私も同じ。
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夏の日差しは弱まってきたこの季節
「それでウッキ〜が」
「ははっ! なんだそれ!」
『!…』
ふと、よく通る笑い声。その声に心が
どきっ、と音を鳴らす
そのレッスンルームを覗けば、声の主たち
「だって! その時僕は全然そんなこと
分からなくて! 明星くんが全く僕の事
他人みたいにして助けてくれないから」
「そりゃ、手助けはしないだろう
そういうルールだったんだから」
「辛辣!」
今日も頑張ってるな、と思いつつ
私はその場を離れようとドアから手を
離した時だった
「あれ、結羅?」
「ほんとだ! マセマセ〜!」
『…真緒くん、それにスバル』
その2人に呼び止められる
振り返り、彼と目が合えば
『お疲れ様。皆はレッスン途中?』
「いや、さっき終わって駄弁ってたんだよ
結羅は? もう帰るのか?」
真緒くんの瞳の魔法に掛かったように
目が逸らせなくなる
前は…この気持ちに気づく前はそんなこと
全然無かったのに…
『うん、今から教室に戻って
荷物持って帰るところだよ』
「だったら真瀬も俺たちと帰らないか?」
「そうだね! 女の子ひとりだと
最近暗くなるのも早いし危ないよ!」
『ええ、悪いよ…』
「結羅ちゃんも女の子だから!
一緒に帰ろう!」
『…それあんずちゃんに言われてもなあ』
北斗、真にそう言われたと思えば
あんずちゃんにまで言われてしまう始末
これは断れなくなった
…ので、諦めてしまおうと思う
『じゃあ、取ってくる』
「おう! 待ってるからな〜」
その声を背中に私は2-Aへ急ぐ
その声さえも…胸をざわつかせる
ただの友人の声だと前まで思えたのに
それなのに今は愛しい声でしかない
『…恋は何もかも変えちゃうんだな』
ほんと、嫌になるや
.☆.。.:.+*:゚+。 .゚・*..☆.。.:*
「ったく、明星。あれほどいつも
言ってるだろ」
「ええ〜だってあれはさ、サリ〜が
凄い疲労に溢れてたから癒してあげようと」
「癒し方間違えてたよ明星くん…」
そうして薄暗い帰り道
あんずちゃんと私、Trickstarで
学校に背を向け歩いている
「ははっ、けどまあ…スバルらしくて
結局疲れは飛んだけどな」
どこにでもあるような光景なのに
私の気分は舞い上がるどころか
徐々に落ちていく
「明星くんは、衣更くんを元気づけたい
だけだもんね」
「あんずまで味方をするな。明星がまた
調子に乗るだろう?」
「あっ、つい…!」
「あんずって、ちょ〜っと抜けてるとこ
あるよな〜…無理、するなよ」
ほら
「う、うん…ありがとう衣更くん」
「おう…っ…」
帰り道、あなたの視線の先には
必ずあんずちゃんがいる
分かってるんだよ、その意味が…だから
だから私は恋をしないようにしてたのに
してた…のに……
「じゃあ、俺たちこっち!
サリ〜、マセマセ、また明日ね!」
「おう! また明日な〜あんず、
気をつけて帰れよ?」
「は、はい! 気をつけ!ます!
結羅ちゃんもまた明日!」
『うん、また明日』
必然的に別れて
一瞬静寂が訪れた。だからこそ私は
彼に聞いたんだ
『真緒くん、あんずちゃん好きなの?』
「…へっ!?」
『表情が違ったから』
隠しててもわかってた
艶めいた、あの甘栗色の髪が愛らしい
彼女に恋焦がれていたこと
「うわぁ…誰にも言うなよ?」
『みんなわかってると思うけどなあ』
「だとしても、だ!
俺と結羅の秘密だぞ…!?」
そう言って顔をあからめる真緒くん
私は必死に笑って言葉を繋いだ
『そんな好きなの?』
「うっ…」
『一生懸命な所とか、ふとした時の笑顔
とかじゃない?』
「よく分かるなお前……ふとした時にさ
ふんわり笑ってくれるの…すげえ可愛くて
ああ、好きだな〜ってなるんだよ」
その熱い眼差しで、私を見つめて欲しい
そんなこと叶うわけはないのに
「ほら、家ついたぞ」
『あ…ありがとう…
ごめんね、家まで送って貰って…』
「いいって! じゃ、また明日な!」
真緒くんはこうして家まで送ってくれる
本当は自分の家はもう少し手前で
曲がらないといけないのに
私をしっかり送り届けてくれて…
真緒くんに恋焦がれている私にも優しくて
だから………
『真緒くん! 私! 応援してるから!』
「!…ありがとな!」
『うん、また明日…!』
こうしてまた、彼を愛するんだ
それから月日がたった
冷たい冬の空が私に寒さを与えてくる
そんな日。
ふと、木陰に立っている真緒くんの姿が
私の視界に映る
去年より大きくなった後ろ姿に
思わず声を上げて
『真緒く………………!』
途端、息を潜めた
「ご、ごめんな…急にこんなこと…」
「ううん! 私こそその…ごめんね…」
「いや大丈夫! むしろスッキリしたよ!
