毎日告白する女の子と記憶が飛んだ真緒
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『真緒おはよう!今日も格好いいね!
好きだよ付き合って!』
「おはよう。ありがとな!けど
付き合わねえぞ」
『なんでよおおおお!!!』
「だーかーらー。俺はあんずが好きって
何度も言ってるだろ〜?」
『あんずちゃんは彼氏いるよ!
仕事っていう彼氏が!
私はほら!フリーだよ!!今ならすぐに
真緒のしたいことが出来ちゃう!』
「やましい言い方をするな!」
これが私達の朝の日常
こうなるのもかなり時間が掛かった
…と言っても2ヶ月くらい。
事の始まりは私が真緒に告白したことで
―「どうした、結羅」
―『あのね…実は真緒に伝えたいことが
あるんだけど』
―「ん?」
―『私、真緒のこと好きなの』
―「………………」
―『だから、付き合って欲しいなって…』
―「ごめん…俺さ、あんずのことが好きで
…お前の気持ちには応えられない」
―『………そっか』
―「でもすっげー嬉し『じゃあ!』ん?」
―『真緒と付き合えるまで愛を叫ぶね!』
―「え?いや、だから…」
―『真緒、今日も格好いいよ!』
―「えっちょっ…」
初めはたじろいでた真緒も、最近は
私の声に対抗して返事してくる
そんな日々が楽しいなって思いつつも
……また、ダメかって思ったりする
『やましい風に捉えたのは真緒だよ?
何考えたの〜?真緒のえっち!』
「っ、俺は普通の男子高校生だ!」
『ふ〜ん??あ、そうだ真緒!真緒が
前から気になってた映画今日からだよね』
「ん?あぁ、そういやそうだな」
これはデートに誘うチャンス…!
ここで一発誘って放課後の真緒との
時間をゲットするんだ〜!!
『ふっふっふ、これを見るといい』
「!!そ、それはっ」
『限定グッズ付前売り券だ!!
真緒が忙しいと思って取っておいた私を
褒めて欲しいね!』
「うおおマジか…!」
目を輝かせる真緒に、私は前売り券を
チラつかせながら笑う
『一緒にデートしよっ!』
「言い方だろ…でもま、チケットを用意
してくれたことは本当だしな」
『そ、それじゃあ……!!!』
「いいぜ。どーせ今日にでも行くつもり
だったんだろ?」
『さすが真緒!分かってるねぇ〜!
じゃあ今日の放課後ねっ!』
真緒とデートの約束を取り付けて
足取りが軽いまま2人で教室に入る
『真緒とデート♪真緒とデート♪』
「はいはい」
「あら結羅ちゃんおはよう♪
真緒ちゃんとデートなの?」
『そうなのお姉ちゃん!えへへ、楽しみ』
「青春ね〜♡そういうのとっても素敵♪
いっぱい楽しんできて欲しいわァ」
『楽しむ〜!ね〜真緒!』
「こらこら引っ付くなって!それにまだ
学校来たばっかだぞ〜?」
『だって楽しみなんだもん!』
抑えきれない緩んだ頬に手を当てて
私は真緒の斜め前の席についた
そんな私の前にやってきたのは彼の幼馴染
「結羅、ま〜くんとデート?」
『うん!』
「…ふ〜ん。でも忘れちゃダメだよ
ま〜くんが好きなのはあんずだからねぇ」
『…!う、うん………』
分かってるよ、それは…ずっと分かってる
.☆.。.:.+*:゚+
その日の放課後
「よっ、と…」
『真緒〜って、あれ、生徒会の荷物?』
生徒会室に居るだろう真緒の元へ行くと
大きな箱があった
それを1人で抱える真緒に声をかける
「お〜結羅。あんずが1人で
持とうとしてたから引き受けたんだよ」
『…そうなんだ!真緒カッコイイ!』
今、ちょっとズキッてきた。
どれだけ普通に接してくれても
どれだけ私が愛を伝えても…真緒はずっと
一途にあんずちゃんのことが好きで
『じゃあ私もお手伝いするね!』
そう言って箱の中の荷物を半分持って
2人で階段に向かって歩く
「悪いな手伝ってもらって」
『真緒だから特別!』
そう伝えると真緒が突然黙り込んだ
不思議に思った私がふと見ると
彼は少し困った顔をしていた
「なぁ、結羅」
『ん?』
「……そろそろ、終わりにしよう」
…嫌な、予感がする
『…な、にを………』
「そうやって、俺に気持ちを伝えること」
ほら、嫌な予感がしたんだ
何段か上の階段を登りながら話す真緒は
何だか少し……いや、かなり遠く感じた
「…この後、映画を観終わるまでにしよう
何度伝えてくれても、俺はお前の気持ちに
応えることが出来ない。だからさ、
明日から、俺よりもっといい人探せよ!
きっともっと良い奴沢山いるから!
