後悔しか生まれない、あの日
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あんなことになるなんて思ってなかった
そんなの
言い訳にしかならないけど
☆。.:*・゜
ことのきっかけは
あんずが誰かに突き落とされて
意識不明の重体になったことだった
『なによ!私が悪いの!?』
「お前がしたっていうのを
見た人が居るんだよ!」
『なっ…………私してないって!
何回もいってるじゃない!!』
「実際にあんずが重症だろ!?」
『私関係ないもん!誰よ!私を見た
って言ってる人!人違いだわ!!』
あんずを突き落としたのは
もう1人のプロデューサーであり
俺の彼女である桜庭結羅
こいつが落とした所を、何人もの生徒が
目撃していた証言がでた
「複数人が見てんだよ!」
『だから誰よ!私はその時間教室で
書類の整理をしてたわ!』
「証拠はあるのかよ」
『そ、れは………』
こいつは良くも悪くも、日頃から
タチの悪い嘘をつくことがあった
だから今回も嘘をついてると思った
「………お前、もう嘘つくのやめろよ
自分の非を認めないところ、ほんとに
お前の悪いとこだぞ?」
『違うもん、私じゃないもん!!』
「あんずが意識ないんだぞ!?
目が覚めるかもわからない!分かるか!?
結羅…お前のせいだぞ」
『違う、違う違う!本当に違うもん!
なんで!?なんで真緒は私のことを
信じてくれないの!?』
信じたいのに、日頃の行動と目撃が
全部出てしまってるんだよ
「証拠が揃ってるから信じてるも何も
無いんだよ!」
『っ、だから誰って!目撃したとか
言ってる奴は!とんだ冤罪よ!』
「個人情報だから言えるわけないだろ
それにお前、聞いたらそいつらに
なにかするつもりだろうし」
少し、イライラしていたかもしれない
彼女の発言も、認めないことも…
信じてやれない、自分自身にも
『………な、によ…私がなにか、
仕返しをするとでも思ってるの…っ
なんでよ…どうして信じてくれないの…』
「………………」
『………わか、っ…たわよ…いいわよ
それで、私がしたで、いいわよ』
「お前がした事は事実だろ」
『……………』
「信じてたのに」
そんな、傷付けることしか言えなかった
「…会長に、報告しておくからな」
『好きにしなさいよ』
「………」
『…終わりね、私たちも』
「そうだな」
今思えば、本当に情けないと思う
.。o○
『…………』
「おはよ、結羅」
『……おはよう、凛月
私に話しかけてるのを見られたら
他の人に怒られちゃうわよ』
「いーよ別に。だって結羅は
何もしてない。無実だもんねぇ」
『………』
真緒と別れて…はや1ヶ月
あんずちゃんは目覚めないままで
私が1人でプロデュースしているが
皆仕方なく受けているという様子だ
終いにはプロデュースを断られた所もある
Knightsはプロデュースをずっと私に
頼んでくれているが、司くんはあまり
乗り気ではなさそうだし…
Trickstarも頼んでくれているが、
真緒とは話すことは無い。あったとしても
うまく話すことが出来ない
「今日はま〜くんたちのレッスンでしょ?
