考えてなかった
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1学期の終わり。
明日から1ヶ月の夏休み、という状況で
私はふと考えた
私の声は届かないのにあの子の声は届いて
水と油みたいだった
どうしてプロデュース科にきたのに
彼のプロデュースをしてないんだろう
恋をして、ただ崩れてく願いも
「なぁ真瀬、あんず何処にいるか分かるか?
プロデュースの事なんだけど」
『せっ、先生に呼ばれてた…
伝えることあれば…
私が…伝えて…お、くよ?』
「じゃあ頼むよ。木曜日に言ってたライブの
話があるから、放課後にまたよろしくって
伝えておいてくれ」
『わ、わかったっ!』
良い人を演じて、自らの感情から逃げる
分かってる。分かってるけど
そうしないと、私が要らないみたいだし
「じゃあな!」
『うん』
…分かってる、分かってるから
だからそんな、満足気な優しい顔しないで
凛「…ねぇ」
『!あっ…凛月くん…』
俯いていた私の前に、こんどは
凛月くんがやってくる。でも凛月くんは
隣のクラスだから…
『えっと…誰か探してるの?』
頭には入ってるから答えられるけど…
凛「違う。あんたに用があるんだけど」
『ヒェッ…』
突然睨まれ、思わずそんな声が出る
怪訝そうな眼差しで、彼は私に言った
凛「…ま〜くんが好きなの?」
『っ…えっ…どうして…』
凛「見てたらわかるんだけど」
そんなに分かりやすかっただろうか
…恥ずかしい…もっと隠さなきゃ…
凛「ま〜くんは意外と鈍感だから気付いては
ないと思うけど、それでもわかり易すぎ
あんたの恋を応援するつもりはないけど」
『そ、そっか…』
凛「諦めろ、とは言わないからさ。
自分の接し方、あと見た目とか…
色々考えてみたら?あんずを見るとか
そしたら良くなるかもよ〜」
それだけ言うと、凛月くんはそのまま
廊下を歩いていく…接し方…見た目…
そう言われた放課後、手洗い場で自分を
じっと見つめてみた
あんずちゃんは髪も肌も綺麗で、
手入れがしっかり行き届いてる……
それに比べて私は全くだ
あんずちゃんの方がスタイルもいい
仕事もできる。私より断然優秀だ
『…っ………だめだなあ…』
どこからみたって私の方が劣る
なのに一丁前に恋だけしている私は滑稽だ
ここからどうしたら正解なのか
ー「あんずを見るとかさ」
……………………あっ
『こっ、これなのかな…』
どうせ何処も私にプロデュースなんて
頼んできてない。だったらこの1ヶ月
私がすることはきっとこれなんだ
プロデューサーとしてだめなら
せめて、見た目だけでも……
夏休み明け
『おはよう、衣更くん』
「ん? おう、おは……………」
『? どうしたの』
まずはその1…彼、衣更くんを見つけたら
朝、挨拶をすること
緊張しつつも声をかければ
優しい彼は振り返って………黙りこくった
「いやっ、あの……真瀬、だよな?」
『うん、何を今更……』
「いやほら…夏休み中のライブとか
真瀬のプロデュースじゃなかったから」
そうだね…そのライブは夏休み前、
私にあんずちゃんへ伝えるよう頼んだもの
プロデュースじゃなかった
んじゃない
プロデュースに選ばなかった
が正解
『なんか久しぶりって感じ?』
「そ、そう…その……なんか…見違えた、な」
そう言われ、心の中ではめちゃくちゃ喜ぶ
…が、顔に出す訳には行かない
顔に出したら行けないって雑誌に書いてた
☆*°
声をかけられて振り返れば
夏休み前とは打って変わった姿の真瀬がいた
ふと、ドキリと音を立てる
「いやっ、あの……真瀬、だよな?」
『うん、何を今更……』
「いやほら…夏休み中のライブとか
真瀬のプロデュースじゃなかったから」
そう言ってからハッとする
そのライブは夏休み前、俺が彼女へ
あんずに伝言を頼んだもの
彼女のプロデュースじゃなかった
んじゃない
彼女をプロデュースに選ばなかった
が正解なんだ
『なんか久しぶりって感じ?』
「そ、そう…その……なんか…見違えた、な」
それでもそれを表情に出さない
以前は少しおどおどしていて、何をするにも
少し控えめだった彼女が、今こうして
俺に話しかけている
この1ヶ月、彼女に何があったのだろうか
『? そうかな』
「おう。なんかすげぇ…可愛くなった…」
いや元々可愛かった。可愛かったけど
………なんだ…今の彼女は………
『えへへ、ありがとう衣更くん』
控えめに笑う彼女に、俺は息を詰まらせた
……ふと、なにかに努力したことが
垣間見える…
「ッ…! 真瀬………その…」
何かあったのか?