ほら、北斗とかどうだ?優しいし気も利く
結羅のことも大切に…」
『…………んで…………』
「え?」
階段を登りきる直前、
私はその場に荷物を落として
…叫ぶように、真緒に言った
分かってるんだ。全部
これだけ私が想いを伝えてるから
付き合ってるって思ってる人もいる様で
でも逆に真緒はあんずちゃんのことが
好きなことを知ってる人もいる
凛月みたいに私に言ってくる人は
そう少なくはない。
あんずちゃんが好きだから
貴方は無理だよ
真緒は優しいから私に情けを
掛けてるだけだ
って…色んな人に言われる。それに
『真緒があんずちゃんが好きなのも
分かってる!諦めた方がいいって言うのも
全部全部分かってるの!!』
「結羅………」
『でも、どんどん好きになっちゃう…』
「っ!」
迷惑なのも分かってる
叶わないのも、分かってるんだ
それなのに私は変われなくて
『真緒のこと…友達って思いたいのに…
好きが溢れてくる…
分かってるから……いつか、いつかちゃんと
私の事思ってくれる人の事を好きに
なるように頑張るから…だからお願い…
真緒も否定しないで……』
「俺、も……?」
『っ!なんでもない!ほら………あ』
散らばった書類を踏んで、足を滑らせる
これはまさかの階段から落ちる奴なのでは
「っ結羅!!」
『!!!』
.☆.。.:.+*:゚+
『……お……っ…真緒!!』
「…う………ん?」
『!!真緒!良かった…』
目が覚めると、学校の廊下…近くには
階段がある状態だ
「真緒ちゃん!目が覚めたのね!」
『大丈夫!?怪我は…!?ごめん…
私のせいで…私の事庇ったから………』
「結羅ちゃん、自分を責めたら
駄目よ?真緒ちゃんは無事なんだからっ」
「ま〜くん、大丈夫?病院行く?」
「嵐…凛月…それに…あれ、俺何して…」
そうだ、書類を運ぼうとして…
『真緒、階段から落ちかけた私のこと
庇ってくれたんだよ……怪我なくて
ほんとに良かった…真緒に何かあったら…』
「…なあ、さっきからあれだけど
…お前、誰だ?」
「っ!?」
『………………』
「女の子…だし、あんずの知り合いか
普通科…いや、新しいプロデューサーか?」
俺がそう言うと、その場の空気が何故か
凍った気がした
―翌朝
『おはよう真緒!』
「…あ、昨日の」
『もう!おはようから先でしょ!』
「お、おはよう?」
『よしよし!流石いい子私の彼氏!』
家のドアを開けると、昨日の女の子が
俺を待っていた。話を聞くと
あの後の記憶は曖昧だが、俺は何故か
凛月に寝かされてそのまま家まで
おぶられたらしい
…あの凛月が???????
「あの、さ…彼氏って?」
『むっ…謙虚で固すぎる誰かさんは
私の事階段から落ちただけでケロッと
忘れたみたいだけど、私と真緒は
夢ノ咲でも名の知れたビックカップルなの
映画みにいく約束だってしてたのに〜』
そう言って彼女が出したのは
俺が行きたいと思っていた映画の前売り券
しかもグッズ付きのものだ
「お前…それ…!」
『そう!忙しい真緒のために私が先に
買ってきたんだよ!?なのにそれも
忘れちゃうなんて…』
「ご、ごめんなさい!すぐ思い出す…
ように努力はするので!」
急いで頭を下げると、彼女は浅く
ため息をついた
『…別に思い出さなくてもいいよ』
「え?」
『これから沢山思い出を作れば
いいんだもん!改めまして、
真瀬結羅です。衣更真緒くん
貴方の彼女になってますっ』
☆*。
『とは言ってもねぇ。真緒は私の事
覚えてないもんね…』
「ほんとにすまん…彼女のこと忘れるとか…
俺彼氏として失格じゃね…?」
『っ〜!!!そんな事ないよ!真緒は
私にとって自慢の人なの!だからだから
そんなふうに思いつめないで?』
「…ありがとな」
こんなに俺の事を心配して
優しくしてくれる彼女を持ってたなんて
なのになんで俺は忘れてるんだ?
しかも彼女…結羅についてだけ
あんずとかのことは覚えてるのになあ
『真緒!手、つなご!』
「お、おう…」
そうだよな、彼氏彼女なんだしそのくらい…
あれ、でも…俺はあんずのことが好きで…
なのになんで結羅と付き合ってるんだ?
『……真緒』
「ん?」
ちゅっ、と頬に柔らかいものが触れる
「っ!な、ななななっ…」
『真緒の顔真っ赤〜!!!』
たしかに今、俺の頬に結羅が
き、キキキっ…キス、したよな!?
『へぇ、真緒ってそんな反応も出来るんだ
ちょっと新発見かもっ!』
「お前なあ…!!」
『彼女の特権で〜す!!』
そう笑う彼女は
「…結羅?」
『ふふふ…ん?なぁに?』
「…いや、なんでもない。お前のこと
思い出せるように頑張るな」
『だから無理しなくていいのに〜!』
なんだか少し、悲しそうな顔をしたから
思い出してやらないといけないと
強く思った
『真緒〜ご飯作ってきたよ!』
「うお、まじか」
『当たり前でしょ!彼女なんだし、
彼氏の栄養バランスはバッチリです!』
「頼もしいなあ」
机を引っつけてから弁当箱を渡される
そのまま蓋を開けると、本当に綺麗に
彩り良く作られた弁当があった
「すっげぇ」
『ありがと!ほらほら、食べて食べて!』
「お、おう…いただきます」
とりあえず目に付いた生姜焼きから
口に運んでみる
「………うま」
『ほんと!?』
「おう、普通に俺好みの味だわ…」
『真緒の、好み………良かった…』
まあでも、彼女だから分かってて
当然なのかもしれないけど…俺からみたら
初めての彼女からの手作り弁当だからな
驚きを隠せない
「…………あれ、記憶を失う前の俺って
だし巻き玉子が好きだったのか?」
『っ!!!』
俺は甘い方が好きだったりするんだけど…
もしかして記憶と一緒に多少なりとも
味覚も変わったのか?
