気持ちがわからなくなったら、彼女は消えた
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「おはよう、真緒!」
「おっす!」
「この時間に会うの珍しいね?」
「だろ?仕事が消化しきってさ〜!
久しぶりに眠れたよ!」
「それが男子高校生の言う言葉だっけ?」
そう思いながら彼の肩に手を置くと
『はーよく眠れたし、今日からまた
頑張るか〜!』
なんて、彼らしい声が聞こえる
私は少し厄介な力を持っていて
晴れている日は知りたいって思った人の
感情 が分かるって力がある。
パロみたいでしょ?
よくあるネタだと思うでしょ?
事実なんですよね!!
だからこうして彼氏である真緒の感情を
読み取って、声を聞いてるわけだけども
私が読み取れるもの。そう、感情
好きとか嫌いとか、怖いとか楽しみとか
そういう感情。
だから分かることがある。最近は
『学校着いたら、あんず来てっかな〜
あいつ見ると、頑張れるんだよなあ』
真緒の感情から読み取れる
プロデューサーさんへの思いと優しさ
「男子高校生だって色々あるんだよ
ほらほら、普通科はあっちだろ?」
「う…ん……真緒!無理はしないでね」
「おう!」
『いいから行け〜遅刻するぞ〜』
「じゃあね、真緒、好きだよ」
「おう!今日も頑張れよ〜!」
私への感情は、愛情じゃなくて友情
今はもうそうなってる事も
わかってる。わかってるの。
「…………弱いなあ」
私の気持ちも、私への気持ちも
思い出も、私のこの力も
私自身の…この存在も
それを実感するから、晴れてる日は嫌い
☆*。
その日の放課後、部活を休んで
私はアイドル科にいた
先生に頼み込んで、アイドル科への書類を
貰い、お遣いを任せてもらった
…正確には
任せてくださいお願いしますと
頼み込んだのだが。
合法的に、真緒に会える!
「ふふんふーふふふふーふふーん
………あ!スバルくん!」
「お!マセマセ!アイドル科に来て
どうしたの〜?サリ〜?」
「この書類を生徒会に頼まれて!
生徒会室はどこ、かな?」
「それなら……お!サリ〜!あんずも!」
「!!」
スバルくんがそう言うと
私の来た道と同じ方向からやってくる
真緒と、プロデューサーさんの姿
…………距離、近いんだけど…!
「?なんでお前ここにいるんだ?」
「サリ〜に会うため!」
「……………」
『そんな為だけに来たのか?』
「スバルくん違うってば!これ!
生徒会長さん宛に頼まれて、生徒会室を
探してるところで…」
「ということでサリ〜!案内してあげて!」
「は!?」
『サリ〜の彼女さんだし、サリ〜も
きっと二人で話したいよね!』
『なんで俺が案内しないと…まあ一応
彼氏だし…あーあ、あんずともう少し
二人きりが良かったんだけどな〜』
ごめんスバルくん、喜んでないみたい
しかも私じゃなくプロデューサーさんと
二人でいたかったようだし…
ごめんね、余計な気遣いさせちゃった
「うし、んじゃ行くか」
「あ…うん、ごめんね真緒」
「良いって、気にすんな!行くぞ〜
じゃあな、スバル、あんず!」
「ありがとうスバルくん、じゃあ
プロデューサーさんも、また」
「じゃあね〜☆」
「はい、また!」
「ほら行くぞ〜結羅」
『あんず、笑い方もかわいいよなあ』
プロデューサーさんは
すごく可愛い笑顔をしていて
自分の顔をここまで嫌ったのは
初めてだった
嫌い。彼女は…隣りにいるのは私なのに
私なんてどこにでもいる普通な女の子だし
可愛くもない。愛想があるわけでもない
誰より真緒のことを知ってるつもりだった
けど…プロデューサーさんしか
知らない真緒が、きっとある
私は普通科で、プロデューサーではないから
でも…
私だよ、真緒。結羅だよ
あんずさんじゃないよ。
真緒、真緒、まお。
今隣りにいるのは…私だよ
「…」
「………あのね」
「ん?」
「…ごめん」
「?なにがだ」
「色々」
「なんだそれ〜!道案内のことか?