これからもよろしくな、プロデューサー!」
「うん!」
そのまま去るあんずちゃん
その場に立ち尽くす真緒くん
その二人を見て全てを察すると、
私はその後ろ姿に今度こそ声をかけた
『……告白したの?』
「………まあ、そんなとこ。見事にまあ
振られたけどな」
『………そ。けど後悔はないなら
いいんじゃない?』
「ははっ、そうだな」
こっちを向くと無理して笑う真緒くん。
私ならそばにいるのに、私ならそんな
悲しそうな顔させないのに
私なら…私なら…………
『ぎゅっ』
「! ちょっ、結羅…」
私は有無を言わさず真緒くんに抱きついた
『…私、見てないから。見えないから
だから、泣いていいよ真緒くん』
「!………」
真緒くんは私にぎゅっと抱きついて
そのまま小さく肩を震わせる
…このまま、閉じ込めてていいんだよ
なんて、思いながら
私はただ彼の背中をポンポンと叩いた
『…真緒くんが泣いてる時は
私も一緒に泣くから…なんて、
少し重いかな。真緒くんが悲しいと
私も悲しくなるよ』
「……お前は優しいな…」
『そんなことないよ真緒くん………好き。
……好きだからだよ、真緒くんのことが』
「!ぇ……」
真緒くんひとりじゃないよ
大丈夫、私も一緒に振られるから
『ずっとずっと、真緒くんが好き
だから優しいんだよ』
「っあ…ご、ごめ…………俺…」
突然私から離れて謝り始める真緒くん
彼は何も悪いことはしていない
なのにどうしてそんなに謝るの…?
『謝らないの! 私は好きで今こうして
告白しただけで、真緒くんも好きだから
あんずちゃんに告白したんでしょ?』
「そ、うだけど…でも…!」
『私も同じ。だから気にしないで』
「っ…」
申し訳なさそうに私を見つめる
その姿に、今度は私が笑う
『じゃあさ、今抱きしめたのと
話を聞いたお礼としてなんだけど』
「?おう」
『………私の事、振ってほしいな』
ああ、なんて残酷なことを私は彼に
頼んでるんだろう
「…けど………」
『ほら、良いから。
答えられなくてごめん
好きでいてくれてありがとう…って
その気持ちだけでいいから』
「……ごめん…」
いつだって夢見てた
『それは何のごめんなの?
…仕方ないなあ。
-好きです、真緒くん。付き合って下さい』
「っ……………」
隠せなくて、あからさまに溢れ出る想いが
例え真緒くんに届かなくても
『…真緒くん、ほら。振って』
振らないで。少しでいいから私を見て
まだ、まだ言わないで
「…ごめん。その告白は、答えられない」
『ううん、良いよ』
「…お前が苦しいの…俺だって…俺だって
さっき経験して、わかってるのに…っ
ごめん、ごめんな…」
『真緒くん優しすぎ! そんな所を私は
好きになったんだけどね…けど大丈夫
真緒くん1人にはしないよ。私も、
振られてお揃いだから…だからさ!
…明日から、また前を向こうね』
「………あぁ、そうだな」
私の強い想いは、無慈悲なほど呆気なく
長く持ち続けた時間を無視して一瞬で
砕かれていく。黒く優しい闇の中に還る
『…あ、スバルが呼んでたから探しに来たの完全に忘れてたや』
「っえまじ!? 行ってくる!」
すると真緒くんは私の頭を優しく撫でる
『!!』
「…ありがとな…好きでいてくれて」
『良いから早く行け〜』
少し吹っ切れた顔で笑って、真緒くんの
そのまま急いで去っていく姿を見送る
私は1度、深く深呼吸をしてから
その場に座り込むと、ガサゴソと草木を
分ける音が聞こえた
「馬鹿だね〜。わざわざ振ってって
自分から言うなんてさ」
『…良いでしょ』
「ま〜くん優しいからさ、きっと結羅が
これから私を見てほしい
とか言ったら見てくれたと思うんだけど」
『だから良いんだってば! …良いんだ…』
「じゃあなんで泣くのさ」
紅い瞳で、私をじっと見つめてきた
その瞳は確かにぼやけて見えて
『……』
何も、言えなくなった
…なんで最後、頭を撫でるの…?
