勝ちより価値有る物

雨林の光の森の雲のトンネルを抜けると、心地良い風が吹いてきた。ジメジメとした雨林とは違い、ここはカラッとしている。
光の鳥や、マンタたちと飛んでいく。攫われることはないが、やはり量がすこし多い気がする。
風の流れはだんだん強くなり、羽ばたかなくてもかなりのスピードが出る。
地面につくと、飛んでいた時の感性が働いて、そのまま坂道を滑り出した。

『うわああああ!?』

峡谷は、滑り方が分からないと、あらぬ方向に飛んでいって転けてしまう。
sirutoは自分が手をひいていて良かったと思った。

道中の光の子の力ををものすごいスピードで通過しながら受け取る。
受け取るや否や右に急カーブし、高低差のある道から飛び出す。
下の道に難なく着地し、スピードを維持したままトンネルに入り、少し曲がったトンネルのインコースを攻め、トンネル出口で体を少し左に傾ける。
全く勢いを落とさず滑り降りるsiruto。
その姿は一陣の風のようだとirisは思った瞬間、道が無くなった。

『!?』

sirutoは即座にケープを広げて滑空し、広場のようなところにふわりと降り立った。
氷の上をツーっと滑り、やがて止まる。

手慣れた動作を見て、irisが、

『sirutoすごい!滑っている姿かっこよかったよ!』

と賛辞をおくった。

「ありがとう。嬉しいわ。」

とsirutoは少し照れたような笑みを浮かべ、お礼を言った。



ここは峡谷。
かつて、スポーツが盛んであったであろう地域。



「さて、これから私たちはレースをするわよ?」

『え!?レース!?』

「まあ、レースと言っても追体験だから、走者は大体一人よ?今回は二人だけれども、たまに他の星の子と来るタイミングが被って大人数になることもあるけどね。」

そう言ってsirutoはirisを陸レース会場へと連れて行った。

さまざまな意匠を凝らした壁や床が見える。青や赤の旗もはためいている。

「ここは、人々の交流の中心だったと私は思うわ。」

そう言いながら、装置を起動させるためのキャンドルに火をつける。
現れた光に座り、出走準備を終える。
ゆっくりと扉が開くにつれて、聞こえるはずのない熱狂的な歓声が辺りを包む。

sirutoがirisの手を握る。

「いくわよ。」

一瞬の静寂が訪れる。古の観客が固唾を呑んで出走を見守っているのだろう。


扉が開いた瞬間、sirutoとirisは勢いよく飛び出した。
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