崩れた均衡
建物を進むと、視界がひらけた。
マンタが一体優雅に舞っていた。どうやら迷い込んだようだ。
『あれ、こんなところにマンタが!迷い込んだのかしら?』
「まずいわね…。」
sirutoが呟くと、大きな音がして、何かが奥から出てきた。
さっとsirutoはirisを連れて物陰に隠れる。
それは、青い円形の光を正面の瞳のようなものから出して、ゆっくりと巡回している。
『あ、あれ…!』
暗黒竜だ。
irisがsirutoの服をぎゅっと掴む。
sirutoは、嫌な記憶を思い出し、恐怖で固まっていた。
マンタが青い光に捉えられる。刹那、青い光が赤く変わる。
狙いを定めると、咆哮をあげ、突進した。
『きゃあ!!』
irisは恐怖で叫び声をあげ、耳を手で押さえてうずくまる。
sirutoも呆然と突っ立っていた。膝が震えているのがわかる。手は汗でぐっしょり濡れていた。
それでも前に進んで行かなければならない。
irisを抱き抱える。ポンポン、と背中を撫でる。
震えはすこし落ち着いたようだ。
隠れるポイントを目で確認する。
暗黒竜が目の前を通り過ぎたタイミングで、精霊の記憶を呼び起こした。
上手く影になるところを伝いながら記憶を追う。
暗黒竜が、真上を通る時の音に戦慄する。
距離が近いので、耳を塞いでも聞こえてくるだろう。
抱えているirisを落としてしまうのでそのようなことはしないが、反射で塞いでしまいそうになる程だ。
先が思いやられる。
やっとの事で精霊の記憶の追想が終わる。
拳を握って、すっくと立っている精霊だ。
戦士の趣がある。
とてもかっこいい……irisはそう思った。
様々な感情表現を学ぶうちに、胸の内に暖かい光が満ちていくのを感じる。
精霊たちの日々の営みに触れる度に自分の中にある光がより大きなものになっていく……。
その頃sirutoは考えていた。
やはりおかしい。
捨てられた地の闇の生き物が、いつにも増して凶暴になっているのを感じる。
暗黒竜は本来、決まった巡回ルートがあり、その通りに動いている。しかし、世界に闇が増えたせいか、私たちの歩いてきた場所に残る光の残滓に反応しているのだ。
それに気がついた時、ゾッとした。だからあの時も…。
震えが止まらない。irisと繋いだ手をもう片方の手で押さえて進む。そうでもしないと、手を離してしまいそうだ。自分の歯がガチガチと音を立てていることに気がつき、口を固く引き結んだ。
最初の難関を通り越し、道は二手に分かれる。さっさと右に逃げてしまいたい気持ちを抑え、左の道、最も危険な場所へと足を踏み入れた。
墓地と呼ばれるここは、その名の通り沢山の生き物が眠っている。その中には、私たちの同志もいるのだろう。
この場所全体からどんよりと澱んだ空気を感じた。
迫り来る死の音に震えながら、この地に蔓延る闇を浄化する。何度震えで胸の内の炎を具現化したキャンドルを落としかけたことか。一箇所に留まっていることはできない。しかし動くと見つかる危険性がある。常に全ての暗黒竜の動く方向を予測して物陰に回り込み、視線を切る。四匹もいるので大変だ。
闇の浄化の合間に、辺りを伺いながら、精霊の魂を解放していく。おそらくこの地の悲劇の中逃げ惑った生存者だろう。
やっと最後の浄化を終えた。後はここの上にいる光の子の救済だけだ。
最小限の羽ばたきでたどり着く。
しかし、降りたところに、暗黒竜が二人を挟む形で迫ってきていた。
(まずい、挟まれた!)
二人をロックオンした二匹のうち一匹を、さっと物陰に隠れてやり過ごす。
恐怖心はあるものの、不思議と頭は冴えている。
もう覚悟はとうの昔に決まっているのだ。
(最後まで連れていくと決めた以上、こんなところで倒れられません!)