「自分だって、泣けばいいのに」
『…っ…』
「…泣けばいいじゃん、ま〜くんのこと
好きだったんでしょ」
『…好き、だいすき…真緒くんのこと…
わ、たしは……っ』
溢れ出た涙は止まることなんてなかった
真緒くんの視線の先には、私の姿が
無いのだとしても、それでも………
ずっと、好きだった。好きで
恋焦がれてた。あの優しくて、
しっかりとした手と、いつかちゃんと
繋ぎあえること。触れることが
許されること。想いが届くこと。
全てを願っていた
「ハイハイ、じゃあ俺が抱きしめ…」
『駄目、真緒くんから上書きしないで』
「…はーい」
『…ひっぐ…………うっ、ひっくっ…』
願って、叶わなくて
真緒くんを想う気持ちだけが
この場に置いていかれた
きっと真緒くんも、あんずちゃんに
告白して、今こんな思いだから
だから私だけじゃない
「…ま〜くんなら、きっとまた…」
まだ微かに残る真緒くんの優しい匂いが
鼻先を掠めて、そっと私は自分の体を
縮こませる
他ならぬ真緒くんに奪われた、優しい恋
優しくて儚い、恋
まだ暫く終わることは出来ないけど
それでも……………
『…………楽し、かったなあ………』
たった一度きりの、初恋
.☆.。.:.+*:゚+。 .゚・*..☆.。.:*
「…結羅!」
『! 真緒くん、卒業おめでとう』
「ああっ、結羅もおめでとう」
『どうしたの? そんな走ってきて
もしかしてまた誰か探してるの?』
「あ、えっと…………」
真緒は結羅の言葉に声を詰まらせる
その姿を見て、彼女は首を傾げた
「あ、のさ…結羅……
卒業したら、お前はその…プロデューサーに
そのままなるんだよな?」
『? うん、その予定だよ』
その返事に真緒はほっと一息つく
彼女とまだ共に過ごせると、安心した
それはほんの束の間に過ぎなくて
『ああでも…ちょっと特殊でさ』
「特殊?」
『そ。私ね、Knightsのプロデューサーに
なるんだ』
「!!」
彼の驚きに気付かぬまま、彼女は苦笑し
言葉を続ける
『凛月がすっごいしつこくて…仕舞いには
うんって言うまでレッスンしないとか
言い始めちゃって……』
「それで無理矢理?」
『んー…でもまあ、みんな優しいし
瀬名先輩なんて、一緒にフィレンツェに
来なよとか言ってくださってさ…』
「そっか…フィレンツェに行くのか?」
『ううん、英語話せないし!
丁重にお断りしたよ』
「…良かった」
『え?』
「っあ、いや、なんでもない!」
静寂が二人の間に起こる。
決してどちらも悪いことをしているわけでも
喧嘩をしている訳でもないのに
どちらからか、はたまた両方からか
言葉を紡ぐには気まずい空間が生まれ
ただ桜の花びらが散り、春風が吹く
初めに口を開いたのは結羅で
『…だから、もしこれから一緒に
ライブすることになったらよろしくね!