ちゃんとプロデュースできてるの?」
『……真緒に指摘すると言われるわ
「わかってる」「しってる」って
…だめね、私は』
「そんなことないよ、結羅は
頑張ってる…!俺はず〜っと、
その姿を見てたよ」
凛月は優しいね
何度その言葉たちに救われただろう
…同じくらい、真緒にも救われたのに
今その言葉は伝わらないもの
『……ありがとう凛月
…ねえ、凛月。私は一体…どこで道を
間違えたのかしらね』
「…………どこも、間違えてないよ」
『………なら、良いのだけど
きっと真緒は、あんずちゃんのお見舞いを
先に行ってからやってくるわ』
「…………そっか」
間違えてないのなら
どうして今隣には
私が愛してやまない人がいないのだろう
『…………真緒』
放課後、ずっと書類仕事をしていた
前までの真緒とは違う
病院へ毎日のように向かう姿を見かけて
…………私にはあんなこと
してくれなかったのに、って醜い嫉妬して
けれどもうそんなこと言う事は出来なくて
苦しい感情だけを抱えて、教室の窓から
病院へ向かう真緒を見つめた
『揃ったかしら?』
「マセマセ!まだサリ〜が来て…あ…」
『ええ、分かっているわ。大丈夫よ
あんずちゃんの元だろうし』
「…いいのか、真瀬」
心配そうにスバルと北斗が見つめてくる
いいも何も、そんなの分からないわ
『真緒の感情は、真緒しかわからないもの
…もう私は彼女じゃないわ』
「結羅ちゃん…で、でも…まだ
衣更くんが好きなんだよね?」
『…好きでいる資格も無いのよ』
だって、真緒が心から 私を信じる
って、思わせられなかったもの
普段からからかう様な嘘や言葉、行動を
し過ぎたわね。まさにホラ吹きの少年
と同じ…本当のことが起きても
それまでの言動で信じてもらえない
この3人は、どうして半信半疑なのに
私のことを心配してくれるのかしら
あれだけあんずちゃんのことを
救世主と、希望と謳っているのに……
本当はこのレッスンだって
あんずちゃんの予定だったものなのに
『…さ、レッスンをしましょ
真緒はそのうち来るでしょう?
先に3人の振り付けを確認するわ!』
「………うむ、では宜しく頼む」
その日、真緒がレッスンに来ることは
無かった
.。o○
『…真緒、レッスン来なかったわね』
「だね〜」
『……とうとう本当に、私にも
会いたくなくなったのかしら!』
「マセマセ…」
帰り道、スバルと歩きながらそんな話をする
ああ、スバルにまでそんな顔を
させたい訳では無いのに…
『……本当はね、今も大好きなのよ
口を開けば、真緒には好きしか言えない
気を張らないとちゃんと話せないの
けれど今はそれだと困らせてしまう
…ううん、嫌がられてしまうわ』
「………」
『あんずちゃんが目覚めたら、真緒は
あんずちゃんと付き合うのかしら!』
「それは………」
『その時は、心からお祝い……
出来るように、ならないとね』
「マセマセ、そんな無理しなくていいよ」
『…………スバルは、人をよく見てるね』
彼は父親に関して深い理由があるからこそ
観察眼に長けているのだろう
「俺、もう大切な人を失いたくない
マセマセだって、サリ〜だって…
勿論ウッキ〜もホッケ〜も…!!
…みーんな大好きだから」
『…ありがとう、スバル
…あ、もう着いたわね。ありがとう、
送ってくれて。夜遅いのに…』
「ううん!また明日ね!」
スバルは笑って、そのまま手を振って
帰っていく。その後ろ姿を見届けてから
ふと思い出した
『…いけない、忘れ物をしたわ』
荷物を持ってもう一度学院に向かう
真っ暗になった学院内へ戻り
レッスンルームの鍵をもう一度借りて
入れば、椅子の上に置いていた忘れ物
『…危なかったわ』
光り輝く彼らの新しい衣装案
キラキラの、未来へ導く衣装…
『さ、帰らなきゃ』
家でこれを完成させなきゃいけないもの
あと配色を塗るだけだから
そう思い学院を出て急いでいると
「!姉チャン、あぶねえ!」
『!!!!』
はたして、身体に走った衝撃が先か
地面に打ち付けられたのが先か
.。o○
『…ん……』
「!!結羅っ、目が覚めた!?」
『…………おかあ、さん…』
「よかったわぁ!!突然貴方が事故に
巻き込まれたと聞いて…っ………
まだ安静にしていて…臓器に傷が入って
しまったらしいのっ……学校は、きちんと
休学って伝えておくわっ!
