13:How could I forget it?
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一方、足立と姉川も先を目指し、シャドウを撃退しながら突き進んでいた。
「マガツイザナギ!」
赤い矛で近距離のシャドウ達をまとめて切り裂き、奥のシャドウ達は雷撃で一気に殲滅する。
群れの中に突っ込み、シャドウ達が霧散する中、最後に立っていたのは足立とマガツイザナギだけだ。
姉川は口笛を鳴らした。
「やっぱりケタ外れに強いね!」
「けっこうしんどいんだよ? これでも全盛期よりは落ちてる方」
「ふーん? 全盛期?」
姉川は首を傾げるが、足立はスルーして「行こうか」と歩き出す。
足立と肩を並ばせながら、姉川はゴーグル越しにジロジロと観察するように足立の全体を見た。
「…何?」
視線が気になって足立は尋ねる。
「クラミツハだと、個人の人間性ってのは見えないからね。こうして改めて観察させてもらうと、どこにでもいる一般人で、人畜無害そう…。本当に人を殺したの?」
「遠慮ない聞き方」
躊躇を微塵も感じさせない質問に、笑みを引きつらせた。
そういえば、と思う。
こうして姉川と2人きりになるのは初めてのことだ。
「そういう職業柄だからね。ニュースや雑誌で何度か見かけたけど、ウチはやっぱり自分で調べたり、本人に会って直接その口から聞いたりしないと信じない主義なの」
まさかこうして面会室も通さずに会えるとは、姉川も予想しなかっただろう。
「その言葉だけで取材を受けてる気分…。じゃあ、はっきり言うけどさ、僕が殺人犯なのは事実だよ」
姉川は恐怖感や嫌悪感で顔を歪めることなく、素直に「わあ」と小さなリアクションをとった。
「あなたもサラッと言ってくれるわね。「この、人でなし!」って罵るところなのに、本人の口から聞いても、未だに全然実感がわいてこない。もっと極悪人らしくしてほしいなぁ…。テレビドラマの配役を聞いてるみたい。犯人役・足立透ってね」
「どちらかと言うと…」
「道化役」。
口元だけ動かした。
「ほんと、妙な縁…というか、運命というか。夜戸さんとは同じ高校の先輩後輩関係で、10年越しの再会が弁護士と殺人犯…。ますますドラマじみてる」
「そう?」
「夜戸さんから足立さんの調査を依頼された時は、知らない間柄じゃないとは思ってたけど」
「調査?」
どうしようか、と歩きながら腕を組んで悩む反応をした姉川だったが、夜戸に口止めされたわけでもないので白状する。
「今まで、夜戸さんが担当した弁護を、ウチが勝手に調べて情報を提供してたけど、足立さんの場合、夜戸さんは担当弁護の依頼を受けてもないのに、ウチに頼んだの。縁もゆかりもない、とは思えなくて過去も少し探ってみたら、同じ高校ってことにたどりついたってわけ」
鼻を高くして言う姉川に、足立は恐ろしさを覚えた。
(それは夜戸さんのことも調べたんだろうな…)
芸能人なら、姉川に睨まれれば迂闊に行儀の悪いことはできない。
たとえ見えない距離まで離れていようと、少しでも粗相をしようものならすっ飛んできて激写されてしまうだろう。
「事件の全容を出来るかぎり調べて、夜戸さんに報告したよ」
「事実通りで、彼女の反応はどうだった?」
冤罪ではないことに、落胆しただろうか。
「……静かに…。ただ、静かに、資料に目を通して…。「明日にでも、拘置所に手紙を送る」って。眉ひとつ動かさずに言ってた…」
「……そう」
面会のきっかけになったのだろう。
今の足立を見て、その口から真実を聞くために。
トコヨの騒動に巻き込まれ、足立とツクモが駆けつけて事なきを得たあと、足立の口から直接事件の真相を聞いた夜戸は終始無表情だったが、それでも、最後は足立に微かな笑みを向けた。
「………どうして」
一度黙り込んだ姉川は、呟くように漏らし、足立の目をこちらに向けさせて続ける。
「どうして、再会が拘置所だったの?」
「……………」
10年の間があれば、偶然でも、町中や、互いの職務中に出会ってもよかったはずだ。
なぜ、透明の隔たりを間に、会わなければならなかったのか。
今までの夜戸を見てきて、姉川は理不尽を覚えた。
「足立さんがどんな罪を背負っていようと、足立さんにもう一度会えて、夜戸さんは変わってきてるよ。だから…、傷付けたら、ウチが許さへんから」
欲望が暴走した姉川を止めたのは、夜戸だ。
その事件以来、ますます姉川は夜戸に対して過保護になっていた。
一体どちらが年上なのか。
10年前の夜戸には、それほど大事に想ってくれる友人などいなかった。
「…怖いなぁ。自分が心配することは、なーんもせーへんさかい、安心してや」
「やめぇ。ちょっと上手いのが腹立つ」
ドス、とチョップを背中に打ち込まれ、足立は噎せた。
「うまかった?」
「なんか。声が」
「声???」
足立は首を傾げるが、姉川ははっとして「足立さん」と右腕を横に伸ばして踏切の遮断機のように足立の歩行を止める。
「ん?」
「ここから先、要注意して」
辺りを隅々まで見回す。
地下だというのに、壁や床にはツタが張り巡っていた。
潜入した時にはなかったものだ。
足立は警戒を怠らない。
腰に挟んだリボルバーをつかみとり、終わりの見えない奥を見据えた。
「中ボスが近いのかな?」
ひしひしと伝わる緊張感と高揚感で、口端がわずかにつり上がる。
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