俺も生徒会なわけだし気にするなよ!」
「…うん」
ただ強がってそれしか言えなくて胸が痛む
隣に真緒がいないと、真緒の隣に私以外の
女の子がいると苦しいのに
私は今…何をしようとしてるんだろう
「真緒、SS頑張ってね」
「おう、ありがとな!来るだろ?」
「うん勿論。楽しみにしてるよ!」
感情を読み取ってるなんて、
真緒は知らないんだから
知ったら逆にもっと離れていくから
この距離感が意地悪で、
いっそ真緒を、嫌いになれたらいいのに
そんな声も、届くことはない
真緒は感情なんて読む力はない
いや、みんな無い。私が可笑しいだけ
だから、みんなと同じように
口にされた言葉を信じる
苦しくても、本音を知ってても
私は真緒の口から出た言葉を信じたい
SS当日
だから、晴れてる日は嫌い
「ありがとう、プロデューサー!」
「「「「ありがとう、あんず!」」」」
Trickstarの声と本音が聞こえる
無意識に知りたいな、なんて思ったら最後
全部流れ込んでくるから。だから嫌だ
晴れてる日なんて嫌いなのに
『あんずのおかげでここまでこれた!』
『あんずには沢山助けられたな』
『あんずちゃんのおかげだよ!』
きっとあの4人は今、最高の景色を
見ているに違いない
「…真緒」
『信じられねえ!ほんとに、ほんとに
俺達が勝ったのか!?』
そうだよ。本当だよ
もう、懐中電灯なんて思わなくていいよ
「……真緒、私ね」
『みんなのおかげだ、スバル、北斗、真
それに大切なあんず!こいつらがいなきゃ
ここまで来れなかった!』
「……結局自分が可愛くて、弱いから
だからさ…」
きっと貴方にもうすぐ言われるだろう
別れの言葉。でも私は弱くて
真緒の声でそんな言葉聞きたくないから
だから…自分から逃げるの
「…真緒……ごめんね、ありがとう」
喜びも悲しみも、そこにいるあんずちゃん
…プロデューサーさんと、今そうして
隣にいる人と分かり合えるなら
なら真緒はそっちがいい
私ではないはずだから
最後まで見届けてから、私は会場から
真緒の元へ向かわずそっと離れる。
もう、私に愛情はない。だからこそ
ここで私が居なくなっても、真緒の生活や
真緒のこれからに影響はないはず
私がいなくなって、真緒のその笑顔が
沢山見れるのなら、私はそっと
気持ちを抱えて離れて行くだけ
「………」
真緒とのトーク画面を開く
私が今朝 頑張ってね と送ったままで
既読はついていない
その画面に追加してまた文字を打って
「………ばいばい」
履歴から彼との思い出を消し
私は帰路に着いた
「子猫ちゃん」
「…夏目」
「…君モ大変だネ。よく分からなイ能力に
翻弄されてサ」
「そう?慣れだよ慣れ」
「慣れたかラ、君ハ自分の気持ちを抑えテ
…愛する人の事だけ考えテ、自分を
そうして傷つけル」
「…………」
「…………ひとつ提案があるんだけド」
「?」
夏目の提案してきた内容に私は頷き
その日にすべてを置き去りにした
思い出はもう薄れて、
最後にデートしたのいつだっけ
最後に手を繋いだのいつだっけ
最後に好きって言ってもらえたのは
真緒から触れてもらえたのは
「思い出せないや」
☆*。
「…よし」
「結羅!遅いね!
僕たちのプロデューサー見習いなら
もっと早めに来るんだね!」
「はーい、ごめんなさーい」
「反省の意図が見えないね!!まあでも
君だから許してしまう僕も駄目だけどね!」
「おひいさん、分かってるんすね」
「結羅には甘い自覚があるからね!」
桜の木の下、そんなことを話しながら
私と日和先輩とジュンくんで歩く
ようやく慣れてきた制服のまま
私は空を見上げた
「…いい天気ですねぇ」
「ね!2人が夏歌系歌ったら合いそう」
「それはもう少し先だね!
楽しみに待ってて欲しいんだね!」
「ふふっ、分かりました。夏まで楽しみに
待ってますね!」
「夏になれば最高に結羅さんを
楽しませますよ」
もう、この天気は怖くない
こんなに晴れてる日は素敵なのか
と、最近実感するようになった
怖いものも、嫌いなものもない
…相変わらず、自分のことは嫌いだけど
「こらこら!そんな変な顔しないの!
可愛い顔が台無しだね!君はただ、
僕たちの傍で笑っていたらいいんだね」
「かわっ…ふぇ!?」
「うわ、おひいさん口説いてます?」
「別に口説くなとか言われてないからね!
ぜーんぶ僕の自由だからね!」
「ええぇ…」
「返事は!」
「ふふっ、はーい!分かりました!」
「うんうん、いい子いい子!」
もう何も分からないけど
だからこそ私は、隣にいる日和先輩と
ジュンくんの言葉をただ真っ直ぐ信じた
信じることが、できた
だから私は、笑ってふたりに言う
「じゃ、打ち合わせしましょ!
あそこのカフェでいいですか」
「はぁっ、はぁっ…結羅!!