真緒くんにも伝えておくから…!」
母親の声を聞いて、私は直ぐに
首を横に振った
『…休学じゃなくていいわ…
ふつうに、やすみって、つたえて…
体調不良…って…』
「えっ、でもそんなことしたら成績が…」
『…大丈夫よ……お願い』
「………わかったわ」
『…真緒にも、私から伝える、から』
「そうね、その方がいいと思うわ」
しばらくしてから帰っていく母親を見送り
私はふと考えた
休学なんて言ったら大袈裟よ、また
嘘なんていわれる。信じてもらえないわ
それならいっそ休みでいい。体調不良でいい
『臓器に…傷………』
本当の意味で、傷物ね。こんなのじゃもう…
真緒には見てもらえないわ
『……諦めろってことかしら』
神様は、いじわるね
そう思い、手の届く範囲に置いてもらった
ノートと衣装案を机の上に出した
『………はぁ』
入院して1週間…長いし暇だわ
おかげで衣装案が完成してしまったし
Trickstarがメインのライブ企画まで
作ってしまった
よりにもよって…真緒をセンターにした
私が見たかっただけの企画書
こんなの、ファンタジーものね
まるで真緒が王子様で
私がお姫様みたいな企画だわ
……もうそんなこと叶うはずないのに
だとすればこれは、お姫様があんずちゃん
もしくは、ファンの子かしら
どちらにしろ、私ではない
そもそもこの企画書が通るかもわからないし
なにより真緒に嫌がられそうだわ
『…私の夢ね、これは…ゲホッゲホッ』
それに咳き込んだ時に出る、この血は
一体なんなのだろう…
…16時になる
窓の外を見たら、今日もやってくる
真緒の姿。来るのはこの病室じゃなくて
上の階に入院しているあんずちゃんの所
私のことは知らないはずだもの
…知ってても、来ないかしら
『………もう、涙なんて出ないわね』
全部、出し切ってしまったのかしら?
そう思いながらノートを開いて
また日記をつける
『…今日も真緒は、あんずちゃんの元に
向かったと思う。本当は来てほしい
…って、何書いているのかしら私』
それでもペンは止まらなくて
殴り書くように思いが溢れた
『…真緒と話がしたい、会いたい
声が聞きたい、あの優しい声で
名前を呼んでもらいたい。
もうどれくらい呼んでもらってないかしら
分からないけれど…真緒の声が恋しい
…なにこれ…まるで諦めの悪いまさに
悪女そのものじゃないの〜!!!』
そう思うが破ることも消すことも
出来なくて、そのままノートを閉じた
ポーっと真緒との思い出や、出来上がった
企画を脳内で映像にしてみる
ー「♪♪〜」
良かった。まだ、わかる。
真緒の歌う姿、輝く姿がきちんと描ける
そう思い思わず頬が緩んだ
ー同時
『っ………ゲホッゲホッ』
突然、意識が混濁する
経験したことの無い冷や汗と痛み
本気で不味い、これはきっと不味い奴だわ
ナースコールをギリギリ押したところで
そのまま意識を手放した
☆*。
「……入るぞ〜。あんず」
「………」
1ヶ月半、毎日あんずの元に通う
その日にあったことを話したりするが
あんずは目を覚まさない
「もう1ヶ月半だってさ、あんず
早く目を覚ましてくれよ…
結羅が1人だと大変そうでさ…
あいつ無理しがちだから………あ…
ごめんな、お前からしたら、自分を
突き落とした本人だよな」
気を抜いたら付き合ってた彼女の話
彼女を心配する話をしてしまう
否定して欲しかった
何がなんでも違うって
けれどあいつは途中で諦めた
それに凄く腹が立って…別れて………
ここ1週間近くは学校にも来てない
体調不良だと言っていたが、もしかすると
プロデュースが疲れて休んでいるのかも
しれない。時々サボるのもあいつの
特徴だったりするからな
「結羅があんずを突き落とすとか
なにか理由があったんだよな」
そういったあとの出来事
「…ど、ういう…こと?」
「!あんずっ、目が覚めたのか!?」
聞こえた声に反射で顔をあげれば
眠っていたプロデューサーは目を開けて
俺を見つめていた
「…どういう、こと?結羅ちゃんが
私を、突き落としたって…」
「見てなかったのか?結羅があんずを
階段の上から………」
そこまで話したあと
あんずの言葉に俺は言葉を失った
☆。.