Knightsをもっと輝かしいアイドルに
していけるよう頑張るから!』
「っあ、あぁ…頑張れよ! 俺達も…
………俺も、頑張るからさ」
『うん! 頑張ってね、真緒くん
違う所でも、ずっと応援してるから』
「っ…………」
本当は1番近くで、ずっと自分の傍で
応援して欲しい…そう言いたかった
けれど、しっかり次を見る彼女に
そんなこと言う勇気は真緒には無かった
「おーい、結羅〜」
「結羅ちゃん〜泉ちゃん達が
来てくれたわよォ♪」
『あっ! 今行く〜! じゃあ真緒く』
「結羅!」
『?』
真緒は彼女を引き止める
向こうにはKnightsが彼女を待っている
分かってる、分かってはいるのに
「……あの、さ」
『うん?』
「もし…あの時…俺がお前を振らずに
考えるって言ってたらさ……俺たち
今頃どうなってたんだろうな」
何としても引き止めたかった
何としても話がしたかった
何としても
『んー…どうだろ…真緒くんが考える
って言ってから、私をどう見たか
によって違うんじゃないかな?』
もう一度、彼女に振り向いて欲しかった
「…例えばその後、しっかりお前を見て
好きになってたら?」
もう一度、自分を見て欲しかった
『その時は嬉しいかな! だってさ
真緒くんの視線の先に私の姿はない
叶うことは無い初恋って、あの時はずっと
考えてたから』
「!…はつ、恋…」
『っあ、これ言ってなかったっけ…
私、真緒くんが初恋だったんだよ
まぁまさに、初恋は実らないってやつ
初めからあんずちゃん相手で負け戦
って思ってはいたけど!』
その時を思い出し、彼女は真緒へ
当時の思いを馳せる
「…………初恋は実らない、か」
『そ…よく言うじゃん? 逆にね
初恋が実るとその人とは結婚まで
出来るんだって! ただの迷信だろうけど』
そんな事ない、そう言ってやりたい
そう言いたいはずなのに
「…迷信…」
『………真緒くん』
「ん?」
『……あの時言えなかったことがあるの』
「……………なんだ?」
言えるわけが無いと、真緒は感じる
分かっているのだ、彼女はもう
『…楽しい初恋をありがとね!』
「っ!!」
自分を "恋愛感情"として見ていない事に
『じゃ、またね!』
「…………………結羅!」
『ん?』
遅いということは分かっている
だからこそ
「…ごめんな」
『え、なにが!?』
「…なんでもねえよ。ほら行け」
『??? うん、じゃあまた』
謝ることしか出来なかった
「………………なにが、って…そんなの」
彼の中で伝えたかったことは単純で
「…あの時、自分のことにいっぱいで
言われた通りに振ることしか出来なくて
…ごめんな」
考えさせて、と。ただ一言。
ただ一言、そう言えば
あの時苦しむのは自分だけで済んだ
彼女まで悲しませることは無かった
それに…本当にそう言えてたなら
「…………。今更好きになってごめん」
未来-いま- を変えることが出来たはず
彼女は向こうに行かず、自らの隣に居て
自分が全く気付いてやれなかった、あの
"恋をする女の子の"笑顔を
まだ向けて貰えたはずだろう
あんずへの想いで狭かった視野が広まり
彼女の動きや話すことをきちんと耳にし
ようやく向き合った
ふと、俺に向けて笑う彼女の笑顔が
それこそ当初、愛しいという気持ちで
溢れていたからこそ。
だからこそ…徐々にそれが消えるのを
俺は視界の端でずっとみていた
-『あっ、おはよう真緒くん』
今思えばすごく可愛い笑顔だった
「なに、ま〜くん。そんな顔して」
「凛月…俺、変な顔してるか…?」
物陰から現れた幼馴染に、真緒は
頑張っておどけてみせるが、長年彼を
見ている幼馴染にそんなの効くわけが無い
「それはもう………言葉にするなら」
-悲しそうだけど、
でも愛しくて仕方の無いような顔-
「!!」
-『真緒くんの視線の先に…』
「………結羅の視線の先にも
もう、俺は居ないんだよな」
「なに、ま〜くん? いきなり」
「………ははっ…また失恋しちまった…
……すれ違いって言うか…なんだろうな
…あいつは、ちゃんと前を向いたんだよ」
前を向けていないのは自分だ。
何も変わらない、変えられていない
彼女は既に、次を見ていると言うのに
……ふと、真緒は顔をしかめた時、凛月が
大きめのため息をついた
「…ま〜くんは進めてないの?