結羅っ、見てないかっ!?」
「どうしたのサリ〜?」
SSが終わって暫くしてから
俺は携帯の通知欄を開く
色んなメンツから祝福の連絡が来ていて
ひとつひとつ返事を返していると
「…?」
彼女である結羅から2件の通知
それを開くと
【頑張ってね】
【離れてても、応援してるからね】
その文面に、何故か背筋が凍る
朝にきた連絡は知っていた
本番が終わったら返そうとしていた
けど2つ目の連絡は…SSが終わった頃の時間
みんながおめでとうと祝う中で
まるで消えるかのような言葉を、彼女は
送ってきていた
「…聞いてみるか」
明日、あいつと同じような時間に出たら
きっと道で会うはずだ
そう思っていたのに
「…………な、んだよ、これ」
彼女の住んでいた家は、空き家になっていて
表札も生活感も、なくなっていた
嫌な予感がして学校へ急ぐ
きっと、きっと教室にいるはずだ
真緒、おはようっていつもみたいに
声をかけてくれるはずなんだ
…なんて思っていたのに
普通科だから調べるのは朝は出来なくて
「…朝、結羅の家の前を通ったら
表札も何も無かったんだ…」
「っえ?衣更くんそれってどういう…」
「お前ら〜席につけ〜
衣更。お前は隣のクラスだろ〜?」
そう言われ渋々戻り
1日色んなところを行ったがここは
アイドル科。普通科のあいつがいるわけない
それでもまた、この間みたいに
来てるんじゃないかと淡い期待をして
学院をあちこち走り回った
「っ…どこにいるんだよ…!」
【結羅、今普通科校舎か?
今日の放課後会いたいんだけど】
そう連絡を送るが、いつもすぐに来る
返事は一向に来ない
「っ…電話…!」
―おかけになった電話番号は―
そんなはずない。だって昨日まで連絡が
……………あれ
「昨日…結羅を見たか…?」
会場に来たことは知っている
だが実際は?この目で確認したかと
言われたら否定しかできない
「…放課後行ってみるか…」
その時は、本当にそんな気持ちで
浅はかな考えだったと、数時間後
俺は知ることになる
☆*。
「っは?」
「真瀬結羅さんだよね?普通科2年
一昨日に転校手続きは終わっているよ」
「っ嘘、ですよね」
「ほらこれを見てごらん」
会長に言われて確認すると
そこには間違いなく彼女の名前や生年月日
転校理由として、家庭事情
と書かれていた
「……」
「…真緒」
「っあ、すみません…ありがとうございます
…ちょっと…外の空気吸ってきます」
そのまま生徒会室を出て、俺は宛もなく
歩き始めた
「………真緒、当たり前なんて
どこにもないんだよ」
☆*。
それから2ヶ月。結羅の手掛かりなんて
ひとつも見当たらなかった。
まるで、俺を拒絶するかのように
「あれ、サリ〜くんどうしたノ?」
「逆先…いや別に何も」
「…普通科にいた子猫ちゃんのことかナ?」
「!!結羅を知ってるのか!?」
「知ってるも何モ、よく会ってたからネ」
そう言われ、思わず目を見開く
そんなこと1度も聞いたこと無かったからだ
「…あいつは、転校しちまったんだな
って、この2ヶ月ずっと噛み締めててさ
…嘘じゃ、ないよな………」
「本当だヨ。丁度その話を聞いてたかラ」
「…………そう、か」
「…サリ〜くん、少しいいかナ?」
逆先にそう言われて案内されたのは
普段実験で逆先が使ってる部屋だ
「…あル、1人の女の子がいましタ」
「?」
そこで突然、逆先が話し始める
不思議と他人事では無い気がして
俺はその話を聞くことにした
「女の子ハ、特殊な力を持っていましタ。
晴れてる日、知りたいと思った人ノ、
感情が読み取れル、そんな力」
「感情が、読み取れる…」
「女の子ハ、自分が大嫌いでしタ。
こんな能力要らなイ。普通がいいト、
ずっとずっと願っていましタ。
そんなある日、女の子ハ、1人の男の子二
恋をしましタ」
「…恋………」
「女の子が恋をしたのハ、
中学の頃から知り合いの男の子
優しくテ、助けてくれル。支えてくれル
いつの間にカ、恋になっていましタ」
「中学…の…こ、ろ?」
考えたくない答えが頭をよぎってくる
そんなことお構い無しに、無表情で
逆先は続きを話し始めた
「そんなある日女の子ハ、告白しましタ
告白した男の子ハ、顔を真っ赤にしながら
俺も好き、と返しましタ
そうして2人は付き合うことになりましタ」
「…なぁ、それって」
「色んな場所に行きましタ。女の子ハ
彼といる時だケ、自分の能力を忘れて
楽しむことができましタ。
なのにある日を境二、彼は冷たくなっタ」
「な、なあ、逆先」
「嫌だっタ彼女は自分に原因があると思イ
彼の感情を読みましタ。聞こえてきたのハ
ほかの女の子を思う彼の感情
自分二、愛情は向いていないこと二
彼女は気づいてしまったのでス」
「逆先それって」
「彼女ハ悩みましタ。どうしたらいい
私は離れるべきカ、でもそばにいたイ
けど自分を見てるわけじゃなイ
彼女は次第二、彼が思う別の女の子と
自らを比べるようになりましタ」
「逆先、も、もうやめてくれ」
「彼女は再ビ、晴れた日は人の感情を
読み取るようになりましタ。
読み取りたくもなかっタ、大好きな
彼の気持ちさえも彼女は読んデ…………
嫌われないよう二、振る舞い始めタ」
「っ…逆先…っ」
「そして限界を迎えた彼女ハ、
大好きな彼の前から姿を消すことにしタ
近いうちに告げられル別れの言葉を
聞きたくなくテ、逃げるよう二
もう2度と同じ思いをしないよウ
この能力を、魔法使いに全部託しテ」
「っ、逆先!!!」
―…………結羅ハ姿を消しましたとサ
「っ………………」
「………サリ〜くん、これがすべてだヨ」
「………感情が、読めるって…っ…」
「…子猫ちゃんはネ、晴れてる日だけ
人の感情が読み取れたんだヨ
道端の人は勿論サリ〜くん。君の感情モ」
「………」
未だに信じられなくて眉間に皺を寄せる
すると逆先は思いついたように声を上げた
「折角だシ、子猫ちゃんが味わってタ
その感情の読み取りを感じてみたら
どうだイ?」
「…そんなこと、出来るのか?」
「勿論、彼女の記憶でしカ無いけド
当時の彼女の気持ちも聞けるはズ」
「…………………」
こんがらがったままの気持ち
突然のことでよく分かってないが
それを感じたら、俺はもっと
結羅のことが分かるかもしれない
「逆先、頼む」
「そう言うと思ったヨ
サリ〜くん、君に魔法ヲかけよウ」
そう言われた途端、俺の意識の中に
会話が聞こえてきた
目を閉じると、その時の姿が
映像のように流れ始める
―「おはよう、真緒!」
―「おっす!」
―「この時間に会うの珍しいね?」
―「だろ?仕事が消化しきってさ〜!