そう聞こうとした時だった
「あっ、衣更くん! おはよう!」
後ろからもうひとりのプロデューサーの声
………あんずだ
「! おはよう、あんず」
思わず胸が高鳴って体温が上がる
気付かれないように俺は冷静を装った
『おはよう、あんずちゃん』
「わわっ、結羅ちゃん? すっごく
可愛くなったね…! その髪型も似合ってる!
……それにいい匂いする…!」
うん、言いたかったことをあんずに
全て言われてしまった
だが仕方ないあんずはこういう奴だ
だから惹かれるのかもしれない
『ありがとう。あんずちゃんみたいに
可愛くなりたくて』
そう、明るい笑顔で答えた真瀬
…この1ヶ月、凄い努力したんだろうな
…けどここまで頑張りたかった理由って
「私なんてそんな…! でも嬉しい…っ
可愛いよ結羅ちゃん…! 今日暇?
一緒に喫茶店にパフェ食べに行こうっ?」
『空いてるよっ! いこいこっ』
ちょっと待て、俺も行きたい
真瀬のことを知りたい…けど
「おいおい、あんず。真瀬をナンパするな」
こんなときに限って俺はそれを言葉に
出来ない
「こんな可愛い子1人にしたら絶対
危ない男が来るよ! だから私が守るの!
だから私はナンパじゃない!」
そう言ってあんずは彼女の手を掴む
「教室行こ結羅ちゃん!
じゃあね衣更くん!」
「お、おう」
そう言って引っ張られていく彼女が
不意に後ろにいる俺を見て
『(ま た ね)』
「…っ!」
そう口パクで伝えて微笑んでみせた
ドキドキと、鼓動が早くなる
体温が上がる。今の彼女の微笑みが
頭から離れない
「おはようサリ〜…?おーい??
…おーい、どうしたのサリ〜?
まるで恋したみたいな顔して」
「っ…恋………?」
やってきたスバルにそう言われ
また胸が高鳴る。あんずとは違う
確かなもの。けど考えろ、だとしたら…
「…俺最低じゃね…………」
「ええっ、なになに!?どういうこと?」
1ヶ月見ない間に自分の好みになってた
だから好きなやつ変わりましたって
俺やばいやつだろ?軽すぎるじゃん
「……はぁ…」
「ねぇサリ〜ってば〜!!!なんか
悩んでるのか知らないけど、自分が
後悔しなければいいんじゃないの?」
「…後悔、ねぇ…」
もうすでにしてるんだけど……
☆彡
「…失礼しまーす」
昼休み、北斗達を飯に誘うためAクラスへ
訪ねた。正直、真瀬がいるかと思い
緊張していたのもあるが、いざ入ると
当の本人は居なかった
「…あれ?真瀬は?」
そう聞くと、真が口を開いた
「そういえば昼休みはいつも居ないよね?」
「んー食堂かな??」
「だが俺たちが行っても見たことは無いな」
…考えてみれば、彼女のことを
何も知らないのではないか……?
「わかった、ありがとな!」
「衣更くん!お昼ごはんは!?」
「先に食べててくれ!!」
俺はそう言って、気付けば彼女を探すため
走り出していた
わからない、わからないけど……でも
もっと知りたいって反射だったことは
間違いない
「んー…どこにいるんだ?」
にしても俺はどうしてこんなに彼女を
探しているんだ?
けど探し始めたら見つけないと気が済まない
早歩きで廊下の曲がり角へ差し掛かった時
ーきゅっ、きゅっ
「??」
レッスンルームから聞こえた音
こんな昼休みにレッスンをしてる奴が
居るのだろうか
そう思い覗き込んでみると
「真瀬?」
『あっ、衣更くん!』
レッスンルームを掃除する真瀬の姿
「なにしてるんだ?」
『お部屋の掃除!今日の放課後
流星隊が使うっぽくて!