ま〜くん、あんずに告白して振られた
その後結羅に告白されて振って
本当に変わってない?」
「…どういうことだよ」
凛月はそっと、真緒に微笑んだ
「今は結羅が好きなんだよね
それってさ、ま〜くんが新しい恋を見つけて
前に進んだってことじゃないの?」
「っ!!」
「大丈夫…ま〜くんは前に進んでる
もちろん結羅だって進んでるよ
けど…お互い、次に進む道は少しだけ
違っちゃったみたい」
同じ方向に進んでいたら
彼が願う未来が見えたかもしれない
今更だろうか、遅すぎるだろうか
だとしても…今想うくらいなら良いはずだ
「……………」
「ま〜くんは悪くないよ」
「…ちがう、そうじゃない。悪いとか
そういうのじゃないんだ………」
何も言えなくて、どう言葉にしたらいいか
分からない。だからこそ真緒は
居なくなった結羅を思い浮かべ
ただ、今彼女へ想う気持ちを口にした
「………好き、だ」
「それでウッキ〜が」
「ははっ! なんだそれ!」
『!…』
ふと、よく通る笑い声。その声に心が
どきっ、と音を鳴らす
そのレッスンルームを覗けば、声の主たち
「だって! その時僕は全然そんなこと
分からなくて! 明星くんが全く僕の事
他人みたいにして助けてくれないから」
「そりゃ、手助けはしないだろう
そういうルールだったんだから」
「辛辣!」
今日も頑張ってるな、と思いつつ
私はその場を離れようとドアから手を
離した時だった
「あれ、結羅?」
「ほんとだ! マセマセ〜!」
『…真緒くん、それにスバル』
その2人に呼び止められる
振り返り、彼と目が合えば
『お疲れ様。皆はレッスン途中?』
「いや、さっき終わって駄弁ってたんだよ
結羅は? もう帰るのか?」
真緒くんの瞳の魔法に掛かったように
目が逸らせなくなる
前は…この気持ちに気づく前はそんなこと
全然無かったのに…
『うん、今から教室に戻って
荷物持って帰るところだよ』
「だったら真瀬も俺たちと帰らないか?」
「そうだね! 女の子ひとりだと
最近暗くなるのも早いし危ないよ!」
『ええ、悪いよ…』
「結羅ちゃんも女の子だから!
一緒に帰ろう!」
『…それあんずちゃんに言われてもなあ』
北斗、真にそう言われたと思えば
あんずちゃんにまで言われてしまう始末
これは断れなくなった
…ので、諦めてしまおうと思う
『じゃあ、取ってくる』
「おう! 待ってるからな〜」
その声を背中に私は2-Aへ急ぐ
その声さえも…胸をざわつかせる
ただの友人の声だと前まで思えたのに
それなのに今は愛しい声でしかない
『…恋は何もかも変えちゃうんだな』
ほんと、嫌になるや
.☆.。.:.+*:゚+。 .゚・*..☆.。.:*
「ったく、明星。あれほどいつも
言ってるだろ」
「ええ〜だってあれはさ、サリ〜が
凄い疲労に溢れてたから癒してあげようと」
「癒し方間違えてたよ明星くん…」
そうして薄暗い帰り道
あんずちゃんと私、Trickstarで
学校に背を向け歩いている
「ははっ、けどまあ…スバルらしくて
結局疲れは飛んだけどな」
どこにでもあるような光景なのに
私の気分は舞い上がるどころか
徐々に落ちていく
「明星くんは、衣更くんを元気づけたい
だけだもんね」
「あんずまで味方をするな。明星がまた
調子に乗るだろう?」
「あっ、つい…!」
「あんずって、ちょ〜っと抜けてるとこ
あるよな〜…無理、するなよ」
ほら
「う、うん…ありがとう衣更くん」
「おう…っ…」
帰り道、あなたの視線の先には
必ずあんずちゃんがいる
分かってるんだよ、その意味が…だから
だから私は恋をしないようにしてたのに
してた…のに……
「じゃあ、俺たちこっち!
サリ〜、マセマセ、また明日ね!」
「おう! また明日な〜あんず、
気をつけて帰れよ?」
「は、はい! 気をつけ!ます!
結羅ちゃんもまた明日!」
『うん、また明日』
必然的に別れて
一瞬静寂が訪れた。だからこそ私は
彼に聞いたんだ
『真緒くん、あんずちゃん好きなの?』
「…へっ!?」
『表情が違ったから』
隠しててもわかってた
艶めいた、あの甘栗色の髪が愛らしい
彼女に恋焦がれていたこと
「うわぁ…誰にも言うなよ?」
『みんなわかってると思うけどなあ』
「だとしても、だ!
俺と結羅の秘密だぞ…!?」
そう言って顔をあからめる真緒くん
私は必死に笑って言葉を繋いだ
『そんな好きなの?』
「うっ…」
『一生懸命な所とか、ふとした時の笑顔
とかじゃない?』
「よく分かるなお前……ふとした時にさ
ふんわり笑ってくれるの…すげえ可愛くて
ああ、好きだな〜ってなるんだよ」
その熱い眼差しで、私を見つめて欲しい
そんなこと叶うわけはないのに
「ほら、家ついたぞ」
『あ…ありがとう…
ごめんね、家まで送って貰って…』
「いいって! じゃ、また明日な!」
真緒くんはこうして家まで送ってくれる
本当は自分の家はもう少し手前で
曲がらないといけないのに
私をしっかり送り届けてくれて…
真緒くんに恋焦がれている私にも優しくて
だから………
『真緒くん! 私! 応援してるから!』
「!…ありがとな!」
『うん、また明日…!』
こうしてまた、彼を愛するんだ
それから月日がたった
冷たい冬の空が私に寒さを与えてくる
そんな日。
ふと、木陰に立っている真緒くんの姿が
私の視界に映る
去年より大きくなった後ろ姿に
思わず声を上げて
『真緒く………………!』
途端、息を潜めた
「ご、ごめんな…急にこんなこと…」
「ううん! 私こそその…ごめんね…」
「いや大丈夫! むしろスッキリしたよ!
