眠らない夜に願いを込めて







「鏡花水月、この言葉の意味知ってる？儚い幻のたとえなんだってさ｣



ふと彼女の言葉を思い出した



儚い幻...ね



今この場に居るはずのない眼の前の彼女はその幻でしょうか？いや、多分今夢を見ているんでしょう



彼女がこんなに僕の事を真っ直ぐ見てくる事なんて無いですし、いつもほのかに香る彼女の甘い香りが一切しない



なんて悪趣味な夢なんでしょう...、こんなの



彼女の姿をした目の前の女は僕を見透かしたような瞳でこちらを見つめ、少しづつ近ずいてくる



これが本物だったらどんなに良かったことか



どんどん近ずいてきた女は動けない僕の唇を奪って



少し笑った後に儚く消えてしまった



「はは...儚い幻ってこういう事...」



本当に悪趣味な夢ですね、夢なら早く覚めて欲しいです



今すぐにでも本物の彼女に会いたい



ドン!!!!


外からまたコムリンが暴れたような音がした



夢の中ですら迷惑をかけるんですか、あのロボットは...



そんな事を思いながら目を覚ましたくて目を閉じた



それでも一向に覚めてくれない夢



外からの雑音は目を閉じてたらいつの間にか消え去っていって、外からは小さな足音



その足音は僕の部屋の扉の前で止まるとそのまま部屋へ入ってきた



「ごめんうるさかったよね！？寝てた...？凄く酷い顔してるよ？」



僕は目を疑った



さっきまでそこに居て消えたはずの女が、いや、これは多分なまえ本人でしょう



一向に目を合わせようとしない綺麗な瞳に、ふわりと香る少し甘い匂い



夢なのにここまで再現してくるんですか



でも目の前のなまえが夢の中の偽物だとは思えなくて自分で顔をつねる



「痛い...」

「アレン！？どうしたの！？寝ぼけてる！？」



夢じゃない...じゃあさっきの女は？



...もしかしたらなまえが好きすぎて自分で作り出してしまった幻を見ていたのかもしれませんね



僕は目の前の今度こそ本物ななまえを立ち上がって抱き寄せた



「今度は消えないでくださいね...」

「え？うん？」



何も分かってないような声で言ってくるなまえの耳は少し赤みがかってた気がする



本物のなまえはこんなにも可愛い