ー「私を、突き落としたのは普通科の人だよ…
確かに髪型や背丈は…結羅ちゃんに
似てたけど……顔もはっきり見たし…
結羅ちゃんは何もしてないけど…」
ー「っは………」
やってしまった
彼女はずっと無実を訴えていた
違うって、何度も言っていたではないか
「…っ…謝らねえと……」
急いで結羅の家に向かおうと
あんずに一言伝えて病院を出ようとした時
目の前から担架と大勢の看護師さんが
走ってくる
急患の人だろうか?
そう思い横にずれて道を開けた瞬間
ー思考が、停止した
「桜庭さーん!桜庭結羅さん!
聞こえますかー?!」
「桜庭さーーん!聞こえてたら手を
握ってくださーい!ちょっとの力でも
大丈夫ですよー!」
「ダメです先生、意識が戻りません!」
通り過ぎた瞬間に聞こえた看護師の声と
見えた患者は
「っ………ゆ、うら…………?」
俺の、好きな人だった
急いで担架を追いかける
反射だった。違うと言って欲しかった
俺の見間違いだと思いたかった…のに
「っ結羅!!!!」
『…………』
「……ゆ、うら……………」
「貴方、桜庭さんのご友人?
今から緊急治療に入るの…良ければ
ここの椅子で待っててくれるかしら?」
「っは、はい…………」
どうして?なんで結羅が
ここに居る?なんで病院用の寝巻きを
着ていたんだ?1週間、何してたんだ?
そんな疑問ばかりが出るが
あいにく答えてくれる人はいない
パニックになる思考を落ち着かせつつ
ベンチに座って扉が開くのを待った
「はぁっ、はぁっ…結羅!!」
「!!!」
「先生、娘は、娘はっ………!!」
走ってきたのは、俺も何度か
会ったことがある結羅のご両親
お母さんが神妙な面持ちで医者の肩を
掴むが、先生は何も答えてくれない
「………いつ目を覚ますかどうか…」
「っ…そ、んな………」
どうして、なんでだ?どうしてこうなった?
分からない、分からない
「っ…お母さん…」
「!!!真緒くん…来てくれたの!?
娘も喜ぶわ…!先生、娘に会うことは…」
「可能ですよ。意識はありませんが
それでもよろしければ…」
「…あわせて、ください」
真っ先に声を上げたのは俺だった
先生はじっと俺を見つめると、
そのまま病室の前から立ち退いて
「どうぞ」
悲しげに、そう言った
.。o○
夢を見ていると分かっている
学院の中にいて、ガーデンテラスを散歩
後ろからわっ、と驚かされて
振り返ったら楽しそうに笑うスバル
反対側の肩を叩かれて振り向けば
優しく微笑む北斗
後ろから足音がして、振り返れば
息を切らして走ってくる真
3人と笑ってると、ガーデンテラスの先で
声が聞こえた。愛しい愛しい人の声
最近聞いてなかった私の名前
彼の優しくて甘い声で、聞こえるの
ガーデンテラスの先を見つめたら
-「結羅!おいで!」
両手を広げて、真緒が待っている
『夢、ね………』
-「結羅?」
『夢よ…こんな幸せな気持ちは夢……
彼はもう、そんなふうに私を呼ばない
そんな眼差しを私に向けないの』
-「…………」
『………でも、夢でもいいから聞きたいわ
…ねえ、真緒………』
-「なんだ?」
『私の事……好きだった?』
-「………」
音もなく、ただ見つめ合う
どのくらい経っただろうか
目の前にいる幻の彼は
-「今もずーーーっと!好きだぞ!」
『!!!!』
私の大好きな笑顔で、そう言ったの
同時に手に温かさを感じて
ゆっくりと目を開けたら
「結羅、結羅…!!!