これからもよろしくな、プロデューサー!」
「うん!」
そのまま去るあんずちゃん
その場に立ち尽くす真緒くん
その二人を見て全てを察すると、
私はその後ろ姿に今度こそ声をかけた
『……告白したの?』
「………まあ、そんなとこ。見事にまあ
振られたけどな」
『………そ。けど後悔はないなら
いいんじゃない?』
「ははっ、そうだな」
こっちを向くと無理して笑う真緒くん。
私ならそばにいるのに、私ならそんな
悲しそうな顔させないのに
私なら…私なら…………
『ぎゅっ』
「! ちょっ、結羅…」
私は有無を言わさず真緒くんに抱きついた
『…私、見てないから。見えないから
だから、泣いていいよ真緒くん』
「!………」
真緒くんは私にぎゅっと抱きついて
そのまま小さく肩を震わせる
…このまま、閉じ込めてていいんだよ
なんて、思いながら
私はただ彼の背中をポンポンと叩いた
『…真緒くんが泣いてる時は
私も一緒に泣くから…なんて、
少し重いかな。真緒くんが悲しいと
私も悲しくなるよ』
「……お前は優しいな…」
『そんなことないよ真緒くん………好き。
……好きだからだよ、真緒くんのことが』
「!ぇ……」
真緒くんひとりじゃないよ
大丈夫、私も一緒に振られるから
『ずっとずっと、真緒くんが好き
だから優しいんだよ』
「っあ…ご、ごめ…………俺…」
突然私から離れて謝り始める真緒くん
彼は何も悪いことはしていない
なのにどうしてそんなに謝るの…?
『謝らないの! 私は好きで今こうして
告白しただけで、真緒くんも好きだから
あんずちゃんに告白したんでしょ?』
「そ、うだけど…でも…!」
『私も同じ。だから気にしないで』
「っ…」
申し訳なさそうに私を見つめる
その姿に、今度は私が笑う
『じゃあさ、今抱きしめたのと
話を聞いたお礼としてなんだけど』
「?おう」
『………私の事、振ってほしいな』
ああ、なんて残酷なことを私は彼に
頼んでるんだろう
「…けど………」
『ほら、良いから。
答えられなくてごめん
好きでいてくれてありがとう…って
その気持ちだけでいいから』
「……ごめん…」
いつだって夢見てた
『それは何のごめんなの?
…仕方ないなあ。
-好きです、真緒くん。付き合って下さい』
「っ……………」
隠せなくて、あからさまに溢れ出る想いが
例え真緒くんに届かなくても
『…真緒くん、ほら。振って』
振らないで。少しでいいから私を見て
まだ、まだ言わないで
「…ごめん。その告白は、答えられない」
『ううん、良いよ』
「…お前が苦しいの…俺だって…俺だって
さっき経験して、わかってるのに…っ
ごめん、ごめんな…」
『真緒くん優しすぎ! そんな所を私は
好きになったんだけどね…けど大丈夫
真緒くん1人にはしないよ。私も、
振られてお揃いだから…だからさ!
…明日から、また前を向こうね』
「………あぁ、そうだな」
私の強い想いは、無慈悲なほど呆気なく
長く持ち続けた時間を無視して一瞬で
砕かれていく。黒く優しい闇の中に還る
『…あ、スバルが呼んでたから探しに来たの完全に忘れてたや』
「っえまじ!? 行ってくる!」
すると真緒くんは私の頭を優しく撫でる
『!!』
「…ありがとな…好きでいてくれて」
『良いから早く行け〜』
少し吹っ切れた顔で笑って、真緒くんの
そのまま急いで去っていく姿を見送る
私は1度、深く深呼吸をしてから
その場に座り込むと、ガサゴソと草木を
分ける音が聞こえた
「馬鹿だね〜。わざわざ振ってって
自分から言うなんてさ」
『…良いでしょ』
「ま〜くん優しいからさ、きっと結羅が
これから私を見てほしい
とか言ったら見てくれたと思うんだけど」
『だから良いんだってば! …良いんだ…』
「じゃあなんで泣くのさ」
紅い瞳で、私をじっと見つめてきた
その瞳は確かにぼやけて見えて
『……』
何も、言えなくなった
…なんで最後、頭を撫でるの…?
