13:How could I forget it?
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夜戸、森尾、ツクモの班は、ツクモを先頭に下水道の通路を走っていた。
行く手を阻むのは、毛糸人形のように何十何百のイバラが人型の形と成ったシャドウの集団だ。
天井から糸で吊るされた操り人形のような動きで、錆びた大きなハサミを両手で持って夜戸達に襲いかかる。
「イツ!」
召喚されたイツの曲刀がシャドウを一刀両断した。
「邪魔すんなァ!」
森尾は握りしめたバールでシャドウを撲り倒して消滅させる。
「ミカハヤヒ!」
甲冑を纏ったツクモは、ミカハヤヒを召喚して円盤でシャドウを叩き潰した。
突き進んでいくうちに、一度襲撃が途絶える。
「はぁ、はぁ」
「モリモリ、大丈夫さ?」
バールを杖代わりに体を支え、前屈みになって息を荒げる森尾は、心配して駆け寄るツクモに手のひらを向けて制した。
「シャドウの数もハンパねェ…。まさか、足立と姉川の方もこんな感じなのか? こっちは3人いるが、向こうは2人だぜ。こっちと比べて敵の数が多かったら…」
出現したシャドウの数に不安が煽られる。
連絡手段はなく、ツクモが微弱に感じ取るだけだ。
「華ちゃんの分析では、班のバランスに差はないはず。なんとなく、心配はないと思う。足立さんもいるから」
夜戸は走ってきた方向に振り返り、真っ直ぐな瞳で奥を見据える。
そんな横顔を見て、森尾は大きくため息をついてから曲げた腰を正した。
「敵わねぇな…」
「?」
小さい笑みを伴って漏れ出た言葉の意味がわからず、夜戸は森尾に顔を向ける。
「夜戸さんさ、足立とは学校が一緒だったって聞いた…」
「うん…。1年だけ…」
「それも聞いた」
森尾が歩き出すと、夜戸とツクモも歩調を合わせてついていく。
「本当に、付き合ってなかったんすか? あいつ、恥ずかしがってはぐらかしてんじゃないかって思ってんすけど」
「…勉強には付き合ってもらったけど。誰もが想像するような関係ではなかったよ」
「へぇ…」
答えは足立とほぼ同じだった。
「その…、なかったんすか? 夜戸さんは」
「何が?」
この質問は、足立にははぐらかされていた。
「……好き……とか……」
口にした自分自身が恥ずかしくなる。
「……スキ……?」
「ちゃ、ちゃんと、異性としての好きっすよ? 今はどう思ってるのかも気になるし。あいつのこと…」
誤解されてしまう前に抑えておく。
(何も想っていないとは、俺には思えない)
夜戸の視線は、いつだって足立を追いかけている。
触れようとする手は、いつも探るように彷徨い、結局は自分からは触れようとしない。
昔、2人の間に何があったのかは知らないが、足立と夜戸には、面会室でもないのに薄いアクリル板で隔てられている距離を感じた。
特に夜戸は目に見えて露骨だ。
触れるだけで罪になってしまいそうだというように。
そんな夜戸の、足立に対するはっきりと気持ちを確かめたかった。
夜戸の口からそれを聞けば、自身のやきもきした気持ちの踏ん切りがつく気がするのだ。
「……森尾君は…、小さい頃とか、学生の頃とかでもいい。異性の誰かを好きになったことはある?」
「え?」
質問の返しに、目を丸くした。
同時に、小学生の頃に好意を持っていたクラスで人気の可愛い女子を思い出す。
「ま…、まあ…」
「その子のこと、今でも思い出す時は?」
「…たまに…。我ながら甘酸っぱい思い出っすけど…」
性格は大人しく、今思えば夜戸と面影が似ている。
自分から絡んだことはなかったけれど、日直が重なった時は声をかけられたりして舞い上がったものだ。
「そう…。好きだったら、忘れるはずない」
「夜戸さん?」
何が言いたいのか、夜戸もつかみどころのない人物だ。
一呼吸置いて、夜戸は口にする。
「あたしは忘れてたよ。足立さんのこと」
森尾は思わず足を止めた。
同じく夜戸とツクモも足を止める。
「忘れていた」とは、どのくらいの期間のことを言っているのか。
森尾は肩越しに夜戸を見る。
相変わらずの無表情だ。
心の中が見えない。
「好きなら…、忘れるはずないよね?」
「なんとなく、違うんだよ」と夜戸は続けた。
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