…埃って夜に舞うから、レッスンが近くなる
昼休みにこうして掃除を……』
「……………入ってもいいか?」
『ひぇっ!も、もちろん!!』
おどおどした姿は前と変わらなくて
少し可愛らしかった
レッスンルームに入り、パイプ椅子に座る
せっせとモップをかける彼女を見ながら
俺は口を開いた
「掃除は毎日してるのか?」
『う、うん!必ず誰かが使うからね
だからお昼は基本ここで』
「………1人で、か?」
『…………うん、そうだよ』
1人…その言葉で、不意に彼女が悲しげな
顔をしたように見えた
「皆と昼飯を食べることは?」
『お弁当食べる人は他にいるはずだし
あんずちゃんも色んなユニットから
誘われると思うから、大丈夫かなって!』
どうしてそこまで強がるんだ
「じゃあずっと、ここに?」
『うん。昼休みはずっとここ。
プロデューサーはあんずちゃんが
居るでしょ?だから私はみんなが少しでも
輝けるために………』
「なんでだよ…」
『へっ…?』
みんな、みんなって……
「なんで、1人を選ぶんだよ…」
『……1人だったからだよ』
真瀬は、俯いてポツリと言った
『みんな、あんずちゃんだもん
殆どのユニットはね、私にプロデュースは
頼まないの。そりゃあ…こんな私より
あんずちゃんが良いよね。みんな
きっとあんずちゃんに惹かれる』
否定してやりたいのに出来ない
あんずに頼んでいることも、実際
俺があんずに惹かれたことも事実だから
『別にいいんだ、それでも
…こうやって、練習する場所を綺麗にして
それでまた皆がアイドルとしての成長が
出来るなら、それでいい』
「真瀬………」
『…あっ、ご、ごめん!重い空気に
なっちゃった…!!い、衣更くん
何かレッスンルームに用があった?
昨日忘れ物したとか…』
確かに昨日Trickstarはここで
レッスンをしていたけど
「なんで昨日ここにいたこと知ってるんだ?
まだ夏休みだったろ?」
『各ユニットのレッスンやライブは
全部頭に入ってるよ
誰かが誰かを探してても伝えられるように』
ー「真瀬、あんずしらね?」
ー『ええっと…あんずちゃんなら…』
ー「あれ、スバルのやつどこに…」
ー『あ…き、今日は確か…』
今頃気づいた。誰か人を探してる時
真瀬は必ずしっていた
『……って、自分のプロデュースでも
ないのに…なんか、気持ち悪いよね…』
「そ、そんなことない!むしろ有り難い!
そうだ、今度俺たちのプロデュース
してくれよ!」
気づけば俺は反射でそう口にしていた
けど後悔はしてない
ここまで頑張る真瀬のプロデュースを
受けたいと思った。情けなんかじゃない
『わ、私…が?』
「そ!出来るなら明日にでも!」
『………』
「き、急すぎたか…?真瀬………」
顔を覗き込むと、俺は目を見開いた
真瀬は、大きな瞳から大粒の涙を
静かに流していたんだ
「まっ、真瀬………」
『!!ご、ごめんなさい……
ま、まさか頼まれると思わなくて…
うっ…嬉しくて……』
拭っても拭っても、彼女の瞳から
涙は止まらない
その姿が、酷く儚げで美しかった
「真瀬」
『!!!』
なんとかしてやりたくて、
腕の中に閉じ込める
「…ごめんな、気付いてやれなくて」
『!い、衣更くんが悪いわけじゃないよ』
そう言いながらも涙声で覇気はない
よっぽど嬉しかったんだろう
たった1つ誘うだけでここまで
喜んでもらえる。簡単なことだったんだ
それをしなかったのは俺たちで
プロデューサーに支えられてる分
俺たちアイドルも
プロデューサーを支えなければいけない
そんなことに今更気がついた
「それで、プロデュースのお願い
受けてくれるか?」
『…っうん!』
腕の中で泣きながら笑う真瀬は
最高に可愛くて
俺はこの一瞬で真瀬に…
…恋に…落ちる音を自らの心で感じた
-互いの努力が結ばれるまで、あと64日
明日から1ヶ月の夏休み、という状況で
私はふと考えた
私の声は届かないのにあの子の声は届いて
水と油みたいだった
どうしてプロデュース科にきたのに
彼のプロデュースをしてないんだろう
恋をして、ただ崩れてく願いも
「なぁ真瀬、あんず何処にいるか分かるか?