「自分だって、泣けばいいのに」
『…っ…』
「…泣けばいいじゃん、ま〜くんのこと
好きだったんでしょ」
『…好き、だいすき…真緒くんのこと…
わ、たしは……っ』
溢れ出た涙は止まることなんてなかった
真緒くんの視線の先には、私の姿が
無いのだとしても、それでも………
ずっと、好きだった。好きで
恋焦がれてた。あの優しくて、
しっかりとした手と、いつかちゃんと
繋ぎあえること。触れることが
許されること。想いが届くこと。
全てを願っていた
「ハイハイ、じゃあ俺が抱きしめ…」
『駄目、真緒くんから上書きしないで』
「…はーい」
『…ひっぐ…………うっ、ひっくっ…』
願って、叶わなくて
真緒くんを想う気持ちだけが
この場に置いていかれた
きっと真緒くんも、あんずちゃんに
告白して、今こんな思いだから
だから私だけじゃない
「…ま〜くんなら、きっとまた…」
まだ微かに残る真緒くんの優しい匂いが
鼻先を掠めて、そっと私は自分の体を
縮こませる
他ならぬ真緒くんに奪われた、優しい恋
優しくて儚い、恋
まだ暫く終わることは出来ないけど
それでも……………
『…………楽し、かったなあ………』
たった一度きりの、初恋
.☆.。.:.+*:゚+。 .゚・*..☆.。.:*
「…結羅!」
『! 真緒くん、卒業おめでとう』
「ああっ、結羅もおめでとう」
『どうしたの? そんな走ってきて
もしかしてまた誰か探してるの?』
「あ、えっと…………」
真緒は結羅の言葉に声を詰まらせる
その姿を見て、彼女は首を傾げた
「あ、のさ…結羅……
卒業したら、お前はその…プロデューサーに
そのままなるんだよな?」
『? うん、その予定だよ』
その返事に真緒はほっと一息つく
彼女とまだ共に過ごせると、安心した
それはほんの束の間に過ぎなくて
『ああでも…ちょっと特殊でさ』
「特殊?」
『そ。私ね、Knightsのプロデューサーに
なるんだ』
「!!」
彼の驚きに気付かぬまま、彼女は苦笑し
言葉を続ける
『凛月がすっごいしつこくて…仕舞いには
うんって言うまでレッスンしないとか
言い始めちゃって……』
「それで無理矢理?」
『んー…でもまあ、みんな優しいし
瀬名先輩なんて、一緒にフィレンツェに
来なよとか言ってくださってさ…』
「そっか…フィレンツェに行くのか?」
『ううん、英語話せないし!
丁重にお断りしたよ』
「…良かった」
『え?』
「っあ、いや、なんでもない!」
静寂が二人の間に起こる。
決してどちらも悪いことをしているわけでも
喧嘩をしている訳でもないのに
どちらからか、はたまた両方からか
言葉を紡ぐには気まずい空間が生まれ
ただ桜の花びらが散り、春風が吹く
初めに口を開いたのは結羅で
『…だから、もしこれから一緒に
ライブすることになったらよろしくね!