久しぶりに眠れたよ!」
―「それが男子高校生の言う言葉だっけ?」
―『はーよく眠れたし、今日からまた
頑張るか〜!
学校着いたら、あんず来てっかな〜
あいつ見ると、頑張れるんだよなあ』
聞こえてきたのは
この時俺が思ってたことだった
「…結羅には、いつもこうやって
聞こえてたのか…?」
「彼女の記憶だからネ」
―『真緒の感情から読み取れる
プロデューサーさんへの思いと優しさ』
―「男子高校生だって色々あるんだよ
ほらほら、普通科はあっちだろ?」
―「う…ん……真緒!無理はしないでね」
―「おう!」
―『いいから行け〜遅刻するぞ〜』
―「じゃあね、真緒、好きだよ」
―「おう!今日も頑張れよ〜!」
俺の感情は、あからさまに冷たい声音で
彼女を傷つけるには十分だった
―『私への感情は、愛情じゃなくて友情
今はもうそうなってる事も
わかってる。わかってるの。』
―「…………弱いなあ」
そんなことない、そんなことないよ
お前は強い。頼もしいやつだよ
―『私の気持ちも、私への気持ちも
思い出も、私のこの力も
私自身の…この存在も
それを実感するから、晴れてる日は嫌い』
結羅の感情は暗くて
今にも闇の中に引きずり込まれそうだ
負の感情が入り乱れて、とても
心地がいいとは思えなかった
―「ふふんふーふふふふーふふーん
………あ!スバルくん!」
―「お!マセマセ!アイドル科に来て
どうしたの〜?サリ〜?」
―「この書類を生徒会に頼まれて!
生徒会室はどこ、かな?」
―「それなら……お!サリ〜!あんずも!」
―「!!」
―『…………距離、近いんだけど…!』
―「?なんでお前ここにいるんだ?」
―「サリ〜に会うため!」
―「……………」
―『そんな為だけに来たのか?』
また、俺の思っていた言葉が
彼女の表情を歪ませた
この時の姿を俺は見ていなかった
今こうしてみて、酷く悲しそうな顔を
していたことに気がつく
―「スバルくん違うってば!これ!
生徒会長さん宛に頼まれて、生徒会室を
探してるところで…」
―「ということでサリ〜!案内してあげて!」
―「は!?」
―『サリ〜の彼女さんだし、サリ〜も
きっと二人で話したいよね!』
―『なんで俺が案内しないと…まあ一応
彼氏だし…あーあ、あんずともう少し
二人きりが良かったんだけどな〜』
―『ごめんスバルくん、喜んでないみたい
しかも私じゃなくプロデューサーさんと
二人でいたかったようだし…
ごめんね、余計な気遣いさせちゃった』
彼女だから気遣いなんて要らないのに
俺はいつの間にか気を遣わせるほどに
追い込んでしまっていたようだ
―「ほら行くぞ〜結羅」
―『あんず、笑い方もかわいいよなあ』
―『プロデューサーさんは
すごく可愛い笑顔をしていて
自分の顔をここまで嫌ったのは
初めてだった
嫌い。彼女は…隣りにいるのは私なのに
私なんてどこにでもいる普通な女の子だし
可愛くもない。愛想があるわけでもない
誰より真緒のことを知ってるつもりだった
けど…プロデューサーさんしか
知らない真緒が、きっとある
私は普通科で、プロデューサーではないから
でも…』
彼女の苦しい感情が押し寄せて
俺も思わず気分が悪くなり顔を顰めた…
こんな重い気持ちを持ってたのか
と、眉間にシワも寄せたその瞬間
―『私だよ、真緒。結羅だよ
あんずさんじゃないよ。
真緒、真緒、まお。
今隣りにいるのは…私だよ』
「っ…!結羅…」
聞こえてきたのは、今にも消えそうで
泣きそうな彼女の本音
―「…」
―「………あのね」
―「ん?」
―「…ごめん」
―「?なにがだ」
―「色々」
―「なんだそれ〜!道案内のことか?
