肝試し
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「あのさぁ、」
「何?」
「なんで私らペアなの?嫌なんだけど」
「そんなの俺だって嫌だけど公平なくじだったんだから仕方無いだろ」
修学旅行
修学旅行といえば何を想像するだろうか
大体の人は某テーマパークだったり旅館や宿舎で夜更かし、お土産何にしようだとか楽しいものを思い浮かべるだろう
私も最初は楽しい事を想像して初日は修学旅行という中学最後の旅行を楽しんでいた
そう、最初は楽しんでた
2日目の夜、先生たちや学級委員が楽しいイベントをやろうとか言い出して近所の墓場で"肝試し"をやろうだなんだ言い出してきた
勿論嫌だって言う人も居たし、面白がる人も中には沢山居た
そして多数決で結局やるに決まった
決まったまではまだ良い
でもよりによって公平なくじでペアを決めるなんて、運が悪い私にとっては不公平なくじと言ってもいいだろう
最悪な事にみんなの前では優しげなイケメン演じてるくせに二人になった途端優しげの欠片もないいけ好かない奴とペアになってしまうだなんて
くじで決めるとか提案したやつマジで許せない
楽しかった修学旅行もコイツといたら楽しく無いから学校から支給されたスマホのライトで地面を照らしながら急ぎ足で墓場を回る
後ろから彼がついてくる足音が聞こえる
他にも先頭を行っていたペアの叫び声やうるさい鈴虫かなんかの鳴き声
普段なら怖がっていたであろうこの状況も嫌な奴と一緒なら微塵も怖くない
なんなら何も喋らない彼に少しイラつきすら覚えている
元から無口な奴だとは思っていたけれど、既に出発してから10分は経過しているのに冒頭のあの会話だけしかしていない
なんなんだコイツ、ほんとにあの学校で見てる爽やか優しいイケメンなの?
「なまえ
おい、」
あーイライラする、仮病でも使って先に宿に帰っておけばよかった
ドンッ
「あ、すみませ…」
早く歩きすぎて先頭のグループにぶつかったんだと思っていたが違った
頭上から垂れてくる生暖かい何か
一瞬何が垂れてきたのか分からず、ふと視線を上に向けた
ぽた、ぽた、と垂れてくる何かの正体
それは
口だけの化け物の口元から垂れてくる赤い液体
一瞬驚いて身体が硬直した感じがしたが、よく考えてみたら肝試しなのだから脅かし役もいるだろう
そう思えば全くもって怖くは無かった
どちらかと言えばこの血糊の完成度凄くない?めっちゃ鉄なのにおいするしすげーなという感想が頭に浮かんだと同時に血糊の跡って洗濯で落ちるのかな、とも思った
「なまえ!」
「もーさっきからうっさいな、何よ」
焦り気味な声
脅かし役にそこまでビビる必要は無いでしょと文句を言おうと後ろを振り向くと、先程まで数m後ろに居た筈なのに真後ろに居て
しかも抱き寄せられたと同時くらいに頭上から嫌な鈍い音、骨を噛み砕く様な音がした
一体何が起きているのかさっぱり分からず困惑して居ると
身体が道に投げ出されて、道を照らしていたスマホが地面に落ちてひび割れる
急いでスマホを拾い上げ、あの脅かし役と彼をライトで照らす
「っ、馬鹿!見てないで早く逃げろ!」
「え、は、?」
バキバキッと音が鳴り響き、私を庇って噛まれた腕から見たことが無いくらいの血が溢れ出る
嫌な予感
先頭を行っていたグループはこの化け物に遭遇しなかったのだろうか?
この血糊だと思っていた物は本当に血糊だったんだろうか?
もしかしたら先をいっていたグループ全員この化け物に…
「なまえ!」
こんな事を考えている暇はない
今はこの状況をどうにかしないと、とは言え非力な女子中学生に何かできるかと言えば何もできない
足もそこまで速い方では無いし、逃げて助けを呼びに行っている間彼はどうなる?いくら嫌な奴だと言っても嫌いなわけでは無いしそこまで非情な人間でもない
なにか、なにか無いものか
一歩後ずさると足元に大きめの石がぶつかった
そうだ、これであいつの後頭部を殴れば流石に死ぬんじゃないか?と思った時には既に体が動いていた
化け物の頭が凹み、前に倒れ込んだ
それを間一髪で避けた彼は青い顔をしながら大きな息を吐いて
「馬鹿女!逃げろって言っただろ!」
「はぁ!?逃げたらアンタ死ぬかもしれなかったでしょ?!」
本当にさっきまで腕噛まれてたのか怪しいくらいの声量で罵声を浴びせてきた
助けてくれたことには感謝してるけど、この態度は無いんじゃないか
これで化け物に関しては一件落着かと思いきや、何事も無かったかのように起き上がり始めたのを見て彼が私の手を引っ張って来た道を引き返し始めた
後ろを振り向けばよろよろとゆっくりこっちへ来ようとしている化け物の姿があって、そこまで移動速度が早くない事に安堵しながら
後から来ていたグループがいない事に気がついた
ふと目に懐中電灯の灯りが入って、近付くにつれてそれが先生達のものだということが分かった
どうも私達より先を行っていたグループがあの化け物に襲われて、ペアだった子が食われたのを見て急いで逃げ帰ってきたらしい
そんなの嘘だろと思っていた先生方も隣の彼の血だらけな腕を見て本当だったと気がついたらしく、この墓場は閉鎖された
後日談だが
彼ことリンクは複雑骨折で全治半年くらいあるんじゃないかというあの噛み跡を3ヶ月で治した
結局あの化け物が何だったのかは定かじゃ無いし、例の食われたらしいペアの子も見つかっては居ない
この謎の出来事は朝のニュースで取り上げられて、私の服についた血のDNAが例の子と一致していた為死亡と断定された
3ヶ月経った今ではその話も落ち着いて、皆受験の合格通知にドキドキしている頃
私はと言うと
「なんで、なんでまたアンタと同じ学校なのよ!!!」
「さぁ?たまたま受けた学校が一緒だっただけだろ」
私より偏差値高い癖に同じ学校を選んだ彼に振り回されていた
「また3年よろしく」