Knightsをもっと輝かしいアイドルに
していけるよう頑張るから!』
「っあ、あぁ…頑張れよ! 俺達も…
………俺も、頑張るからさ」
『うん! 頑張ってね、真緒くん
違う所でも、ずっと応援してるから』
「っ…………」
本当は1番近くで、ずっと自分の傍で
応援して欲しい…そう言いたかった
けれど、しっかり次を見る彼女に
そんなこと言う勇気は真緒には無かった
「おーい、結羅〜」
「結羅ちゃん〜泉ちゃん達が
来てくれたわよォ♪」
『あっ! 今行く〜! じゃあ真緒く』
「結羅!」
『?』
真緒は彼女を引き止める
向こうにはKnightsが彼女を待っている
分かってる、分かってはいるのに
「……あの、さ」
『うん?』
「もし…あの時…俺がお前を振らずに
考えるって言ってたらさ……俺たち
今頃どうなってたんだろうな」
何としても引き止めたかった
何としても話がしたかった
何としても
『んー…どうだろ…真緒くんが考える
って言ってから、私をどう見たか
によって違うんじゃないかな?』
もう一度、彼女に振り向いて欲しかった
「…例えばその後、しっかりお前を見て
好きになってたら?」
もう一度、自分を見て欲しかった
『その時は嬉しいかな! だってさ
真緒くんの視線の先に私の姿はない
叶うことは無い初恋って、あの時はずっと
考えてたから』
「!…はつ、恋…」
『っあ、これ言ってなかったっけ…
私、真緒くんが初恋だったんだよ
まぁまさに、初恋は実らないってやつ
初めからあんずちゃん相手で負け戦
って思ってはいたけど!』
その時を思い出し、彼女は真緒へ
当時の思いを馳せる
「…………初恋は実らない、か」
『そ…よく言うじゃん? 逆にね
初恋が実るとその人とは結婚まで
出来るんだって! ただの迷信だろうけど』
そんな事ない、そう言ってやりたい
そう言いたいはずなのに
「…迷信…」
『………真緒くん』
「ん?」
『……あの時言えなかったことがあるの』
「……………なんだ?」
言えるわけが無いと、真緒は感じる
分かっているのだ、彼女はもう
『…楽しい初恋をありがとね!』
「っ!!」
自分を "恋愛感情"として見ていない事に
『じゃ、またね!』
「…………………結羅!」
『ん?』
遅いということは分かっている
だからこそ
「…ごめんな」
『え、なにが!?』
「…なんでもねえよ。ほら行け」
『??? うん、じゃあまた』
謝ることしか出来なかった
「………………なにが、って…そんなの」
彼の中で伝えたかったことは単純で
「…あの時、自分のことにいっぱいで
言われた通りに振ることしか出来なくて
…ごめんな」
考えさせて、と。ただ一言。
ただ一言、そう言えば
あの時苦しむのは自分だけで済んだ
彼女まで悲しませることは無かった
それに…本当にそう言えてたなら
「…………。今更好きになってごめん」
未来-いま- を変えることが出来たはず
彼女は向こうに行かず、自らの隣に居て
自分が全く気付いてやれなかった、あの
"恋をする女の子の"笑顔を
まだ向けて貰えたはずだろう
あんずへの想いで狭かった視野が広まり
彼女の動きや話すことをきちんと耳にし
ようやく向き合った
ふと、俺に向けて笑う彼女の笑顔が
それこそ当初、愛しいという気持ちで
溢れていたからこそ。
だからこそ…徐々にそれが消えるのを
俺は視界の端でずっとみていた
-『あっ、おはよう真緒くん』
今思えばすごく可愛い笑顔だった
「なに、ま〜くん。そんな顔して」
「凛月…俺、変な顔してるか…?」
物陰から現れた幼馴染に、真緒は
頑張っておどけてみせるが、長年彼を
見ている幼馴染にそんなの効くわけが無い
「それはもう………言葉にするなら」
-悲しそうだけど、
でも愛しくて仕方の無いような顔-
「!!」
-『真緒くんの視線の先に…』
「………結羅の視線の先にも
もう、俺は居ないんだよな」
「なに、ま〜くん? いきなり」
「………ははっ…また失恋しちまった…
……すれ違いって言うか…なんだろうな
…あいつは、ちゃんと前を向いたんだよ」
前を向けていないのは自分だ。
何も変わらない、変えられていない
彼女は既に、次を見ていると言うのに
……ふと、真緒は顔をしかめた時、凛月が
大きめのため息をついた
「…ま〜くんは進めてないの?
ま〜くん、あんずに告白して振られた
その後結羅に告白されて振って
本当に変わってない?」
「…どういうことだよ」
凛月はそっと、真緒に微笑んだ
「今は結羅が好きなんだよね
それってさ、ま〜くんが新しい恋を見つけて
前に進んだってことじゃないの?」
「っ!!」
「大丈夫…ま〜くんは前に進んでる
もちろん結羅だって進んでるよ
けど…お互い、次に進む道は少しだけ
違っちゃったみたい」
同じ方向に進んでいたら
彼が願う未来が見えたかもしれない
今更だろうか、遅すぎるだろうか
だとしても…今想うくらいなら良いはずだ
「……………」
「ま〜くんは悪くないよ」
「…ちがう、そうじゃない。悪いとか
そういうのじゃないんだ………」
何も言えなくて、どう言葉にしたらいいか
分からない。だからこそ真緒は
居なくなった結羅を思い浮かべ
ただ、今彼女へ想う気持ちを口にした
「………好き、だ」