俺も生徒会なわけだし気にするなよ!」
―「…うん」
―『ただ強がってそれしか言えなくて
胸が痛む。隣に真緒がいないと、
真緒の隣に私以外の女の子がいると
苦しいのに
私は今…何をしようとしてるんだろう』
―「真緒、SS頑張ってね」
―「おう、ありがとな!来るだろ?」
―「うん勿論。楽しみにしてるよ!」
―『感情を読み取ってるなんて、
真緒は知らないんだから
知ったら逆にもっと離れていくから
この距離感が意地悪で、
いっそ真緒を、嫌いになれたらいいのに』
「っそんなこと…!!!」
無い、なんて言えなかった
今の俺がそう思うだけで
この時の俺だったらなんて言ったのか
正直自信が持てなかった
「…嫌いになれたらとか、考えないでくれ」
けどそう思わせてしまったのは
間違いなく俺が原因
結羅に、そんなこと言う資格はない
言えたとしても、今ここにいない
―『そんな声も、届くことはない
真緒は感情なんて読む力はない
いや、みんな無い。私が可笑しいだけ
だから、みんなと同じように
口にされた言葉を信じる
苦しくても、本音を知ってても
私は真緒の口から出た言葉を信じたい』
「結羅…っ…」
不安な能力を持っていても
それを独りで抱え込んで
次第に口数が減った俺の言葉を
本当の事を知っててもなおこいつは…
「俺を、信じてくれてたんだな…っ」
あんなに重たくて苦しい気持ちを
一人で抱え込ませてしまった。
彼女の葛藤に、何故
気づいてあげられなかったのだろう
―「…真緒」
―『信じられねえ!ほんとに、ほんとに
俺達が勝ったのか!?』
―『そうだよ。本当だよ
もう、懐中電灯なんて思わなくていいよ』
どんなときも支えてくれた
―「……真緒、私ね」
―『みんなのおかげだ、スバル、北斗、真
それに大切なあんず!こいつらがいなきゃ
ここまで来れなかった!』
違う、違う違う違う!!!
もう1人、大切な子が居るんだ…!
ずっと隣にいてくれた大切な子が…
―「……結局自分が可愛くて、弱いから
だからさ…」
―『きっと貴方に時期に言われるだろう
別れの言葉。でも私は弱くて
真緒の声でそんな言葉聞きたくないから
だから…自分から逃げるの』
―「…真緒……ごめんね、ありがとう」
―『喜びも悲しみも、
そこにいるあんずちゃん
…プロデューサーさんと、今そうして
隣にいる人と分かり合えるなら
なら真緒はそっちがいい
私ではないはずだから』
悲しそうに目を逸らして
ほとんどの人が会場から出た頃に
会場から出ていく結羅
その頃俺はみんなと楽屋で笑って…
こんな姿をしてるなんて考えてなくて
―『もう、私に愛情はない。だからこそ
ここで私が居なくなっても、真緒の生活や
真緒のこれからに影響はないはず
私がいなくなって、真緒のその笑顔が
沢山見れるのなら、私はそっと
気持ちを抱えて離れて行くだけ』
「!!」
彼女の携帯画面には
トーク履歴を削除しますか?
という文字。
震える手で、それを押すと
履歴を削除しました
という無機質な文章が出る
携帯画面に、ポツポツと雫が落ちた
その後会場を見上げて
―「………ばいばい」
泣き笑いで、結羅は呟いた
「っ………行くなっ…!!!」
ばっ、と目を開く
もちろんそこには彼女の姿はない
続きの声だけが、俺の耳に届き続ける
―『最後にデートしたのいつだっけ
最後に手を繋いだのいつだっけ
最後に好きって言ってもらえたのは
真緒から触れてもらえたのは』
―「思い出せないや」
そこで、彼女の声は途切れて
そしてすぐにまた聞こえてきたのは
―「あのっ、真緒!あのね、そのっ
真緒のこと!そのっ…す、好き!」
―「っえ!?」
付き合った頃の俺たちの会話だった
―『えへへ、真緒とデート!楽しみだなあ』
―『っあ!やっぱりこっちにしよ!
こっちの方が可愛い!真緒、
喜んでくれるかなあ?』
聞こえてくる彼女の声は
―「お待たせ、真緒!」
―「全然待ってないぞ!お、
その服似合ってる。すっげ〜可愛い!」
―「あ、ありがとうっ!」
―『良かった…!真緒にそう思ってもらえて
…真緒もかっこいいなあ…伝えたいけど
恥ずかし…で、でも!真緒も
伝えてくれたから!私も!』
―「真緒も、すっごくかっこいい…っ」
―「っ!ありがとな、ほら、行くぞ〜?