『み、味覚も変わったのかな〜?
次は甘いもので作るね!』
「これはこれで俺は好きだけどな!
じゃあ甘いのも楽しみにしてるよ」
『うん!待ってて〜!あ、そうだ!
真緒、次の移動教室の時にさ』
「ん??」
☆*°
「…………なあ、結羅」
『もうちょっと〜!いつもは真緒も
ギューってしてくれるじゃん!』
そうなのか、そうなのか俺!?
こんな人の気ない空き教室で
時間ギリギリまで俺たちはこうして
抱きしめあってたのか!?
『真緒〜』
「うっ………わかったよ」
『やったっ♪』
けど実際、これをあんずに見られたら
なんて考えちまうんだよな…俺自身は
あんずのことが好きだった記憶はあるけど
なんで結羅を好きになったとか
付き合ったかとかは覚えてねえし…
「なあ、結羅」
『ん?』
「俺達って、どうやって付き合ったんだ?」
『どうやって、って?』
時間もあるし聞いてみよう
そう思い、俺は少しだけ彼女を
抱き締め返してから聞いた
「どっちから告白したとか、
なんて言ったのか〜とか」
『……………』
「…結羅?」
『あ、えっとね…私から告白したの!
そしたら真緒はね、少し恥ずかしそうに
でも優しい声で言ってくれたんだ〜
俺も好きだよ。って!きゃーっ』
「そ、そうなのか」
ってことは少なからず両思いだったと…
んー思い出せないなあ
『真緒はね、言ってくれたんだ〜。
これからも一緒に居たい、
隣にずっと居てもいいですか?
って…私すっごい嬉しかった』
「そんなことも思い出せないってなると
俺はほんとにダメだなあ」
『だからいいの!これからも沢山真緒が
私の隣で笑ってくれてたら、私はもう
それだけで幸せ!………いつか記憶が
全て元に戻ったとしても……』
「…結羅?」
『…もうちょっと、ぎゅーしよ!
真緒、もっとぎゅってして!』
「え、あ…ええっ…?」
『離れないよって伝えるみたいに!
ほら!…………ぎゅって…』
「っ…!!」
俺の事を見上げる上目遣いの結羅は
子猫みたいに真ん丸な瞳を揺らめかせて
頬を赤くしていた。その表情や、少し
不安げな甘い声に、不覚にもときめき、
可愛いと感じてしまう。それはそのまま
「可愛い」
『…ぇ…?………』
「可愛いよ、結羅」
言葉になって、口から出ていくけど
付き合ってる訳だし、それはきっと
普通なんだと思って俺は我慢せずにすっと
声に出した
『…私、可愛かった…の……?』
「?おう…あれ、変なこと言ったか?」
『え、あ…ううん!真緒はあんまり
そう言うの言ってくれなかったから!
嬉しくてびっくりしただけ!』
記憶を無くす前の俺はそんなに
言葉にしなかったのか…だからきっと
結羅はこうやって明るくて、
俺にその言葉を言って貰えるように
努力してたんだろう…と感じる
「……結羅」
『ん?なぁ…に……………………』
「……………」
そのことを感じたら、目の前の彼女が
愛しくて堪らなくなった。思わず
頭の後ろと腰に手を回して、そのまま
小さな唇にキスを落とす
『……………ま、真緒…?』
「………朝の仕返しだ」
『…顔、真っ赤だよ………?』
「そういう結羅も赤いぞ?」
『これは凛月の目の色が反射してるだけ』
「どういうことだよ怖いわ」
見つめあって笑って、もう一度キスして…
好きになった理由、なんとなくだけど
分かってきた気がする
後は思い出を戻すだけ…なんだけど
『真緒……』
「…………………」
何か引っかかる気がして、ただ彼女を
強く抱き締めた
『真緒〜!部活に行こ〜!』
「おう!」
結羅に言われて俺は荷物を纏めて
用意をしていると
「ま〜くん」
「ん?どうした、凛月」
「………あんずはもう、いいの?」
「あんず?あんずがどうしたんだ?」
「あんなにま〜くん、あんずのこと好き
って言ってたじゃん」
「いつの話だよそれ?それにほら、
俺には結羅がいるだろ?」
そう言うと、凛月は眉間に皺を寄せて
「………ま〜くん。ほんとにま〜くんは
結羅のことが好きなの?
付き合ってるって言われたから、
言葉を鵜呑みにして付き合ってるなんて
事じゃないよね?」
「…は?どういう…」
『真緒〜?』
「おう!じゃあな、凛月!」
「…………………」
俺は待たせてる結羅の元に
急いで向かった。変な凛月だったな…
「……ね、ま〜くん…本当の嘘つきは、
どっちなんだろうね」
☆*°
「はいダーンク!」
「っお!?スバルいつのまにそんなの
出来るようになってんだ!?」
「へへん!凄いでしょ〜!」
『スバル凄いね…!それに真緒も、
きっとできるようになるよ!』
「じゃあじゃあ、サリ〜に教えてあげる!