プロデュースの事なんだけど」
『せっ、先生に呼ばれてた…
伝えることあれば…
私が…伝えて…お、くよ?』
「じゃあ頼むよ。木曜日に言ってたライブの
話があるから、放課後にまたよろしくって
伝えておいてくれ」
『わ、わかったっ!』
良い人を演じて、自らの感情から逃げる
分かってる。分かってるけど
そうしないと、私が要らないみたいだし
「じゃあな!」
『うん』
…分かってる、分かってるから
だからそんな、満足気な優しい顔しないで
凛「…ねぇ」
『!あっ…凛月くん…』
俯いていた私の前に、こんどは
凛月くんがやってくる。でも凛月くんは
隣のクラスだから…
『えっと…誰か探してるの?』
頭には入ってるから答えられるけど…
凛「違う。あんたに用があるんだけど」
『ヒェッ…』
突然睨まれ、思わずそんな声が出る
怪訝そうな眼差しで、彼は私に言った
凛「…ま〜くんが好きなの?」
『っ…えっ…どうして…』
凛「見てたらわかるんだけど」
そんなに分かりやすかっただろうか
…恥ずかしい…もっと隠さなきゃ…
凛「ま〜くんは意外と鈍感だから気付いては
ないと思うけど、それでもわかり易すぎ
あんたの恋を応援するつもりはないけど」
『そ、そっか…』
凛「諦めろ、とは言わないからさ。
自分の接し方、あと見た目とか…
色々考えてみたら?あんずを見るとか
そしたら良くなるかもよ〜」
それだけ言うと、凛月くんはそのまま
廊下を歩いていく…接し方…見た目…
そう言われた放課後、手洗い場で自分を
じっと見つめてみた
あんずちゃんは髪も肌も綺麗で、
手入れがしっかり行き届いてる……
それに比べて私は全くだ
あんずちゃんの方がスタイルもいい
仕事もできる。私より断然優秀だ
『…っ………だめだなあ…』
どこからみたって私の方が劣る
なのに一丁前に恋だけしている私は滑稽だ
ここからどうしたら正解なのか
ー「あんずを見るとかさ」
……………………あっ
『こっ、これなのかな…』
どうせ何処も私にプロデュースなんて
頼んできてない。だったらこの1ヶ月
私がすることはきっとこれなんだ
プロデューサーとしてだめなら
せめて、見た目だけでも……
夏休み明け
『おはよう、衣更くん』
「ん? おう、おは……………」
『? どうしたの』
まずはその1…彼、衣更くんを見つけたら
朝、挨拶をすること
緊張しつつも声をかければ
優しい彼は振り返って………黙りこくった
「いやっ、あの……真瀬、だよな?」
『うん、何を今更……』
「いやほら…夏休み中のライブとか
真瀬のプロデュースじゃなかったから」
そうだね…そのライブは夏休み前、
私にあんずちゃんへ伝えるよう頼んだもの
プロデュースじゃなかった
んじゃない
プロデュースに選ばなかった
が正解
『なんか久しぶりって感じ?』
「そ、そう…その……なんか…見違えた、な」
そう言われ、心の中ではめちゃくちゃ喜ぶ
…が、顔に出す訳には行かない
顔に出したら行けないって雑誌に書いてた
☆*°
声をかけられて振り返れば
夏休み前とは打って変わった姿の真瀬がいた
ふと、ドキリと音を立てる
「いやっ、あの……真瀬、だよな?」
『うん、何を今更……』
「いやほら…夏休み中のライブとか
真瀬のプロデュースじゃなかったから」
そう言ってからハッとする
そのライブは夏休み前、俺が彼女へ
あんずに伝言を頼んだもの
彼女のプロデュースじゃなかった
んじゃない
彼女をプロデュースに選ばなかった
が正解なんだ
『なんか久しぶりって感じ?』
「そ、そう…その……なんか…見違えた、な」
それでもそれを表情に出さない
以前は少しおどおどしていて、何をするにも
少し控えめだった彼女が、今こうして
俺に話しかけている
この1ヶ月、彼女に何があったのだろうか
『? そうかな』
「おう。なんかすげぇ…可愛くなった…」
いや元々可愛かった。可愛かったけど
………なんだ…今の彼女は………
『えへへ、ありがとう衣更くん』
控えめに笑う彼女に、俺は息を詰まらせた
……ふと、なにかに努力したことが
垣間見える…
「ッ…! 真瀬………その…」
何かあったのか?
