13:How could I forget it?
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11月21日水曜日、午前0時。
朦朧とした意識の中、部屋に入ってきた人の気配に、落合は顔を上げた。
道草かと思えば、Uだ。
顔を隠す気はないのか、フードは被っていなかった。
ドアのない出入口に背をもたせかけ、落合の具合を窺い、目が合えば口を開いた。
「お仲間が来てるって」
「……仲間…?」
(兄さんたちが…?)
「……こっちから行く前に、ここを突き止めたみたい。Qさんも、さっさと地上で始末をつければよかったのに、いつまでも放っておくから…」
Uはため息をつき、部屋を見回し、落合の様子を確認してから出て行こうとする。
「ねぇ…。どうして…」
どうして、わざわざ来て教えてくれたのか。
ここに囚われてから、Uは1時間おきに様子を見に来ていた。
見張りの役割だと最初は考えたが、道草がいれば見張りなど必要ないのでは。
Uは足を止め、背を向けたまま答える。
「……気が紛れるように、って。ういは女子の味方だからね。あのクズに変なことされてないか気にかけてやってんの」
こちらは敵だと言うのに。
落合はUに触れられた感触を思い出す。
本来は思いやりのある少女なのではないかと思わされる。
「君たちは、どうしてこんなこと…。この部屋の人たちも、このままだと死んじゃうんだよ?」
「…ういは、男なんて全部死んじゃえばいいと思ってる」
「でも、君は殺してない」
磔にして生かしているだけだ。
「君は、道草とは違う。ボクを襲った奴とも違う。話が通じそうだから言うけど、人が死ぬのを黙って見過ごすなら、君は奴らと同じになる…!」
今ならまだ、こちら側に引き戻すことができるのではないか、と淡い期待を抱いた。
Uの指が少し震えたが、乾いた笑いを漏らす。
「はは…。話が通じる…か。でも、誰も、ういの話を聞いてくれなかった…」
震える指を押さえるように、コブシを握りしめた。
溢れそうな黒い煮え湯を蓋して抑え込むような声だった。
「話は終わり。君じゃ、『カバネ』は無理」
スカウトも諦めていた。
去ろうとするUに、落合は「最後に…」と声を上げる。
Uがここへ顔を出すのも最後のような気がしたからだ。
「君の名前は?」
「U」
「本当の名前だよ。ボクは、落合空」
「…羽浦…うい」
U―――羽浦は最後まで振り返らず、外套のフードを被ってあとにした。
「……う…っ…」
もう、口を動かす気力もない。
羽浦と会話していた時も、自身の声が脳を揺さぶっていた。
この部屋を存在を、夜戸達に伝えることができないものか。
時折、呻き声が聞こえた。
だいぶ前に囚われている人間の安否も気になる。
苦しんでいる人間に対し、道草は歪んだ笑みを浮かべていた。
当然の報いだと言いたげに。
喉元に突き付けられたカッターナイフが脳裏をよぎり、鼓動が早くなる。
『甘いものが食べたいわ。空、何かある?』
『この前みんなで食べた、あのアイスが食べたいっ』
『えー。お前、さっきもファミレスでアイス食べただろ』
『そう言うなよ、嵐。小さくて物足りなかったんだよな? 空』
甘い物好きも、母親譲りだった。
アイスが食べたいと言い出したのは落合で、あの言葉がなければ、違う方向に足を向けて、事件に巻き込まれることはなかったかもしれない。
家族の笑い声が途絶えることがなかったかもしれない。
「うぅ…っ」
何もできない。
嗚咽をあげることしか。
(ボクは、無力だ…。ボクに力があれば…、あんなやつ……)
力を手に入れ、それから。
はっとする。
道草を殺すイメージが浮かんだからだ。
急いで振り払うように首を振った。
(ダメだ、ダメ…。あいつと同じになる…。兄さんが…悲しむ…。けれど、もし、現実に引きずり戻しても、また裁判で無罪になってしまったら…)
「う…ッ!」
再び、腰の傷口が痛む。
まるで傷口をじわじわと広げられるようだ。
「泣く必要がどこにある?」
「!」
降ってきた声に顔を上げる前に、頭をつかまれて撫でられる。
「かわいそうに。くだらないものが、君の欲望を抑えつける」
声を出そうと空気を吸い込んだ瞬間、口から飛び出したのは、絶叫だった。
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