はぐれないように、な?」
そう言って手を繋ぐ俺たち
彼女の心の中もすごく穏やかで
さっきまでとは違う心地の良いもの
―「真緒、おはよう!」
―「おはよう結羅」
―「疲れてる?大丈夫?」
―『疲れてるなら、なにか甘いもの…
うーん…マッサージとかもあり??
真緒はどっちが嬉しいんだろう…って
ダメダメ!感情はもう読まない!
私は真緒の言葉を待つ!!!』
―「真緒、お疲れ様!」
―「ありがとな〜…やっと終わったぜ…」
―「はいこれ!」
―「おお!コンビニスイーツの新作か!?
すっげー美味そう!」
―「真緒は働き詰めだからね。これ食べて
適度に休んでね?」
―『倒れたら嫌だよ?真緒は明るくて元気でいて欲しいの』
ひとつひとつの感情はすごく優しくて
―「真緒、今度あの映画観に行こ!」
―「お!俺も思ってたんだ!」
―『やった!真緒とデートの約束できた!
可愛い髪型練習しなきゃ!』
すごく暖かくて
―「…真緒?寝てるの?」
―「ん…あとごふん…」
―「ふふっ、はーい。おやすみ」
―「おやすみ結羅、好きだぞ…」
―「!うん、私も」
―『好きだよ、大好き。ずっとずーっと
真緒の彼女で、好きな人で居させてね
私も、頑張るからね』
甘い…愛しい声をするから
「っ……ゆ、うら…………っ」
―「真緒、初詣のお願い何したの?」
―「そりゃ、もっとダンスとか上手くなる!
ってことだな!」
―「真緒なら大丈夫だね!」
―「結羅は?」
―「真緒が仕事に追われる間も
ちゃんと眠れますように!」
―「自分のこと祈れよ〜!」
―「えへへ」
―『ほんとはね、もうひとつ願ったよ
…真緒が今年も、沢山たーっくさん
笑ってくれますように、って』
その愛しい声に、涙が止まらなくなった
「…」
「………悪ぃ、逆先……っ俺、俺…っ」
「…サリ〜くん。君はどこかデ結羅が
居るのは当たり前っテ、考えてなかっタ?」
「!!」
「…人間だけじゃないけド、物事に
当たり前なんて存在しないヨ
子猫ちゃんがいつまでもそばにいると
そう思ったノ?何もしてないの二?
傷つけてぞんざいに扱っテ、
普通なラ、逆に振られてるヨ」
「そう、だよな」
思ってた。どっかで俺は
結羅は何があっても離れないって
甘えてたんだ
「それでも子猫ちゃんハ、別れを伝えず
離れていっタ。サリ〜くんのことが
ずっと大好きだかラ、
自分の口から別れは言えなかったんだネ」
「…結羅」
誰より結羅のことを
俺は知ってるつもりだった
そうして強がって、すました顔で
彼氏面して。けど実際、何にも
分かってなかった
狂ってしまうほど胸が痛む
邪険にしてしまった感情を
彼女は知っていたというのに
全部、聞こえてたはずなのに
隣にいても、苦しいだけだったはずなのに
―「真緒、大丈夫!私応援してるから!」
―「おーありがとな」
彼女は、その声が聞こえていても
辛い時はずっと俺のそばにいてくれた
笑いかけてくれた…隣にいてくれたのに
何も返してあげられてないことに今気付く
「っ…馬鹿だなあ…」
ただの俺の勝手な慣れで
当たり前になってしまっていただけで
「結局俺は、どうしようもなく
結羅のことが好きじゃんか」
「ずっと隣にいたかラ、分からくなっタ?
君と子猫ちゃんの思い出はその程度?」
「…そ、れは…」
「ふざけないで欲しイ。そんなの口だケ。
君が子猫ちゃんをしっかりと
見てあげてなかっただけじゃないカ
言い訳も大概にしなヨ」
「っ…」
ご最もだからこそ何も言えなかった
だって本当に大切だったら
今頃まだここに居るはずだから
「……サリ〜くんがこれからどうすル
なんて知らないけド、ちゃんと考えなヨ
じゃないと、ただまっすぐ君のことヲ
好きな彼女が可愛そうダ」
「っ………俺、行かないと!!」
「どこに?
大切なプロデューサーのところかイ?