そう聞こうとした時だった
「あっ、衣更くん! おはよう!」
後ろからもうひとりのプロデューサーの声
………あんずだ
「! おはよう、あんず」
思わず胸が高鳴って体温が上がる
気付かれないように俺は冷静を装った
『おはよう、あんずちゃん』
「わわっ、結羅ちゃん? すっごく
可愛くなったね…! その髪型も似合ってる!
……それにいい匂いする…!」
うん、言いたかったことをあんずに
全て言われてしまった
だが仕方ないあんずはこういう奴だ
だから惹かれるのかもしれない
『ありがとう。あんずちゃんみたいに
可愛くなりたくて』
そう、明るい笑顔で答えた真瀬
…この1ヶ月、凄い努力したんだろうな
…けどここまで頑張りたかった理由って
「私なんてそんな…! でも嬉しい…っ
可愛いよ結羅ちゃん…! 今日暇?
一緒に喫茶店にパフェ食べに行こうっ?」
『空いてるよっ! いこいこっ』
ちょっと待て、俺も行きたい
真瀬のことを知りたい…けど
「おいおい、あんず。真瀬をナンパするな」
こんなときに限って俺はそれを言葉に
出来ない
「こんな可愛い子1人にしたら絶対
危ない男が来るよ! だから私が守るの!
だから私はナンパじゃない!」
そう言ってあんずは彼女の手を掴む
「教室行こ結羅ちゃん!
じゃあね衣更くん!」
「お、おう」
そう言って引っ張られていく彼女が
不意に後ろにいる俺を見て
『(ま た ね)』
「…っ!」
そう口パクで伝えて微笑んでみせた
ドキドキと、鼓動が早くなる
体温が上がる。今の彼女の微笑みが
頭から離れない
「おはようサリ〜…?おーい??
…おーい、どうしたのサリ〜?
まるで恋したみたいな顔して」
「っ…恋………?」
やってきたスバルにそう言われ
また胸が高鳴る。あんずとは違う
確かなもの。けど考えろ、だとしたら…
「…俺最低じゃね…………」
「ええっ、なになに!?どういうこと?」
1ヶ月見ない間に自分の好みになってた
だから好きなやつ変わりましたって
俺やばいやつだろ?軽すぎるじゃん
「……はぁ…」
「ねぇサリ〜ってば〜!!!なんか
悩んでるのか知らないけど、自分が
後悔しなければいいんじゃないの?」
「…後悔、ねぇ…」
もうすでにしてるんだけど……
☆彡
「…失礼しまーす」
昼休み、北斗達を飯に誘うためAクラスへ
訪ねた。正直、真瀬がいるかと思い
緊張していたのもあるが、いざ入ると
当の本人は居なかった
「…あれ?真瀬は?」
そう聞くと、真が口を開いた
「そういえば昼休みはいつも居ないよね?」
「んー食堂かな??」
「だが俺たちが行っても見たことは無いな」
…考えてみれば、彼女のことを
何も知らないのではないか……?
「わかった、ありがとな!」
「衣更くん!お昼ごはんは!?」
「先に食べててくれ!!」
俺はそう言って、気付けば彼女を探すため
走り出していた
わからない、わからないけど……でも
もっと知りたいって反射だったことは
間違いない
「んー…どこにいるんだ?」
にしても俺はどうしてこんなに彼女を
探しているんだ?
けど探し始めたら見つけないと気が済まない
早歩きで廊下の曲がり角へ差し掛かった時
ーきゅっ、きゅっ
「??」
レッスンルームから聞こえた音
こんな昼休みにレッスンをしてる奴が
居るのだろうか
そう思い覗き込んでみると
「真瀬?」
『あっ、衣更くん!』
レッスンルームを掃除する真瀬の姿
「なにしてるんだ?」
『お部屋の掃除!今日の放課後
流星隊が使うっぽくて!
