!?」
ネサクが大鎌を振り回し、マガツイザナギは矛ですべて受け続けて防戦する。
「嫌い、嫌い、嫌い…。透兄さんも、華姉さんも、明菜姉さんも、ツクモ姉さんも、兄さんも……」
言いかけて、気付く。
(兄さん…。ボクの………)
思い出そうとする。
しかし、思い出してはいけない気がした。
「うわああああ!!」
オノを片手に、足立に突進して振り回す。
「!」
錯乱している上に大振りなので、足立は一歩一歩下がって身を反らしながら刃をかわした。
ガンッ、と壁に勢いよくオノが振り下ろされ、壁を抉る。
「完全に忘れたわけじゃなくて安心したよ。落合君…」
息を荒げながら動きを止めた落合だったが、ギロリと足立を睨みつけた。
「ボクに何をしたのさ…!? ボクに迷いなんてなかったのに…!」
ひゅん、と横に勢いよく振られたオノの刃先が、足立の右頬をかする。
「!」
(混乱してる…。まだ思い出せてないのか)
思い出すことの恐怖と、殺すことの執念に囚われている。
「ネサク!!」
大鎌と矛をぶつけ合っていたネサクは、不意打ちを仕掛けてマガツイザナギに火炎魔法を浴びせた。
「っ!?」
足立が痛みを感じるとともにマガツイザナギの動きも鈍る。
ネサクはマガツイザナギを押しのけ、大鎌を振り上げた。
「シキ!!」
道草小景が道草シキに駆け寄って抱きしめて庇う。
「空君、やめて!!!」
姉川が叫んだ。
ドガンッ!!
水路の横の壁が砕いて破壊され、その穴から飛び出した2つの大きな影が、ネサクに突っ込んだ。
戦槌と曲刀が交差し、大鎌を止める。
姉川は、安心のあまり涙を浮かべた。
足立も「遅いよ」と力の抜けた笑みを浮かべる。
「夜戸さん、発想が大胆っすね」
「この方が近いと思って。あとでツクモに怒られるかな…」
穴の開いた壁から遅れて現れたのは、夜戸と森尾だった。
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