俺がわかるか!?」
なんて、荒らげた声を出す真緒がいた
…病室に来てくれるなんて、夢みたい…
これも幻なのかしら……
ぎゅっと手を握れば確かに存在を感じて
現実だと実感する。でも…もういいの
最期に見た人が、愛しい貴方で…
私は………
『………………』
「……………ゆ、うら………?」
私は………きっと幸せものね
☆*°
無機質な機械音の中で眠る好きな人を
見る日が来るなんて考えてなかった
そんなことあるはずないと思ってたのに
「結羅」
あれから3日
あんずも次第に体調が回復して退院間近
それでも俺は病院へ来る日課が変わらない
…大切な人が、そこにいるから
「…………早く起きてくれ…謝りたい…
勝手に決めつけてごめん…酷いこと言って
傷つけてごめん…お前が嘘をつく時は
いつだって優しさがあったのに
………素っ気ない態度とって、ごめん」
何度謝っただろう
何度彼女の手を握って、鼓動をきいて
まだ生きてる、と安心しただろう
薄く聞こえる寝息が、どれほど俺を
落ち着かせてくれただろう
そんなの数えてなくて分からない
「結羅………」
一言、名前を呼んだ瞬間
僅かに俺の手が握り返される
反射で彼女の顔を見たら
『………』
「結羅…結羅!!!
俺がわかるか!?」
うっすらと開かれた綺麗な瞳を見つめて
俺は少し声を荒らげる
慌ててナースコールを押した時
『……………』
「………結羅?」
-ぎゅっ…っと
1回大きく俺の手を握った。同時に笑って
『………………』
「……………ゆ、うら………?」
泣きながら、幸せそうに笑って
…………再び目を閉じた
聞こえてくるのは…機械の一定音だけ
「あ、ぁ…結羅…結羅っ!!」
俺はこの日 生まれて初めて
後悔の念に囚われて、悔やむことしか
できないまま、最愛の人を目の前で亡くした
「…」
「あ、真緒ちゃん…」
「委員長…」
「おはよ」
-『あら真緒。おはよう』
「!!!」
声が聞こえて彼女の席を見ても
花瓶に添えられた花しかない
「………また、聞こえたん?」
「ああ…ダメだな、俺も。ずっと聞こえる
…信じれなかったから、あいつがずっと
呪ってるのかもなっ」
そう言って笑ってみるが
きっと笑えてないだろう…なにより
彼女が亡くなったあの瞬間からずっと
涙が出てこない
感情がぽっかり無くなったような
そんな気分で過ごしてた
今日もまたそんな一日が始まると思った時
「衣更、来ているか?」
「北斗?どうしたんだ」
「Trickstar宛にライブの企画が来た
お前をセンターにしたい演出でな」
「お、まじか!どんなのだ?」
「放課後に話したい。だから今日は
予定を空けていてくれないか?」
「おう!わかった」
その企画がどんなものか…
☆*°
「こ、れ………」
俺は放課後、すぐに知ることになる
退院したあんずから渡されたのは
少しシワになった企画書
目を通してすぐに分かったんだ
「結羅が…企画、したのか?」
「ああ。入院中に書いていたらしい
…衣更、お前のための企画書だ」
「お、れの………」
目を通したら凄くわかりやすいものだった
Trickstarが王子様で、お姫様に向かって
歌を届ける演出…Knightsとは似て非なる
オリジナルの企画書……それにこれは
……こんなの…………まるで…
「結羅の…願いみたいだ」
「きっとそうだろう。衣更、センターは
お前という要望だ。引き受けてくれるか?」
北斗の声に、俺は勢いよく頷いた
「当たり前だろ!」
☆*°
今までにないくらい練習した
残れるだけ残って、やれるだけやった
しばらくしてから衣装が出来上がって
袖を通してみることになったんだけど
「わぁ!サリ〜!魔法使いじゃなくて
本当に王子様だねっ!」
「うんうん、すごく似合ってる!」
「ほんとか?ありがとな〜
なんか俺もすっごいこれ好きなんだよ!」
「うむ。衣更にピッタリの色合いだ
流石あんずだな」
そういうとあんずは苦笑いする
何か理由がありそうだったが
深く詮索はせず、レッスンは続き
本番を迎えることになった当日
「皆さん、ごめんなさい!」
本番一時間前に、あんずが突然
謝り始めた。何かと思い4人で目線を
合わせていると
「………これ、この衣装の企画書です」
試着しただけのあの衣装の企画書が
…少し、汚れた状態で差し出される
……………まさか、と思い駆け寄ると
「っは…………」
-"ここはピンクのストーンを使う!