マセマセに格好いいところ見せようよ!」
「お、おう??」
スバルがそんなことを言って、
ボールを回収してくると
「結羅ちゃんいますか〜?」
『あんずちゃん!どうしたの?』
「これ!前言ってた書類の…」
体育館にあんずが入ってくると
結羅に用があったらしく、彼女は
ちょこちょことあんずの元に近寄った
書類を貰うと、たちまちあんずの周りには
ほかのメンバーが集まってきていて
結羅は呆れた顔でため息を吐くと
あんずを体育館の外まで案内していた
「サリ〜」
「ん?」
「……マセマセはさ、本当にただまっすぐ
サリ〜のことが好きなんだよ」
「なんだいきなり?」
スバルは何故か、困ったような顔で
笑いながら俺に言った
「…サリ〜、もし全部マセマセとの記憶が
戻ったら、マセマセへの気持ちは変わる?
今の気持ちのまま居れる?」
「…それは、わかんねえけど…でも」
『?真緒、どうしたの〜〜?』
駆け寄ってくる彼女を見つめながら
今度は俺がスバルに言った
「…でもきっと、この気持ちは嘘じゃない
って思うよ。戻ってからじゃねえと
わかんないけどさ…今起きてることは
紛れもない現実なわけだし」
「………そっか」
『なになにスバルとなんの話してたの?』
「へへん、男と男の秘密だよ〜!」
『ええなにそれ気になる!!』
だってたまに、結羅は酷く悲しそうな
顔をするから。それはきっと、俺が
思い出せないから
…早く思い出して、記憶を共有して
心から好きだって伝えてやりたい
☆*°
「あ、衣更くん」
「おう、あんず!」
数日後、廊下であんずと出会い立ち話を
何気なくしていた
「最近どうだ?困ってないか?」
「大丈夫だよ、ありがとう。衣更くんは?
抱え込む前に教えてね」
「ははっ、ありがとな。お前はホント
そういうとこまで気にしてくれてさ
そんなとこを俺は…………」
「?衣更くん、どうしたの?」
俺は…………
なんて、言おうとしたんだ……
俺は…【好きだった】って言おうとした
…そうだ、あんずのこと好きだったんだ
けど今は結羅が居てくれる
だから俺は…あれ、おかしい
「なあ、あんず…俺と結羅って
いつ頃付き合い始めたんだ?」
「っ!そ、それは………」
『あー!真緒いた!む〜またあんずちゃんと
一緒だ〜!ヤキモチ妬いちゃう…』
「ごめんごめんって!じゃあな、あんず
また今度話そうぜ!」
「う、うん…………」
俺はやってきた結羅と一緒に
やり残した仕事を片付けるため
生徒会室へ向かった
『………』
「…!!」
『…(余計なこと、してないよね)』
「……(大丈夫だよ)」
あんずと彼女のそんな視線のやり取りさえ
知らないまま
☆*°
「なあ、結羅」
『ん?』
「俺たちって、いつ付き合ったんだ?」
『っ…さ、3ヶ月くらい前!だから、
真緒と付き合って2ヶ月くらいで記憶が
無くなった感じかな!』
「そうか……」
もう、1ヶ月も彼女のことを思い出して
やれてないのか、俺は…
『これで最後だね、よし、荷物を持って
みんなのレッスンに合流だ〜!』
「お〜!って、ノリがもうスバルだよ
よし、んじゃ行くか!」
書類をカバンに入れて、俺は手を出す
結羅は笑顔で握り返してくれて
そのまま生徒会室を出た
『もう、ちょっとだけ…』
「ん?なんか言ったか?」
『んーん、なんでもない!』
☆*°
「衣更が結羅のことを忘れて
もう1ヶ月経つのか…まだ何も思い出したり
出来ていないのか?」
レッスンの終わり、俺たちは着替えて
結羅はデッキやら小道具を
片付けに行ってくれてる中
北斗はふと思い出したように声を出した
「あぁ、思い出してやりたいし、
心から好きだって言ってやりたいんだけどさ
…勘違いだったらあれだけど、たまに
結羅、俺に自分との思い出を
思い出して欲しくないって思ってそうに
感じる時があってさ…」
「「「……………」」」
「記憶が戻れば、思い出も共有できるし
幸せだと思ってるんだけど…
記憶が無くなる前に、あいつを庇って
階段から落ちたってことはさ、
もしかしたら、何かしちまって、
あいつを悲しませたのかなって…」
じゃなきゃ、たまにあんなに
悲しそうな顔しないと思うから
「そう思ったら、ちょっと怖い」
「サリ〜………」
「衣更くん…で、でも!衣更くんは今
結羅ちゃんが好きなんだよね!」
「っへ!?」
不意に真がそう声を上げた
「す、すき?あ、えっと……………お、おう
…好き、だけど…」
「なら思い出しても、マセマセにちゃんと
そのこと伝えてあげたらいいと思う!
………じゃなきゃ、マセマセが可哀想だ」
「ん?ごめんスバル、最後聞こえなくて…」
「なんでもな〜い!っと、あ!
マセマセこの荷物忘れてる〜!!」
スバルが指を差した先には箱がひとつ。
中には書類も入っているみたいだ
…この箱、どっかで…………
「っ!!!」
なんだこれ…ただの箱だろ?書類だって
別にいつも見てるものと同じで…
『ごめん!ひとつ忘れ物してた!
あ、真緒〜!それだよそれ!その箱!