それとも小猫ちゃん?」
「そんなの」
大切な愛しい人の元に決まってる
「場所も分からないのニ?」
「それでも行かねえと!!俺は、俺は…」
「……」
ー『なつかしいなぁ、この海…
よく、真緒と夕陽を見に来たっけ』
突然聞こえてきたのはまた彼女の声
心做しか少し寂しそうな声だ
「サリ〜くんが今の子猫ちゃんノ感情を
読めるのハ、今から2時間だケ。
それまでに聞こえる彼女ノ感情を
頼りニ、見つけ出してあげてヨ」
「今、の……」
海…よく夕陽を見たのはあの場所しかない
「ありがとう逆先。ぜってー見つける」
「君のためじゃないヨ。可愛い可愛い
小猫ちゃんの為だからネ」
「ああっ!!!」
俺は急いで目的地を目指して走り始めた
「………世話の焼けル2人だヨ」
☆
「はぁっ、はぁ………きっと、ここなはず…」
ー『わ、まだこの時期は水は冷たいなぁ
もうすぐクラス替えか。今の学校の
クラスメイトとそんなに仲良くないまま
クラス替えかぁ…』
そう聞こえて海岸を見渡すと
「!!!っ………」
夢ノ咲じゃないけど、よく知った制服
…玲明学園の制服を着た彼女は、荷物をおいて
素足になり、水を蹴っていた
ー『冷たいけど、なんかまだ、
ここにいなきゃいけない気がする
何も起きることはないのに』
「っ………ゆ、うら……、結羅!!」
「!!…………」
ー『…この声、真緒?なんでここに…』
戸惑う彼女の心の声を聞いて
俺は走り出す
ー『え、え?なに?めっちゃ
走ってくる…なにかあったのかな?
で、でも私普通科だったし』
慌て始める彼女の声を聞いていたら
すぐ触れられる距離までやっと来て
「!!!」
「結羅っ………」
「どうしたの、真緒?」
ー『なんでなんでなんで!
なんで私抱きしめられてるの!?
でも、久しぶりに真緒から
抱きしめてもらえた気がする………
やっぱりあったかいなぁ、真緒は』
彼女の感情がそんな事言うから
愛しくてまた強く抱きしめる
「………真緒、そろそろ離してもらえると…」
ー『ほらまた強がってる。私の馬鹿
本当はもっと抱きしめて欲しいくせに
真緒に触れて欲しいくせに…私の馬鹿』
「…嫌だ、離したくない」
「!真緒…………?」
だって、お前の本音が寂しそうに
離してほしくないって言うから
抱きしめながら、たしかに感じる音
少し早めに脈打つ彼女の心臓は
俺にもその鼓動を移したように
つられてドキドキしてしまう
ー『…真緒…なんでこんな急に…
なんでここに居ることもわかったの?
なんでこんなに抱きしめてくれるの?
…疲れてるのかな?真緒は私のこと
好きじゃないだろうし…』
「…結羅」
「ん?満足した?」
顔を上げた愛しいその姿。色付いた唇を
俺は優しく塞いだ
「んんぅ!?」
「…………」
ー『なんでなんでなんでなんで!?
待って久々は無理!緊張しちゃう!!
違うこと考えなきゃ!好きじゃない人に
キスなんて!どうしたの!?』
馬鹿、好きな人にしかキスはしない
「………何余計なこと考えてんだ?」
「ふぇ!?」
「……ちゃんと、俺を見て」
「あ、あぅ…んん………」
ー『そんなこと言われても!
久しぶりだから緊張しちゃうんだって!
恥ずかしいの…!』
分かってるよ。俺のせいだ
最近触れていなかったのは本当のこと
だから今はその分って言ったらあれだけど
「……逃げないでくれよ。俺も逃げない
結羅のそばにいるから……だから
俺のそばから居なくならないでくれ」
「!!!真緒…」
ー『でも真緒にはプロデューサーさんが
……私より、好きなひとがいる…そっか
…無理して私の隣に居ようと
してくれてるんだ…彼氏って肩書きが
真緒を苦しめてる…』
途端に、彼女は悲しそうに目を伏せた
ー『やっぱり、辛くても私が
別れ話をするべきだった…』
ほら、また俺のせいで悲しませてる
そんなことないんだ
お前が辛い思いをすることは、無いんだよ
「お願いだ…離れないで…
他の誰でもない、結羅じゃないと
駄目なんだ」
「…それって…………」
「そのままだよ。好き、大好きだから
………だからっ………」
ー『…好き?真緒が、私を?』
「真緒、疲れてる?」
「いや」
「頭打った?」
「打ってない」
「えええ?何今更〜!
そんなの分かってるよ〜?」
ー『そんなわけないそんなわけない!
だってプロデューサーさんいるし!
口だけに決まってる…だって今までも
そうだったから!!!!!』
「…嘘ばっか」
「っえ?真緒?」
「本当は分かってるって言いながらも
不安なんだろ?信じれないんだろ?
素直にそう言ってくれよ……」
「…真緒…………」
「そうなったのは、俺のせいってわかってる
な?付き合った頃はさ、思ったことも
感じることも教えてくれただろ?
…………また、教えてくれよ」
そう伝えたら、悲しそうな、不安そうな
そんな顔をする
ー『いいの?言っても大丈夫?』
そんな表情と気持ちは、今までの俺が
作り出してしまったもの
思わせてしまったもの。自業自得。
「駄目か?俺はもう、結羅には
必要ないか?」
「っそんなことない!!」
ー『そんなことない!真緒はずっと
大切な、大好きな人!!』
「………やっと言ってくれた」
「…あ…………」
「俺馬鹿だからさ、言ってもらわないと
わかんねえこともあるんだ…けどそれは
お前もだよな………ごめん
ダサいって思うかもしれないけどさ
俺、結羅なら離れていかないって
ずっとずっと甘えてたんだ」
「甘えて…た?そんなことないよ!