真緒の色に近いピンクじゃないとだめ!"
-"ここは白で、シルエット重視
(ただの私の願望だけど)"
「…隠してました。本当はこの衣装
結羅ちゃんが考えたものなんです」
テーマは…
"私の大好きな王子様と輝く星たち"
「……………」
「…マセマセが…………」
"ここはオレンジ!キラキラ!
スバルが目立つように!"
"青と赤のバラを入れる!青多め!
北斗は青が似合う"
"緑のレースを使う。少し青を入れて
真のイメージをアピールする"
「…桜庭…………」
「結羅ちゃん………」
「…自分自身の衣装も考えてたみたいで
…私、こっそり作ってみました……」
トルソーに着せられた白いドレス
所々散りばめられた黄色の星々や
ピンクの花びら。広がったシルエット
そっか、そっか………どうりでこの衣装に
「どうりでこの衣装が……好きで、愛しくて
たまらないわけだ……っ……」
「!衣更」
「サリ〜?」
初めて、初めて涙が出た
どうして涙が出なかったか分かったよ。
ずっと…結羅が居なくなったことを
認めたくなかったんだ
まだ生きてるって、信じたかったんだ
俺の衣装の隣に飾られたドレスを見て
涙があふれる。もし生きていたら
これを着て
-『真緒!どう、似合うかしら!』
きっとそう、笑ってくれたんだろう
叶わなくなったのは、自分のせいなのに
信じてやれば、そばに居てやれば
事故に遭うことも無かっただろう
臓器が傷付いたりすることも無ければ
ああして命尽きることも無かったんだ
生きることを、諦めなかったはずなんだ
亡くなった後に全て聞かされて
何度そう思っただろう
「…衣更くん、これ…結羅ちゃんの
日記です」
「…………」
-今日も真緒は、あんずちゃんの元に
向かったと思う。本当は来てほしい
-真緒と話がしたい、会いたい
声が聞きたい、あの優しい声で
名前を呼んでもらいたい。
もうどれくらい呼んでもらってないかしら
分からないけれど…真緒の声が恋しい
-真緒はちゃんと寝てるかしら
私はこんなに寝ているのだから、少しは
睡眠時間を分けてあげたいわ
-病室に1人は暇ね。それに寂しいわ
真緒が居たなら、少しは楽しいだろうに
-そもそも入院したことを伝えていないわ
学院の誰も来ないのは当たり前
それでもどこか、来ないことに真緒は
心配してくれたりしないかしら
きっともう、無いでしょうけど
-真緒、どれだけ大きな喧嘩をしても
どれだけ貴方に嫌われても
私は真緒のことが好きみたいだわ
重たい女ね。これを知ったらきっと真緒に
もっと嫌われちゃうわ
「………結羅……………」
衣装を抱え込んで、力なくしゃがみ込むと
糸が切れたように涙と声が溢れた
「…ああああああああぁぁぁっっ!!
結羅、結羅っ!!」
-なによ真緒〜
声が聞きたい
-嘘に決まってるじゃないの〜!!!
これも嘘だって言ってくれ
-もう少し、一緒にいたいわ
ああ、俺もそう思うよだから
「ごめん、ごめん…信じてやれなくて
ごめん…っ…寂しい思いさせてごめんっ」
どれほど叫べば、ここにいない愛しい人に
この声が届くだろう
「衣更くん…」
「サリ〜」
「俺が、俺が信じてやれたら!!