危ない危ない…早めに気づいて…って
どうしたの、真緒?顔色悪いよ?』
「っ…………」
『………真緒?』
忘れていた何かが繋がった気がした
「…はっ……」
『真緒…ねぇ、真緒?大丈…』
パンっ、と…結羅から差し伸べられた
手を弾いた。空気が凍る。辺りは静寂
「…あ…悪ぃ…………」
『……………………そっ、か』
―思い出しちゃったんだね
「衣更、過呼吸を起こしかけてる。
ゆっくり落ち着いて息をしろ」
「…はぁっ…はぁっ」
『……真、もうすぐここにあんずちゃんが
通るはずだから、頼んでもいい?』
「え、で、でも!」
『…………私が居たら多分ダメだから』
「…待っ………………」
「マセマセ!待ってよ!いいの!?」
『……それは、私じゃ決められないのっ』
そう言って結羅は荷物を持って
レッスンルームから出ていった
待って、待って待って待って…行くな…
「はぁっはあっ、……ゆ、うら……っ…」
ガチャリと扉が急に開く
「っ、結羅…!!!」
「衣更くん、大丈夫!?」
やってきたのは、彼女じゃなくて
俺がずっと好きだった人
「はぁ、はぁっ…俺、行かねえと…っ
また、またあいつを悲しませちまう…っ
いま、今行かねえと…っ………」
「でも衣更くん…そんな状態で……」
「私、椅子出しますね…!!」
「ありがとうあんず!サリ〜!!
あんずが来てくれたよ!」
そうだ、俺がずっと好きだったあんずだ
俺はずっとあんずが好きだった
記憶を無くす時……いや、それよりも
少し前までは好きだったんだ。
でも、いつからだろうなあ
―『おはよう真緒!今日も格好いい!』
彼女に、視線が向き始めたのは
―『やましい風に捉えたのは真緒だよ?
何考えたの〜?真緒のえっち!』
―「っ、俺は普通の男子高校生だ!」
俺はいつの間にか嘘をついてた
あんずが好きって伝えても、真っ直ぐに
気持ちを伝えてくれる結羅に
―『一緒にデートしよっ!』
―「言い方だろ…でもま、チケットを用意
してくれたことは本当だしな」
―『そ、それじゃあ……!!!』
―「いいぜ。どーせ今日にでも行くつもり
だったんだろ?」
―『さすが真緒!分かってるねぇ〜!
じゃあ今日の放課後ねっ!』
【お前のことが好きになったよ】
なんて、言えなかった
―『真緒とデート♪真緒とデート♪』
―「はいはい」
伝えたら、何か変わりそうで
伝えたら、いなくなってしまいそうで
この毎日が変わることが怖かったんだ
―「……そろそろ、終わりにしよう」
―『…な、にを………』
―「そうやって、俺に気持ちを伝えること」
だから俺は、あの時そう言ったんだ
こんな風に流されて好きになるような
ダメな男は結羅には合わない。
純粋で一途な気持ちを
俺はきっと穢してしまうから
―「…この後、映画を観終わるまでにしよう
何度伝えてくれても、俺はお前の気持ちに
応えることが出来ない。だからさ、
明日から、俺よりもっといい人探せよ!
きっともっと良い奴沢山いるから!
ほら、北斗とかどうだ?優しいし気も利く
結羅のことも大切に…」
けどそれは違ったみたいで
―『真緒があんずちゃんが好きなのも
分かってる!諦めた方がいいって言うのも
全部全部分かってるの!!』
―「結羅………」
怒ったように、嫌がるように
ワガママな言い方で彼女はそう言った
けどその直後
―『でも、どんどん好きになっちゃう…』
―「っ!」
悲しそうに目を伏せて、涙をためる
結羅に、どきっとする
俺の事を好きでいてくれてることが
嬉しくて、愛しくて…
―『真緒のこと…友達って思いたいのに…
好きが溢れてくる…
分かってるから……いつか、いつかちゃんと
私の事思ってくれる人の事を好きに
なるように頑張るから…だからお願い…
真緒も否定しないで……』
―「俺、も……?」
その言葉に反応してしまった
ふと呼吸も落ち着いてきたし
あまりにも気になり声を出した
「なあ、誰かさ、結羅が俺の事
好きだって知ってて否定した奴とか
居たのか……?」
「あ〜凛月くんとかかな。あと何人か
いた気もする」
真がそう声に出して、思わず俺は
声を荒らげた
「なんでだよ…なんであいつの純粋な
あの気持ちを否定してるんだよ…!」
「……衣更、皆お前のためだったんだ」
「…え?」
俺の、ため?
「お前はあんずが好きだった。けどそれを
結羅は知りつつも衣更に近づき
何度も何度も好きだと言っていた
1部の奴らは、衣更の恋を邪魔する、
という風に捉えていたのかもしれない」
「そ、んな………」
―『真緒も否定しないで……』
あいつは、周りから否定されても
俺に思いを告げてくれていたのか……
「ごめんねサリ〜…」
「っえ?」
「サリ〜とマセマセが付き合ってるなんて
そんな嘘付いてて…マセマセにね、
頼まれたんだ」
「たの、まれた…?」
―『北斗、スバル、真、あんずちゃん
お願いします。真緒に何を聞かれても
私と付き合ってる前提にしてください』
―「マセマセと?」
―「で、でも衣更くんは…」
―『思い出すまででいいの。思い出した時
…その時は、私が諦める時だから
それまででいいの、お願い…。
ずっと叶えたかった、ずっと願ってた、
真緒との日常を、ほんの少しだけ…
私に、1度だけ幸せな夢をください』
「…っ!!!」
「…どうやら結羅は、色んな人に
頭を下げたらしい。勿論、あまり
よく思わない人もいたようだが…そんな
人達は、衣更の記憶が戻った時に彼女が
諦めるというのを条件でその願いを
叶えたらしい」
「…私、聞いちゃったんです…
結羅ちゃんと、凛月くんの会話…」
…嫌な予感しかしない
あんずからその話を聞いて
―『…凛月…………』
―「ま〜くんが好きなのはあんず
分かってるんだよね?」
―『うん、知ってるよ』
―「それでも彼女面する気なの?