甘えてたのは私!真緒には頼ってばっか…
だから、真緒が私を嫌になっても
仕方がないことだったの。だから…だから
えっと………真緒が謝ることは無いの!」
ほら、優しい言葉をかけてくれる
その優しさと暖かさに、俺はずっとずっと
甘えて、その気持ちを蔑ろにもしてたんだ
「…夢ノ咲に戻ってこいとは言わない
いや、俺からは申し訳なくて言えない
けど……俺の隣には戻ってきて欲しい
自分勝手って分かってるけど…」
「……………」
-『確かに自分勝手。急にやって来て
謝って、隣にいて欲しいとか
今まで私が苦しかったこと知らないくせに
プロデューサーさんばっかだったくせに
居なくなった事も気づかなかったくせに』
その声が、しっかりと聞こえる
俺のせいだからその言葉を
しっかり受け止める。これが罰なんだ
俺の、これまでの行いが招いた本音
-『…真緒は、嘘は言う人じゃない
それはずっと本音を聞いて分かってる
けど、今はもう心の声なんて聞こえない
真緒が何を考えてるかわかんない
怖い…こんなに私は、自分の持ってた力に
頼りすぎてた………そんな私と、また真緒は
いてくれる?笑ってくれる?』
結羅は視線をずっと泳がせて
どうしようと悩んでいる
ずっと、自分の心で悩んでる
「…俺さ、俺の隣で笑ってる結羅が
見たいんだ。ここ最近ずっとさ、
笑わせてあげられなかったから…」
「真緒…」
-『きっと真緒が言ってるのは本音
ほんとに?もう辛くならない?
大丈夫、大丈夫。もう怖くない
1人で泣かなくていい?苦しまない?
怖い、分からない、でも、でも
そんなの弱虫な私から変わらないまま
だから前と同じ、私は真緒が話す言葉を』
「隣が、私でいい?」
そう聞いてくる彼女の手を優しく
葛藤している気持ちに寄り添うように
俺は握りしめた
-『信じたい』
「…結羅がいい」
「っ…そっか」
ただ一言そう返事すると、結羅も
きゅっ、と小さな手で握り返してくれる
このひとつの仕草で、今この瞬間
どれだけ俺の心が、身体が
愛しいと、叫んだんだろう
「……俺の隣で、笑ってくれますか」
「プロポーズみたい」
「いやっ、あっ、えっと…それはっ!」
「………」
「けっ、決してそういうあれでは!
言葉のあやと言うか、いや間違っては
ないんだけど!!
えっと、だからだなっ…あーカッコ悪ぃ…」
「………あははっ!」
どくん、とまたひとつ。
俺の心臓が音を立てて、体温を上げる
そうだ…こんな可愛い笑顔を、付き合って
毎日ずっと見ていたじゃないか。
見なくなったのは、俺が冷たくなったから
誰でも気付くことだった
俺の彼女は、付き合った頃から今もずっと
………ずっとずっと、可愛いままなんだ
.☆.。.:.+*:゚+
「ただいま」
「おかえり真緒!今日はね、
気合いで詰め込んだ私自信作の
ロシアンハンバーグだよ!」
「何入れてんだマジで」
あれから数年経って、同じ家に住んで
こうして夫婦同然の会話をしている
結婚は、まだしてねえけど
「見てみて!ひとくちサイズ!
ロシアンシュークリームっぽい大きさに
してみたよ!この中のね」
「おう?」
「16個のうち、12個は中にチーズが
入ってます!」
「それ当たりじゃねえか!いただきます!」
「どうぞどうぞ!残り4つにはね…」
「何も無いってか?…………っ!?!?」
「とりあえずパクチー入ってます!」
「それを初めに言え!チーズより先に!
そっちを言え!!うおっ!なんか
微妙に鼻に来る!!!」
「1個目でそれ引くのだいぶ強運だよ」
でも…………あの日わかったから
口に出さないと伝わらないって
しっかり見ないと、分からないって
………だから
「…ご、ご馳走様でした」
「美味しかった?」
「パクチーの匂いが鼻から抜けねえけど
いつも通り美味しかったよ」
「良かった!」
食器を洗い終わって、リビングのソファに
やってきた結羅。その横に座り
俺はぎゅっと手を握る。そしてすぐに
向かい合って
「なあ、結羅」
「ん?まだ鼻から匂い抜けない?」
「………俺の隣で、これからもずっと
…家族が増えても笑ってくれますか」
「!!」
真っ白な箱に入れられた婚約指輪を見せて
愛しい彼女が嬉しそうに涙するのは
あと数秒後の出来事
-「知ってる?サリ〜って
家族が増えても隣にいてくれますか
ってプロポーズしたらしいよ!」
-「衣更、プロポーズする段階で既に
子供を作る気だったのか」
-「…………衣更くん…、ちょっと…」
-「誤解だ!それに色々違う!!」