あんなことにっ、ならなかったんだ…」
「それは違うぞ衣更。お前のせいでは」
「俺のせいなんだよ!!!!!」
全部そうだ
俺が…俺がちゃんと…………
「…衣更くん。自分を責めても
結羅ちゃんは戻ってきません」
「!!!あんずに…あんずに何が
分かるんだよ!!!俺と結羅の!
何が!!俺たちの思い出や記憶の!
何がわかるって言うんだ!!」
「分かりません!!元はと言えば、私が
突き落とされさえしなければ誤解すら
生まれなかったんです!!!でもっ!
起きたことはなかったことに出来ない…」
「っ………」
そうだ。あたりまえだ
過去は変えられない。死んだ彼女が
生き返ることは無いんだ
「衣更、お前ができるのは
この衣装で精一杯パフォーマンスをすること
じゃないのか?」
「!!北斗…」
「そうそう!マセマセもぜーったい
見に来るよ!」
「スバル…」
「衣更くんが格好いいところ見せなきゃ!」
「真…」
「…結羅ちゃんのために
…パフォーマンスしてあげてください」
…そう、だよな…
「ごめん、あんず…言いすぎた」
「いえ、大丈夫ですよ」
全力でパフォーマンスして
最高のライブにしなきゃ
「最高に盛り上げねえと…
大好きな結羅に怒られちまう」
4人が俺を見て、満足気に笑った
☆*°
衣装を着て、スタンバイをする
トルソーに着せられたままのドレスを見て
俺は苦笑いした
「絶対似合うんだろうなあ、これ」
見てみたい、なんて願いは届かないけど
「…ありがとな、結羅
この衣装、俺すっげー気に入ったよ
お前の好きなものも全部入ってるよな!
まさに欲望そのものって感じ?
なのにこんな上手くまとめてさ?
やっぱ結羅はすげーよ!
それにお前のドレスもすっげ〜綺麗
あとさ、お前の好きな色、俺の胸元の
ブローチにしたり、逆に俺の色を
そうしてドレスに散りばめたりさ?
独占欲強めって感じだよなあ♪
…好きだよ俺、そういう結羅のセンス」
優しくドレスを抱きしめて
衣装に顔を埋める
「………お前にずっと貰ってばっかだ
俺は何も、与えられなかったのに」
ダメだな、俺
ただの不器用じゃないか
「今日からまた出直しだ
お前に似合う男になるためのさ!
…お前はもう、俺の事嫌かもしれないけど」
「そんなことないと思うよ!」
「!スバル…」
振り返れば皆が俺を見て笑ってる
「マセマセは待ってくれるよ!」
「ああ。衣更がいない時も、常日頃から
衣更の話をしていたくらいだ」
「結羅ちゃんならずっと!
衣更くんのこと待ってくれると思うよ」
「………そう、かな」
そうだといいな
「皆さん、スタンバイお願いします!」
全員で舞台に立って歌って踊る
楽しんで、笑顔を届けて
沢山歌って沢山幸せを届けて…
「いぇいいぇーーーい!楽しんでる?」
「俺たちのライブも終盤だ
是非とも楽しんでいってほしい」
あったまってる会場を見渡して
また次の曲が始まった時
「………っは…」
「?サリ〜どうしたの?」
「衣更くん?」
呼吸が止まった
思考が止まった
俺の目線の先に
いるのは
ー『…真緒〜!!』
「結羅が、ライブに来てる…」
「え、マセマセが!?」
「衣更、見えるのか!?」
伴奏からの歌い出しで止まる
会場が少しザワつくが
曲のイントロは止まらない
誰かがどこかから歌に入るしかない
そんなこと関係なく俺はただ叫んだ
「っ…結羅!!桜庭結羅さん!」
「い、衣更くん…マイクがONだよ!」
「いいのいいのウッキ〜!