記憶のないま〜くんを使って?」
―『………………そう、だね』
―「…………………」
―『でもね、初めてなんだ!好きで
諦めたくないって思うくらい、まっすぐ
好きになった人…。だから無理だって
分かってても…真緒の隣が欲しかった
……真緒には悪いことしてるなって思うよ
でも私も…好きになっちゃったんだもん…
好きって、こんなにも苦しい』
―苦しんでるのを、ずっとずっと
俺は見て見ぬふりをして…
嘘をついてたのは…俺だ
「っ…結羅!!!!」
俺は荷物を持って、駆け出した
「…青春だねぇ」
「明星くんがそれ言う?」
「だが明日会った時に、あの2人が
偽りではないカップルになっているのを
見るのが、俺は楽しみだったりする」
「私もです」
「っていうかあんずは気付いてたの?
サリ〜があんずのこと好きって」
「はい。けど私はどうやっても衣更くん
じゃなくて…」
「「「じゃなくて?」」」
「仕事が好きなので」
わかってた、分かってたんだよ
そもそも好きだって言うべきじゃなかった
伝えなければ良かったのかもしれない
そばに居たいなんて願って
隣がいいだなんてわがままを願って
あの日私のことを忘れたのは
お前はどう頑張っても無理だって、きっと
神様からのお告げだったんだろう
けど私は穢れてた。それで諦めるなんて
できっこなかった
―「…なあ、さっきからあれだけど
…お前、誰だ?」
―「っ!?」
―『………………』
あの瞬間、彼女だって嘘をつくことにした
―『よしよし!流石いい子私の彼氏!』
―「あの、さ…彼氏って?」
―『むっ…謙虚で固すぎるせいか、
私の事階段から落ちただけでケロッと
忘れたみたいだけど、私と真緒は
夢ノ咲でも名の知れたビックカップルなの
映画みにいく約束だってしてたのに〜』
ごめん、ごめんね真緒
―「ご、ごめんなさい!すぐ思い出す…
ように努力はするので!」
―『…別に思い出さなくてもいいよ』
―「え?」
―『これから沢山思い出を作れば
いいんだもん!改めまして、
真瀬結羅です。衣更真緒くん
貴方の彼女になってますっ』
嘘つきで、ごめん…それでも
―『とは言ってもねぇ。真緒は私の事
覚えてないもんね…』
―「ほんとにすまん…彼女のこと忘れるとか…
俺彼氏として失格じゃね…?」
貴方の口から、 彼氏 なんて言葉が
出るだけで嬉しかった
―『真緒!手、つなご!』
―「お、おう…」
手を繋げるだけで嬉しかった
―『……真緒』
―「ん?…っ!な、ななななっ…」
―『真緒の顔真っ赤〜!!!』
意地悪で、頬にキスなんてして
―『へぇ、真緒ってそんな反応も出来るんだ
ちょっと新発見かもっ!』
―「お前なあ…!!」
―『彼女の特権で〜す!!』
…思い出した時、真緒は私のことを
嫌ってくれるだろうか
―「…結羅?」
―『ふふふ…ん?なぁに?』
―「…いや、なんでもない。お前のこと
思い出せるように頑張るな」
―『だから無理しなくていいのに〜!』
早く思い出して、私からちゃんと
離れてくれるだろうか
―「………うま」
―『ほんと!?』
―「おう、普通に俺好みの味だわ…」
―『真緒の、好み………良かった…』
初めての手作り弁当を、そうやって
褒めてくれて
ちょっと冷や汗かいたけど、真緒の
好みも知れて嬉しかった
―「…………なあ、結羅」
―『もうちょっと〜!いつもは真緒も
ギューってしてくれるじゃん!』
いつもハグしてるなんて嘘ついて
ずっと夢だった、真緒に抱きしめてもらう
事さえもしてもらって…
―「…結羅?」
―『あ、えっとね…私から告白したの!
そしたら真緒はね、少し恥ずかしそうに
でも優しい声で言ってくれたんだ〜
俺も好きだよ。って!きゃーっ』
―「そ、そうなのか」
嘘の願望を織り交ぜた言葉だった
―『真緒はね、言ってくれたんだ〜。
これからも一緒に居たい、
隣にずっと居てもいいですか?
って…私すっごい嬉しかった』
―「そんなことも思い出せないってなると
俺はほんとにダメだなあ」
―『だからいいの!これからも沢山真緒が
私の隣で笑ってくれてたら、私はもう
それだけで幸せ!………いつか記憶が
全て元に戻ったとしても……』
元に戻っても離れないで欲しい
みんなには離れるなんて言ったけど
本当は離れたくない、そばにいたい
―「…結羅?」
―『…もうちょっと、ぎゅーしよ!
真緒、もっとぎゅってして!』
―「え、あ…ええっ…?」
―『離れないよって伝えるみたいに!
