崩れた均衡
雲海の上を通る。空気がガラッと変わったのがわかった。
なんだかどんよりとしている。空も暗い。
捨てられた地の前の休憩地点へ辿り着いた。ここは安全なのだが、全く安全に感じられない独特な不気味さがある。
吹き荒れる風が強い。この風に乗っていけば先へ進む事ができる。しかし、後戻りはできない。
「iris、心の準備はできた?」
『うん…。』
「いくわよ。」
そう言ってsirutoは風の流れに飛び込む。
irisもそれに続いた。
『うわああああああああ!!』
強い風の流れに翻弄され、ぐるぐると吸い込まれていく。
体勢が制御できないままドサリと落下した。
『イタタタタタ…。』
「大丈夫!?」
『うん、大丈夫…。不気味な所だね…。』
「ええ、そうね。恐怖を抱く前も近づきたいところではなかったわ。」
『そうなんだね。』
「……いきましょうか。」
そう言ってsirutoはirisをおぶった。
柱の様な物の上と、開けたところに堂々と居る光の子を救出し進む。
次の瞬間、irisが声を上げた。
『うわっ!何これ!なんだかチカラが…。』
黒い水が足に纏わり付き、光の力を奪っていく。
「闇で汚染された水よ。傷ついたところや、口に入ったりしないように気をつけて。」
『危ないんだね…。』
蝕む闇を浄化しながら精霊たちを解放していく。
楽器を背負った精霊が、不安そうに周囲を伺う。突如ガラガラと大きな音がした。建物が崩れたのだろうか、それとも何か別の要因だろうか。
その精霊は怯えて頭を抱え、縮こまる。
楽器を持ったままだったことから、着の身着のまま逃げてきたのかもしれない。
さぞかし怖かっただろう。
少し離れた柱の影に、もう一人精霊がいた。ガタイの良い精霊がフラフラと歩いていく。しかし、途中で力尽きたようだ。その場で倒れ込んでしまった。その精霊がどうなったのかは記憶からはわからない。しかし、精霊が倒れ込んだ所には蝕む闇が……。
『ここにいる精霊たちは…。』
「そうね...。だけれども生きとし生けるものは皆、二度死ぬと言われているのよ。一度目は、肉体が滅んだ時。二度目は、皆から忘れ去られた時。つまり、我々が忘れることさえしなければ、記憶を紡ぐ事が出来れば、彼らは本当の意味での消滅を迎えることは無いの。」
『.................................。』
「こういった悲しく辛い記憶を紡ぐのも、私達に課された使命のひとつよ。」
『そうだよね…。』
「辛いことだからって、目を背けていると、より良い方向へは向かっていかないわ。」
『わかった。』
irisの瞳には決意の色が浮かんでいた。
次のエリアに繋がる場所へ辿り着いた。
「この先は暗黒竜が出るわ。警戒しておいて。」
『怖い…。』
sirutoは irisに「大丈夫よ。」とは言えなかった。彼女の心にも未だ拭いきれぬ恐怖心があったからだ。
その代わりに彼女を一旦下ろして無言でそっと抱きしめて、頭を撫でた。
今この場でできる最大の励ましだった。
そうして二人は、威圧感ある堅牢な作りの建物の中に入っていった。
なんだかどんよりとしている。空も暗い。
捨てられた地の前の休憩地点へ辿り着いた。ここは安全なのだが、全く安全に感じられない独特な不気味さがある。
吹き荒れる風が強い。この風に乗っていけば先へ進む事ができる。しかし、後戻りはできない。
「iris、心の準備はできた?」
『うん…。』
「いくわよ。」
そう言ってsirutoは風の流れに飛び込む。
irisもそれに続いた。
『うわああああああああ!!』
強い風の流れに翻弄され、ぐるぐると吸い込まれていく。
体勢が制御できないままドサリと落下した。
『イタタタタタ…。』
「大丈夫!?」
『うん、大丈夫…。不気味な所だね…。』
「ええ、そうね。恐怖を抱く前も近づきたいところではなかったわ。」
『そうなんだね。』
「……いきましょうか。」
そう言ってsirutoはirisをおぶった。
柱の様な物の上と、開けたところに堂々と居る光の子を救出し進む。
次の瞬間、irisが声を上げた。
『うわっ!何これ!なんだかチカラが…。』
黒い水が足に纏わり付き、光の力を奪っていく。
「闇で汚染された水よ。傷ついたところや、口に入ったりしないように気をつけて。」
『危ないんだね…。』
蝕む闇を浄化しながら精霊たちを解放していく。
楽器を背負った精霊が、不安そうに周囲を伺う。突如ガラガラと大きな音がした。建物が崩れたのだろうか、それとも何か別の要因だろうか。
その精霊は怯えて頭を抱え、縮こまる。
楽器を持ったままだったことから、着の身着のまま逃げてきたのかもしれない。
さぞかし怖かっただろう。
少し離れた柱の影に、もう一人精霊がいた。ガタイの良い精霊がフラフラと歩いていく。しかし、途中で力尽きたようだ。その場で倒れ込んでしまった。その精霊がどうなったのかは記憶からはわからない。しかし、精霊が倒れ込んだ所には蝕む闇が……。
『ここにいる精霊たちは…。』
「そうね...。だけれども生きとし生けるものは皆、二度死ぬと言われているのよ。一度目は、肉体が滅んだ時。二度目は、皆から忘れ去られた時。つまり、我々が忘れることさえしなければ、記憶を紡ぐ事が出来れば、彼らは本当の意味での消滅を迎えることは無いの。」
『.................................。』
「こういった悲しく辛い記憶を紡ぐのも、私達に課された使命のひとつよ。」
『そうだよね…。』
「辛いことだからって、目を背けていると、より良い方向へは向かっていかないわ。」
『わかった。』
irisの瞳には決意の色が浮かんでいた。
次のエリアに繋がる場所へ辿り着いた。
「この先は暗黒竜が出るわ。警戒しておいて。」
『怖い…。』
sirutoは irisに「大丈夫よ。」とは言えなかった。彼女の心にも未だ拭いきれぬ恐怖心があったからだ。
その代わりに彼女を一旦下ろして無言でそっと抱きしめて、頭を撫でた。
今この場でできる最大の励ましだった。
そうして二人は、威圧感ある堅牢な作りの建物の中に入っていった。