サリ〜のプロポーズなんだから〜!」
溢れ出る涙を瞬きで落とせば
目線の先にいる結羅は笑った
ー『真緒!似合うかしら!』
ああ。応えてやらないと。
「似合ってるよ!」
誰よりも輝いてる
ここにいる俺よりもずっと輝いてるよ
その姿は、思ってた以上に
「…可愛くて綺麗だ!!!」
そう伝えたら結羅は笑って
ー『ありがとう!私もね、真緒のこと
ずーーっと、愛してるわよ!』
その笑顔ほど、愛しいものは無いだろう
「…!声、が…」
「氷鷹くんも!?僕も聞こえたよ!
結羅ちゃんの、嬉しそうな声!」
「マセマセ〜!!」
全力で手を振って、笑って返す
瞬きを1つすれば少し彼女の姿が透明に
なっていて。瞬きをしないように
必死に目を凝らして笑った
「結羅、ありがとう!いつも
俺のそばにいてくれて!支えてくれて!
ずっと、ずっと好きだから!!」
ー『…………〜』
ごめん、結羅
お前の声が聞こえないよ
聞きたいのに、愛しい声なのに
そんな結羅の声が聞こえないんだ
でも大丈夫だ。口元を見れば分かるよ
ずっとお前のそばにいたからさ
「っ……幸せだよ!!」
ー『真緒、私と居て幸せだった?』
誕生日はケーキを食べよう
乾杯してさ、おめでとうって言おう
年を一緒に越そう。あけおめって言おう
先輩達の卒業、一緒に見届けよう
海に行こう。花火も一緒に見に行こう
体育祭、次こそ勝とう。
借り物競争で好きな人が出たら迷わず
結羅の所に行くよ
ハロウィンは仮装しよう。お菓子持って
学園祭をまわって楽しもう
クリスマスは一緒に過ごそう
イルミネーションを手を繋いで見よう
だから……だからお願い
「……逝かないで…」
「衣更くん……」
〜♪♪
「…!スバル…?」
「頑張ってきたこと、誰よりも知ってる」
「!!…それでも、譲れない
ものがあるってことさえ」
………虹色の…
「っ…別に、構わないさ…
【目指す星は、おなじ】…………」
「だからねっ…揺るがない…
絆に…なっていく…っ!」
離れていても、目指すものは同じだ
完全に、離れ離れじゃない
気持ちはずっと、繋がってるんだ
ー『………〜!!』
「結羅…!!」
ー『……えへへっ』
ほら、満面の笑顔で
「っははっ!!」
【君】がピースして笑うから
俺もピースして笑い返したんだ
活発で、スバルたちとワーワー騒ぐような
タイプではなかったけど、それでも…
それでも俺はそんな彼女に惹かれた
そんな彼女がこれ以上ないほど
笑ってるから、愛しくて、触れたくて
「っ…………!」
ピースした後…しがみつくように
彼女に手を伸ばした
ひとつ瞬きをすれば、もう既に
【結羅】はその視線の先にいなくて
勿論手は空気を掴むだけだったけど
「っし…みんな、後半も行くぞ!」
俺は涙をふいて、衣装の裾を翻した
☆。.:*・゜
でもどれだけポジティブになろうとしても
強く居ようとしても
自分の気持ちや後悔は消えない
俺が信じてやれなかった
助けてやれなかったことに変わりはない
冷たい態度を取って、厳しい言葉をあびせて
レッスンのアドバイスだって聞かなかった
「…結羅」
ライブ後、教室に戻り
結羅が座っていた椅子に腰掛ける
机の真ん中に置かれた花瓶をそっと退けて
あんずから貰った今回のライブの企画書と
衣装案の紙を優しく抱きしめて
そのまま机に伏せると
「……一緒に、生きていたかった」
ありえないほど都合のいい言葉を口にして
そのまままた溢れてくる涙を抑えず
机の上に雫を落とした
明日もまた、彼女を想って
俺はひとりで泣くんだろう
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