ほら!…………ぎゅって…』
―「っ…!!」
でもここまで嘘を重ねた私のことを
もうきっと真緒はこの瞳で見てくれない
―「可愛い」
―『…ぇ…?………』
―「可愛いよ、結羅」
こんな言葉も、伝えて貰えないから
…だから今だけ…幸せになりたかった
ほんの少しでいいから抱きしめて欲しくて
―「……結羅」
―『ん?なぁ…に……………………』
―「……………」
頭の後ろと腰に手を回されて、そのまま
唇にキスを落とされて
―『……………ま、真緒…?』
―「………朝の仕返しだ」
―『…顔、真っ赤だよ………?』
―「そういう結羅も赤いぞ?」
―『これは凛月の目の色が反射してるだけ』
―「どういうことだよ怖いわ」
見つめあって笑って、もう一度キスして
真緒からキスしてもらえるなんて
思ってなくて
―『真緒……』
―「…………………」
強く抱き締めてくれる真緒の腕の中で
少しだけ泣いた。
続けばいい、こんな幸せな時間が
終わらなければいいのにって
いつか必ず、思い出す時は来るのに
このままじゃダメなのは知ってたのに
―『あー!真緒いた!
む〜またあんずちゃんと一緒だ〜!
ヤキモチ妬いちゃう…』
―「ごめんごめんって!じゃあな、あんず
また今度話そうぜ!」
―「う、うん…………」
たまに2人が話してるのを見ると
また胸が苦しくなる
この偽りさえも溶かして、真緒は
あんずちゃんの元に行ってしまいそうで
怖くて仕方なかった。だから
―『もう、ちょっとだけ…』
―「ん?なんか言ったか?」
―『んーん、なんでもない!』
ちょっと欲張りになったから、
だからとうとう罰が当たったんだ
―「っ…………」
―『………真緒?』
―「…はっ……」
―『真緒…ねぇ、真緒?大丈…』
パンっ、と…差し伸べた手を弾かれて。
空気が凍り、辺りは静寂に包まれて
―「…あ…悪ぃ…………」
―『……………………そっ、か』
―思い出しちゃったんだね
真緒は、全部思い出してしまった
…ううん、やっと思い出してくれた
―『……真、もうすぐここにあんずちゃんが
通るはずだから、頼んでもいい?』
―「え、で、でも!」
―『…………私が居たら多分ダメだから』
―「…待っ………………」
―「マセマセ!待ってよ!いいの!?」
―『……それは、私じゃ決められないのっ』
いいかどうかなんて分からない
真緒が決めることだもん
そう思ってレッスンルームから出る
そのまま帰り道を歩いて…この1ヶ月、
2人で歩いた海岸の前でふと立ち止まって
『…もう、無理だよね…はー楽しかった!
真緒と付き合うとあんな風になるんだぁ
道路側歩いてくれて、似合うものとか
教えてくれて、頭撫でてくれてそれで!
……キスが、苦しいくらい優しくて』
抱き締めてくれる腕は頼もしくて
『…あったか、かったなぁ…っ……』
この1ヶ月で沢山真緒の知らないことを
知れた。叶うはずのなかった願いを
全部全部…本人に叶えてもらった
まあ、私の無理矢理だったけど
楽しかった。幸せだった。
ずっと望んでた真緒の隣は、
思ってる以上に光で満ち溢れてた
帰るべき場所【あんずちゃんの隣】に
早く…戻してあげなきゃ
私がこれ以上想いを伝えても
きっと困った顔で真緒は私を見るから
「っ…結羅!!」
『…っ!!!』
後ろから走ってくる声は
間違いなく私の大好きな声
大好きで…私が1ヶ月振り回した
私が顔も合わせる資格のない人
なんで来たの?なんでいるの?
あんずちゃんが来たでしょ?
それとも私に嫌いだって言いに来たの?
『………………誰、ですか?』
だから私は背中を向けたままそういった
「………んだよ、俺に仕返しか?」
『…仕返し…?することが無いです』
「……………結羅…」
なんでこんなに私を気にするの
なんで追いかけてきてるの
『……階段から落ちたんですかね、
貴方のこと、忘れちゃって…』
真緒、離れる時だよ
ずっと引っ付いてうるさかった私を
もう関わらずに居れるようになる
最初で最後のチャンスだから
「………なら俺がそっちに行く」
『っえ………きゃっ!!』
「結羅…好き…俺も好きだよ」
『…!!何、言ってるの…』
後ろから抱きしめてきた真緒は
そのままぽつりぽつりと話し始めた
「ごめん…結羅のことだけ
忘れて、ごめん…俺嘘ついてた
いつの間にか、結羅のこと
好きだったんだ…でも、ずっと俺の事を
好きでいてくれてるお前に、あんずのこと
好きって言い張ってた俺は言えなかった
俺も好きになったよなんて、そんなの
軽すぎると思って伝えられなかったんだ」
『…………』
なに、それ…………
『……真緒、離れるのは今なんだよ』
「えっ?」
『真緒はね…この1ヶ月、私が彼女だって
嘘を信じてそばに居てくれた
ただ記憶が混ざって、今私のことを好きだ
って錯覚してるだけなんだよ』
「………そんなこと…」
『…真緒は、純粋なんだ』
私みたいに汚れてない
穢れも知らない真っ白い存在なんだから
『…だから、外道な私といたらダメだよ
正しい道に戻って』
「外道って…俺はそんな風に…」
『思ってなくても周りはそう思うの!