…埃って夜に舞うから、レッスンが近くなる
昼休みにこうして掃除を……』
「……………入ってもいいか?」
『ひぇっ!も、もちろん!!』
おどおどした姿は前と変わらなくて
少し可愛らしかった
レッスンルームに入り、パイプ椅子に座る
せっせとモップをかける彼女を見ながら
俺は口を開いた
「掃除は毎日してるのか?」
『う、うん!必ず誰かが使うからね
だからお昼は基本ここで』
「………1人で、か?」
『…………うん、そうだよ』
1人…その言葉で、不意に彼女が悲しげな
顔をしたように見えた
「皆と昼飯を食べることは?」
『お弁当食べる人は他にいるはずだし
あんずちゃんも色んなユニットから
誘われると思うから、大丈夫かなって!』
どうしてそこまで強がるんだ
「じゃあずっと、ここに?」
『うん。昼休みはずっとここ。
プロデューサーはあんずちゃんが
居るでしょ?だから私はみんなが少しでも
輝けるために………』
「なんでだよ…」
『へっ…?』
みんな、みんなって……
「なんで、1人を選ぶんだよ…」
『……1人だったからだよ』
真瀬は、俯いてポツリと言った
『みんな、あんずちゃんだもん
殆どのユニットはね、私にプロデュースは
頼まないの。そりゃあ…こんな私より
あんずちゃんが良いよね。みんな
きっとあんずちゃんに惹かれる』
否定してやりたいのに出来ない
あんずに頼んでいることも、実際
俺があんずに惹かれたことも事実だから
『別にいいんだ、それでも
…こうやって、練習する場所を綺麗にして
それでまた皆がアイドルとしての成長が
出来るなら、それでいい』
「真瀬………」
『…あっ、ご、ごめん!重い空気に
なっちゃった…!!い、衣更くん
何かレッスンルームに用があった?
昨日忘れ物したとか…』
確かに昨日Trickstarはここで
レッスンをしていたけど
「なんで昨日ここにいたこと知ってるんだ?
まだ夏休みだったろ?」
『各ユニットのレッスンやライブは
全部頭に入ってるよ
誰かが誰かを探してても伝えられるように』
ー「真瀬、あんずしらね?」
ー『ええっと…あんずちゃんなら…』
ー「あれ、スバルのやつどこに…」
ー『あ…き、今日は確か…』
今頃気づいた。誰か人を探してる時
真瀬は必ずしっていた
『……って、自分のプロデュースでも
ないのに…なんか、気持ち悪いよね…』
「そ、そんなことない!むしろ有り難い!
そうだ、今度俺たちのプロデュース
してくれよ!」
気づけば俺は反射でそう口にしていた
けど後悔はしてない
ここまで頑張る真瀬のプロデュースを
受けたいと思った。情けなんかじゃない
『わ、私…が?』
「そ!出来るなら明日にでも!」
『………』
「き、急すぎたか…?真瀬………」
顔を覗き込むと、俺は目を見開いた
真瀬は、大きな瞳から大粒の涙を
静かに流していたんだ
「まっ、真瀬………」
『!!ご、ごめんなさい……
ま、まさか頼まれると思わなくて…
うっ…嬉しくて……』
拭っても拭っても、彼女の瞳から
涙は止まらない
その姿が、酷く儚げで美しかった
「真瀬」
『!!!』
なんとかしてやりたくて、
腕の中に閉じ込める
「…ごめんな、気付いてやれなくて」
『!い、衣更くんが悪いわけじゃないよ』
そう言いながらも涙声で覇気はない
よっぽど嬉しかったんだろう
たった1つ誘うだけでここまで
喜んでもらえる。簡単なことだったんだ
それをしなかったのは俺たちで
プロデューサーに支えられてる分
俺たちアイドルも
プロデューサーを支えなければいけない
そんなことに今更気がついた
「それで、プロデュースのお願い
受けてくれるか?」
『…っうん!』
腕の中で泣きながら笑う真瀬は
最高に可愛くて
俺はこの一瞬で真瀬に…
…恋に…落ちる音を自らの心で感じた
-互いの努力が結ばれるまで、あと64日