そして、迫るもう一匹を空中に飛び上がり、回転飛びをしながら避けようと試みた。
しかし少し間に合わなかった。
暗黒竜が脇腹を掠める。擦った痛みのようなものがあると思った。だが違った。以前突き飛ばされた時は、そこに意識を向ける余裕などなかったが、闇の粒子のようなものが一瞬まとわり付き、チカラを吸い取っていった感覚があった。不快な感触だ。
羽 は散ることはなかったが、チカラは大分持っていかれてしまった。
それでも残りの光のチカラで滑空し、暗黒竜の視界から外れた一瞬の隙を見て逃れる。
「iris!大丈夫!?」
顔を顰めて、不快さに耐えながら、高速で滑空しながらirisに問う。
幸い、かなりの高度を飛んでいたので滑空だけで次のエリアに辿り着けそうだ。
『うん…なんとか!』
顔を少し顰めながらirisが言う。
彼女も少し掠ってしまい、光を奪われたようだが、羽 の欠損は免れたようだ。
おんぶしていた状態だったので、吹き飛ばされ、空中分解しなくてよかったと思った。
sirutoはひとまず安堵した。
次のエリアに着き、irisに白いキャンドルを出してもらい、羽を回復する。
以前と違って、羽のチカラに余裕があると、落ち着いて考えられる。
羽の余裕は心の余裕、ね。
sirutoはそう思った。
マンタが一体優雅に舞っていた。どうやら迷い込んだようだ。
『あれ、こんなところにマンタが!迷い込んだのかしら?』
「まずいわね…。」
sirutoが呟くと、大きな音がして、何かが奥から出てきた。
さっとsirutoはirisを連れて物陰に隠れる。
それは、青い円形の光を正面の瞳のようなものから出して、ゆっくりと巡回している。
『あ、あれ…!』
暗黒竜だ。
irisがsirutoの服をぎゅっと掴む。
sirutoは、嫌な記憶を思い出し、恐怖で固まっていた。
マンタが青い光に捉えられる。刹那、青い光が赤く変わる。
狙いを定めると、咆哮をあげ、突進した。
『きゃあ!!』
irisは恐怖で叫び声をあげ、耳を手で押さえてうずくまる。
sirutoも呆然と突っ立っていた。膝が震えているのがわかる。手は汗でぐっしょり濡れていた。
それでも前に進んで行かなければならない。
irisを抱き抱える。ポンポン、と背中を撫でる。
震えはすこし落ち着いたようだ。
隠れるポイントを目で確認する。
暗黒竜が目の前を通り過ぎたタイミングで、精霊の記憶を呼び起こした。
上手く影になるところを伝いながら記憶を追う。
暗黒竜が、真上を通る時の音に戦慄する。
距離が近いので、耳を塞いでも聞こえてくるだろう。
抱えているirisを落としてしまうのでそのようなことはしないが、反射で塞いでしまいそうになる程だ。
先が思いやられる。
やっとの事で精霊の記憶の追想が終わる。
拳を握って、すっくと立っている精霊だ。
戦士の趣がある。
とてもかっこいい……irisはそう思った。
様々な感情表現を学ぶうちに、胸の内に暖かい光が満ちていくのを感じる。
精霊たちの日々の営みに触れる度に自分の中にある光がより大きなものになっていく……。
その頃sirutoは考えていた。
やはりおかしい。
捨てられた地の闇の生き物が、いつにも増して凶暴になっているのを感じる。
暗黒竜は本来、決まった巡回ルートがあり、その通りに動いている。しかし、世界に闇が増えたせいか、私たちの歩いてきた場所に残る光の残滓に反応しているのだ。
それに気がついた時、ゾッとした。だからあの時も…。
震えが止まらない。irisと繋いだ手をもう片方の手で押さえて進む。そうでもしないと、手を離してしまいそうだ。自分の歯がガチガチと音を立てていることに気がつき、口を固く引き結んだ。
最初の難関を通り越し、道は二手に分かれる。さっさと右に逃げてしまいたい気持ちを抑え、左の道、最も危険な場所へと足を踏み入れた。
墓地と呼ばれるここは、その名の通り沢山の生き物が眠っている。その中には、私たちの同志もいるのだろう。
この場所全体からどんよりと澱んだ空気を感じた。
迫り来る死の音に震えながら、この地に蔓延る闇を浄化する。何度震えで胸の内の炎を具現化したキャンドルを落としかけたことか。一箇所に留まっていることはできない。しかし動くと見つかる危険性がある。常に全ての暗黒竜の動く方向を予測して物陰に回り込み、視線を切る。四匹もいるので大変だ。
闇の浄化の合間に、辺りを伺いながら、精霊の魂を解放していく。おそらくこの地の悲劇の中逃げ惑った生存者だろう。
やっと最後の浄化を終えた。後はここの上にいる光の子の救済だけだ。
最小限の羽ばたきでたどり着く。
しかし、降りたところに、暗黒竜が二人を挟む形で迫ってきていた。
(まずい、挟まれた!)
二人をロックオンした二匹のうち一匹を、さっと物陰に隠れてやり過ごす。
恐怖心はあるものの、不思議と頭は冴えている。
もう覚悟はとうの昔に決まっているのだ。
(最後まで連れていくと決めた以上、こんなところで倒れられません!)
そして、迫るもう一匹を空中に飛び上がり、回転飛びをしながら避けようと試みた。
しかし少し間に合わなかった。
暗黒竜が脇腹を掠める。擦った痛みのようなものがあると思った。だが違った。以前突き飛ばされた時は、そこに意識を向ける余裕などなかったが、闇の粒子のようなものが一瞬まとわり付き、チカラを吸い取っていった感覚があった。不快な感触だ。
それでも残りの光のチカラで滑空し、暗黒竜の視界から外れた一瞬の隙を見て逃れる。
「iris!大丈夫!?」
顔を顰めて、不快さに耐えながら、高速で滑空しながらirisに問う。
幸い、かなりの高度を飛んでいたので滑空だけで次のエリアに辿り着けそうだ。
『うん…なんとか!』
顔を少し顰めながらirisが言う。
彼女も少し掠ってしまい、光を奪われたようだが、
おんぶしていた状態だったので、吹き飛ばされ、空中分解しなくてよかったと思った。
sirutoはひとまず安堵した。
次のエリアに着き、irisに白いキャンドルを出してもらい、羽を回復する。
以前と違って、羽のチカラに余裕があると、落ち着いて考えられる。
羽の余裕は心の余裕、ね。
sirutoはそう思った。