真緒のことを誑かして、嘘ついて
わがままを願った外道な人…!!
そんな人間の隣にいたら、真緒まできっと
馬鹿にされちゃう…………』
抱き締めてくれる手を、そっと引き離した
するりと離れていく腕に、もっと
触れたいと、抱きしめられたいと
何度願ってたんだろう。けどそれも最後
『…ありがとう。嘘つきな私のおとぎ話に
………穢れた夢に付き合ってくれて。
…楽し、かった…』
もう願うことも許されないほどのことを
私はしたんだ
『……真緒、離れるのは今なんだよ』
「えっ?」
振り返ることなく、彼女は腕の中で
ぽつりとそう呟いた
『真緒はね…この1ヶ月、私が彼女だって
嘘を信じてそばに居てくれた
ただ記憶が混ざって、今私のことを好きだ
って錯覚してるだけなんだよ』
「………そんなこと…」
『…真緒は、純粋なんだ』
そんな事ない。結羅の方が純粋だ
真っ直ぐな愛を、ずっと俺に捧げてくれた
『…だから、外道な私といたらダメだよ
正しい道に戻って』
「外道って…俺はそんな風に…」
『思ってなくても周りはそう思うの!
真緒のことを誑かして、嘘ついて
わがままを願った外道な人…!!
そんな人間の隣にいたら、真緒まできっと
馬鹿にされちゃう………』
抱き締める手を、そっと引き離される
するりと離される手に、もっと触れたいと、
抱きしめたいとどれほど今願っているだろう
『…ありがとう。嘘つきな私のおとぎ話に
………穢れた夢に付き合ってくれて。
…楽し、かった…』
「…もう、いいのか?」
『うん。夢ぜーんぶかなったから』
嘘だ、本当にそうだったら
「………本当に叶ったのか?」
そんなに声は震えないはずだ。
なのに振り向いた彼女は
下手くそに笑っていて、見てるこっちが
苦しくなった
そんな顔、させたい訳じゃないのに
『…なんにももう求めてないの
全部全部、真緒が叶えてくれたから』
「じゃあなんで泣いてるんだよ」
『わかんない!気持ちが追いつかないの
汚れてる分色々噛み合わないんだよ』
「……俺は結羅のこと、すごく
純粋で綺麗だと思うけど」
『え?……………!!!』
腕を引っ張り、そのまま腰を引き寄せると
包み込むように抱き締めてキスをした
『…………………ま、お…?』
「……結羅の隣が欲しいんだ」
『………………』
「…俺さ、もう…隣はお前じゃないと
ダメみたいで」
『…………………』
涙を流し続ける彼女を抱きしめると、
結羅も震えながら俺に抱きつく
暖かい温もりに、思わず力が篭もる
『うそ、ついたんだよ?』
「嘘を"本当"にすればいいだろ?」
『私、重いよ?』
「それだけ俺のこと好きでいてくれてる
って証拠だろ?」
『っ…あんずちゃんみたいに可愛い女の子
じゃないんだよ…?』
「俺にとってはすっげー可愛い女の子だよ」
『でも、でも私は…』
「いいからもう否定するな」
ここにいるよ、お前のそばにいるから
と、必死に伝えるように抱きしめた
「なあ、結羅」
『………な、に…?』
もう、忘れてないから
ちゃんと、覚えてるからさ
「…これからも一緒に居たい
隣にずっと居てもいいですか?」
―『言ってくれたんだ〜』
お前が言った言葉を
俺が全部真実に変えてやるから
『…………!!!』
「……」
だから
『………真緒、好き…好きだよ』
「…俺も好きだよ」
『…真緒の隣にいたい』
「おう」
『…私でいい?あんな嘘ついたのに』
「結羅じゃなきゃダメだ」
『………そっか。じゃあ真緒の隣に
ずっと居るね!』
「おう、そうしてくれ!」
そうやって、俺の隣でこれからも笑ってて
☆*°
『真緒おはよう!今日も格好いい!
好き!大好きよ〜!』
「はいはいありがとな。おはよう
結羅。今日の髪型も似合ってて
すっげー可愛い。大好きだぞ」
『きゃっ照れる〜!!!』
あれから日常が少し変わって
バカップルって言われるようになった
朝の会話。ただ…
「結羅」
『なぁに?………………!!』
「おはようのキス!」
『イケメンか!イケメンだわ!
ふええ、真緒好き!』
「俺も大好きだぞ…あ、そうだ結羅」
『ん?』
「今日、誰も家にいないんだ。だからさ
……………うち、来るか?」
『っ!!………………ぅ…』
ちょっと進展もあったりして。
俺からしたら、もう前みたいに
真緒のえっち!なんて言われること
無くなって少し不思議って言うか…
まあそれよりも
「…想像した?結羅のえっち」
『ち、ちがうもん!!!』
「まあ想像したことはちゃんとするから」
『もう………………えっ?今なんて…えっ』
「明日休みで良かったよな!
腰、痛くて動けなくなるかもだし」
『はっ、えっ?ま、まおっ、どどどっ』
「あ、先に言っとくけど今日はさ
…寝かせるつもりないから」
『っ、っ!?』
俺の隣に居る子は、やっぱ可愛いな
って、惚気させてくれ
俺のことをずっと思ってくれてる
可愛い彼女の話なんだけどさ―
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