13:How could I forget it?
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夜戸、森尾、ツクモは、足を踏み入れた部屋の現状に唖然としていた。
「こ…れは……」
多数の人間が部屋の床に倒れていた。
体のところどころに植物の根が絡みついていたが、枯れて萎れている。
仕立ての良いスーツを着た人間ばかりだ。
身なりのよさから察した夜戸は、言い当てる。
「被告人と共に行方不明になっていた、裁判関係者たち…」
駆け寄って片膝をつき、息や脈を調べるなどして全員の生存を確認した。
「衰弱してるけど、生きてる…。ツクモ、この人達をすぐにウツシヨに戻して」
「了解さ!」
森尾は壁を見回す。
壁に人間が磔にされた痕跡が残っている。
誰かが意図的にこの部屋に囚われていた人達を助けたのではないか。
しかし、大きな刃物を無茶苦茶に振り回し、切りつけると言うより叩きつけたというように、壁や床を破壊した跡もあり、微かな狂気を感じさせた。
怒り狂って暴れ回ったような跡にも見える。
「う…」
「!」
小さいがはっきりとした呻き声をたどり、夜戸は倒れた人間の中から薄く目を開いた男を見つけた。
20代前半なのか、この中で一番若い男だ。
「大丈夫ですか? 助けに来ました」
酷い目に遭ったことで、パニックにさせる前に、安心させる言葉を投げかけると、頭を起こそうとした男は安堵の息を漏らした。
「君…、君は…どこかで…」
夜戸は思わず顔を逸らした。
裁判関係者なら、弁護士である夜戸のことを知る人間が少なからずいるはずだ。
「何があったんですか?」
素性がバレるわけにはいかないので、意識がそちらに向けられるように早口で尋ねる。
「……道草に…、囚われて……。そうだ…、高校生くらいの…、背の高い…女の子が…助けて……くれた……」
「女の子…」
夜戸と森尾ははっとして顔を見合わせる。
「その子も……捕まってた…のに…、突然……悲鳴を上げて……」
何事かと驚いた時には、気も遠くなるような長い束縛から解放された、と続けた。
「そいつどこ行った!?」
つかみかかる勢いで森尾が尋ねる。
「外…へ……」
出入口を指さそうとしたが、男の意識がそこで途絶えた。
「あ、おい!」
「気絶したよ…」
夜戸は立ち上がり、部屋中を見回して分析する。
(全員が助けられてから、時間は経ってないはず…。空君が部屋を出たのも……)
自力で脱したとしても、落合が平静を保っているかはわからない。
部屋中の不穏な亀裂が物語っているのだ。
自分達が来た方向に行った可能性は低い。
距離が近づけば、先にツクモが反応に気付くはずだ。
「空…」
森尾は今すぐにでも部屋を飛び出したいだろう。
それでも、冷静さを失わないように、バールを強く握りしめている。
「2人とも、ここはツクモに任せて、ソラちゃんを追いかけるさ!」
そう言ってツクモはぴょんと跳ねた。
「ツクモ?」
夜戸と森尾は目を丸くしてツクモを見つめる。
「ツクモはもう少し時間がかかるけど、ちゃんとこの人達をウツシヨに帰したら、すぐに追いつくさ! 迷子にならないように気を付けるさ~」
「……………」
きょとんとしている森尾に、ツクモは「それとも…」とニヤリと笑った。
「ツクモがいないと寂しいさ?」
森尾は小さく噴き出す。
「ったく、来るとき、お前が迷子になるなよ」
「…こっちは任せるよ、ツクモ」
事が起きてしまう前に、進むことを選択した。
背中を押すツクモと、決意した森尾を交互に見た夜戸は、森尾のあとについていくことに決めた。
「任せるさ~」
ツクモは前足で頼もしく胸を叩く。
森尾と夜戸は部屋を飛び出し、落合の足取りを追いかけた。
落合が飛び出した理由…。
部屋に、無差別殺人の道草がいないことも気になり、あえて最悪の予想を浮かべてみる。
その最悪な予想が的中しそうなのだ。
2人は、いつかの落合の言葉を思い返していた。
『同じだよ…。きょうだい揃って同じ目に遭ったんだから…。自分だけが、なんて思わないで…』
落合の本心であり、ただの慰めの言葉ではなかった。
「!」
轟音と共に地面が揺れる。
この先のどこかで、大きな衝撃が起きたようだ。
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