閑古鳥
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
閑古鳥が泣く
「なまえ」
私の寝床に土足でズカズカと上がってきた青年、最近毎日のようにやってきては私に声をかけてくる
うるさいったらありゃしないと軽くあしらうのだが、そんなのお構い無しで1人ベラベラと聞いてもいないことを口走ってくる
今日もどうせ私の帰れという言葉には反応を返さず1人でに喋るんだと思い、無言で明後日の方角を見つめて徹底的に無視した
「なぁってば、」
急に肩を掴まれたものだから、多少大げさ気味にビクッと肩をはねさせて振り返った
軽く彼を睨むと
いつもキリッとした目を丸くさせて何故かあちらの方が驚いていた
「なによ…あなたが最初に驚かせてきたんじゃない」
「ごめん。そんな驚くと思わなくて」
無視してぼーっとしていた時にいきなり触れられたら誰だって驚くだろうがと一瞬助走をつけて殴ってやろうかと考えたが、明らかに理不尽だったので辞めた
それからじっと彼の顔を見つめていると
青い目が微かに揺れて横を向いた
それが少し面白くてじりじりと近寄りながら間近で顔を見てやると
顔を片手で覆って私の肩を軽く押してきた
「私に話したい事あるんでしょ?今なら聞いてあげても良いよ」
「そ、その前にもう少し離れてくれると嬉しい…かな」
ちょっと可愛いところあるじゃないか
そう思いながら少し離れて胸の前で腕を組みながら彼が話すのを待つ
そして口を開いた彼は
「あんた、こんな所に1人で寂しくないのか?」
「…は?」
何を言い出したかと思えば
確かにここは人里外れた洞窟の中にある巣穴だが、そもそもの話私は形こそ人に似ているが人間ではない故それが普通…だと思っている
寂しい、寂しくない以前の問題で同族も居なければ人との共存も難しい人外
そんな奴が寂しいだとか言えるわけがない
まぁ
寂しくないと言えば嘘になるのだが
「…寂しくは…ない」
そう言うと彼は
酷く悲しそうな表情を見せて
「じゃあなんでそんな顔するんだよ」
そう返してきた
そんな顔?
特に自分じゃ分からないが、変な顔はしていない、そう思いたい
彼の手が私の方に伸びて来て
頬に寄せられる
暖かい
沢山強い敵と戦ってきた傷だらけの手
歳に似合わない硬い皮膚で覆われた手が優しく頬を撫でる
「なぁ、本当に寂しくないのか?」
「………のよ」
「?…」
「ここ以外行き場がなかったんだから…
寂しいなんて言えないのよ」
頬に添えられた手を軽く退かして俯く
その退かす為に使った手が何故か無造作に優しく握られて
こんなに優しくされるのはいつぶりだったか
徐々に熱くなる目頭を自由な方の手で押さえつける
自分より一回り大きな手が頭を撫でて、少しずつ下に下がっていって抱き寄せて来る
抵抗する気も起きなくて、ただ温もりを感じてツンとする鼻に眉をひそめて握りしめられる手を強く握り返す
この状況が私を泣かせるのには充分すぎて、抑えていたのに流れ出る涙がぽつりぽつりと膝の上に落ちる
落ちた涙の跡のシミがじんわりと広がり乾いてシミの色が薄くなる
こうも優しくされると簡単に泣いてしまうのは私が人型だからか、感情をもっているからなのか、それは私には分からない
「…俺があんたの行き場を作る。寂しい時は寂しいって言って良いんだ」
こんな事言ってくる人間は生きていて、一度出会うか出会わないかだろう
擦って赤くなった目をぎゅっと瞑って深呼吸をしてから
「バカね。
行き場を作るって言ったって、私は人を襲う化け物の仲間よ?いつあなたを襲ったっておかしく無いの」
そう言った
すると彼は
「あんたにだったら襲われたって構わない。それはそれで受け入れるよ」
なんてことを言う
どんな口説き文句よ
でも
謎の説得力があって困ってしまうな
…
「足場大丈夫?」
「…大丈夫よ」
閑古鳥はもう泣かない
「なぁ…なまえ」
「何よ、リンク」
大切な居場所を見つけたから
「俺さ、なまえのこと…」
閑古鳥
1/1ページ